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22 いっそ牛裂きの刑の方がよかったかもしれない。いや嘘。嘘ですごめんなさい。


 俺のおかげで無事に偽物を始末できたのに、ハンクスに殴られた。理不尽だ……。


「セイリュウちゃん、ハンクスちゃん!」

「ベスター!」

「そっちはダイジョーブだったかしらぁ?」

「うん、平気。ベスターは……――」


 詳細を聞こうとした瞬間、うふ、と微笑まれて問いを飲み込んだ。これは詳細を聞いてはいけないヤツだな!


「――うん、無事で何より!」

「ありがとセイリュウちゃあん! ホンットーに優しくっていい子ぉ~!」

「いでででででででっ、ハグという暴力!」


 熊に抱き締められた気分だった……されたことないけど。


「おい。状況は好転してないぞ」


 ハンクスの冷静な声に周りを見れば、霧に覆われたままである。ミルクのような霧、ってこういうののことを言うんだな……マジで、数十センチ先も見通せない。


「こういう時ってどうすんの?」

「う~ん、アタシ程度の使える魔法じゃ、これを破るのは無理ねぇ。すっごいやり手だったみたいだわぁ、さっきの子」

「固まって動かないでいるのが一番安全だな。危険な方向に誘導されたら敵わん」

「了解」


 ハンクスの言うことはもっともだ。だから俺は右手にハンクス、左手にベスターの袖を掴んだ。


「……セイリュウ、お前、その状態で俺たちが同時に動いたらどうなると思う?」

「ベスターの袖が引きちぎれる」

「ヤダ、セイリュウちゃんのエッチ~」

「いやー、だってハンクスの服の方が耐久力ありそうだし」

「こういうのは耐久力うんぬんよりどっちが脱いだ方が面白いかに軍配が上がるものよ?」

「確かに……それでいくとハンクスの方が面白いか」

「おい、お前ら、何の話だ」

「普段から半裸になっとくとこういうとき便利なのよねぇ」

「え、ベスターってそのために露出度高めにしてんの?」

「ンーン? これはね、趣・味」

「マジか……」

「露出狂……」

「冗談よぉ! 本当はねぇ、これが盗賊の伝統衣装なの。周りへの警告を兼ねてるってワケ。この服装見てそれでも絡んでくるなら覚悟してネ、ってこと。あと、肌を出しておいた方が怪我したとき分かりやすいし、処置も簡単だし、汚れも減るわ。洗濯も楽だし、大勢で統一する時にも金がかからないし。貧乏人だからこそ、そういう細かいところには気を遣わなきゃいけないのよ。それに、森の中は湿気が多いから、ハンクスちゃんみたいな分厚い布だとかえって体に悪いの。虫の類は魔法で避けられるから問題ないし」

「いや最初からそう言えよ!」

「というか、掴むなら服じゃなくて手の方がいいんじゃないか?」

「は?」

「え?」


 俺とベスターは揃ってハンクスの方を向いた。

 堅物な騎士様は至って真面目な顔で、片手を差し出していた。


「腕ならちぎれないだろう?」

「……いやハンクスならやりかねない」

「俺の反射神経をなめてるのか。そうなる前に放せる」

「それもそうか」


 ごもっとも!


「でもなぁ、ハンクス」

「なんだ」

「……この歳で成人男性と手を繋ぐのはちょっと――だいぶ――かなり――キツイ」

「……たぶんそういう話でないことは分かっているが、俺はまだ成人してないぞ」

「はぁっ?!」


 嘘だろ?! いやだってハンクスの顔って、どう見ても二十数歳の感じ……!


「この国の成人年齢は二十歳だ。俺はまだ十八」

「え、でも、酒――」

「家庭内であれば十六から飲んでいいことになっている」

「はぁ……はぁあっ?!」


 あっ、だから騎士団では飲んでたのにビオうんちゃら辺境伯のところでは何も飲んでなかったのか……じゃ、なくて!


「ええ……六つも下だったわけ……?」


 思わずつぶやくと、ハンクスも「六つ?」と顔を歪めた。


「セイリュウ、お前、それで二十四なのか?」

「これで二十四だよ。喧嘩売ってんのか」

「てっきり同年代だとばかり……」

「セイリュウちゃんって童顔なのねぇ。アタシももう少し下だと思ってたわ」

「俺の世界では標準だからこれ!」


 なんてわちゃわちゃ喋っていたら、


「あんちゃんら、呑気やなぁ……」


 ピットの声がどこからともなく響いてきた。


「状況ほんまに分かってはる? ここは魔術師の霧の中やで」


 霧のせいか、その声は不気味に反響していて、どこから聞こえてくるのか分からなかった。

 ハンクスもベスターも口をつぐみ、俺を背中で挟むようにしながら武器を構える。


「あんたらを生かすも殺すもボク次第や。なんや、ヒジリオ様に恨みはないけど――」


 その言葉にハッとする。

 俺のことを知っててわざと接触してきたのか!


「――ヒジリオ、ゆうなら、きちんと仕事してもらわなあきませんなぁ」

「し、仕事……?」


 異世界にいる時ぐらいそういう響きとは無縁でいたかったんだけどなぁ、などと言っていられる状況でないことは分かっている! 現実逃避だよクソッ!

 だってさっきから嫌な予感がビシバシしてるんだ!

 なにかこう……嫌だなぁ、怖いなぁ、って感じの、冷たいものが背筋に……っ!


「せやで、ヒジリオ様。あんちゃんがほんまにヒジリオなら、この程度の不浄は簡単に祓えるよなぁ?」

「ふ、じょう?」

「お気張りやす~」


 その言葉を最後にピットの声は途切れ――


 ――代わりに聞こえてきたのは、不気味な呻き声だ……。

 明らかに人間の声帯なんだよなぁこれ。何度聞いても獣っぽさは感じられない。起き抜けの俺の声を数百倍に増幅した感じ。


「……嫌な予感がする」


 冷や汗を流す俺とは裏腹に、ハンクスとベスターは至って冷静だった。


「この声はアレだな」

「そうね。アレね」

「……一応聞くけどさぁ、“アレ”って何?」

「見ての通りだ」


 ハンクスがついと顎で示した先を見る。嫌だったけど見た。


 腐った手足を引きずる人間。

 目は無い、あるいは飛び出てぶら下がっている。

 強い腐臭が鼻についた。

 抜け落ちた歯の隙間からは呪いのこもった呻き声が。


「徘徊する死者よ」


 ベスターの声が聞こえたのを最後に、俺は速やかに意識を失った――




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