26 俺はこうする、返事はいらない(迫真)
バッと振り返ると、そこには少年がふんぞり返っていた。
「やぁやぁあんちゃん、さっきぶり! ヒジリオ様ゆうんは嘘やなかったんやなぁ、いやぁ、気絶された時はどないなるかと思うたけど、無事に壁をぶち抜いてくれはって安心したわ! ありがとうなぁ!」
「え?」
「ちょっとアンタ! なにしれっと仲間みたいな感じになってるのよ!」
「まぁまぁ、説明は後でしたるさかい、今は――」
と、ピットは彼の身の丈ほどもある大きな杖をくるりと回して、
「――アイツの足止め、やろ?!」
カンッ! と地面に突き立てた。
瞬間、そこを中心に金色の光を放つ魔法陣が広がった。ゲームでよく見るヤツだ……やっば、カッケェ!
「いっくでぇ……! 『ウチは夜明けの担い手やさかい、ちんたらせんと云うこと聞きや! 聞かんならケツの穴から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ云わしたる!』」
詠唱、というよりは脅し文句が墓地に響き、魔法陣から半透明の白い影がゆらりと立ち上った。女性のような姿をしたその影は、二つ、三つと連なって、ピットの周りをふわふわと回り出す。
ベスターが唖然とした様子で「ウソでしょ、森霊を三体も……?」と呟いたのが聞こえた。どうやらすごいことらしい。
「『目標はあんクソジジイや! さぁ、行き!』」
ピットが振り上げた杖に従って、三つの影はふわりと宙を滑り出した。
それほど速いようには見えなかったが、コンビネーションがすさまじかった。墓碑の上をひょいひょい跳び回っていた猿のような人影を、あっと言う間に取り囲んで退路を断つ。
そしてその絶好の隙を、逃すようなベスターではない。
「今や!」
と、ピットが言った時にはすでに矢は放たれていた。
空を裂く鋭い音が響いて――
「グオ、オァァアアアアアアアア、アアッ……!」
元凶がぼろぼろと崩れ落ちていくのが見えた。
屍術士とかいうやつが消えた途端、曇天は晴れ、ゾンビたちはぴたりと動きを止めた。動く屍たちは返事をしない屍たちに戻ったのだ。よしよし、これがあるべき姿だよ……まったく……。
俺はふと思って、剣を納めたハンクスに聞いた。
「なぁ、これって、このまま放置?」
屍術士の操作から解放された死体たちは、俺たちの周りに散らばったまま、燦々と降り注ぐ日の光を浴びている。お天道様のおかげでだいぶ恐怖は緩和されているけど、死体に囲まれる昼下がりってなんか嫌だな……というか罪悪感が半端ない。いや俺が悪いわけじゃないんだけど。
まったく、後片付けまでちゃんとしていけよな!
俺の表情を汲んだように、ハンクスが小首をかしげた。
「……埋め戻すか?」
「えー、そないに面倒なことせぇへんでも、構わんで」
白い影を呼び戻したピットが頬を膨らませた。
「どーせこの村、疫病で全滅しとったとこやし。あ、病気自体はずっと前の話やから、もう移らへんから安心したってな。せやから墓参りしようにも誰もきぃひんし、荒れとったところで気する人は誰もおらんよ」
「え、じゃあなおさら駄目じゃん」
「はぁ?」
ピットは細い眉毛ではっきりと『何言うてんねやこの人は?』と言った。
「何言うてんねやあんちゃん?」
口にも出した。素直だなー。
「いやー、だって、そしたら俺らが放置していったら、この人たちはずっとこのまま野ざらしになるってことだろ? 病気で死んでゾンビにされた挙句に野ざらしって……俺だったら絶対に嫌だし」
「はぁ……」
「名前は分からないから本当に埋めるだけになっちゃうけど……いいかな?」
急ぐ旅じゃなかったはず。確認をこめて聞いてみたら、ハンクスとベスターは「ああ、もちろん」「優しいセイリュウちゃんがそう言うなら」と即答してくれた。
よーし、そうと決まったら――
「……なぁベスター、手袋の替えってあったっけ?」
「布ならある程度あるから、一枚間に挟んだらどうかしら?」
「ありがと……そうする……」
言い出しっぺが死体に触りたくねぇとか言えねぇもんなぁ……!
「腰が引けてるぞ、セイリュウ」
「仕方ないだろ! 俺の世界じゃ死体とはご縁が無いんだから!」
「平和でいいわねぇ」
「いや、まぁ、地域によるけど……」
なんてごちゃごちゃ言いながら死体を土の下に戻していく。
ゾンビにさせられて大変だったな……ハンクスに斬られた死体はバラバラになってるし、ってうえっ、やべっ、見なきゃよかった、吐きそう……。
「どうか安らかに眠ってくれますように……」
俺の顔色はたぶん真っ青だったと思う……おえっ……。




