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世話焼きベスター‐1

 

 聖女なんておとぎ話の存在だと思っていた。


(まさか本当にいるなんて……)


 語り部だった祖母が、何度も聞かせてくれた夢物語。

 その中に繰り返し出てきた、世界を救うために魔王に立ち向かう聖女。

 彼女が笑えばすべての人間が味方になり、彼女が泣けばすべての傷が癒え、彼女の口づけはすべての悪を退け、彼女の魂は魔王すら打ち滅ぼした――


(――……男、っていうのには驚いたけど)


 でもそれはそれで面白いし、この方がアタシ好みだわ、とベスターは思うのだ。


 聖女改め聖男(ヒジリオ)――森の中であるにもかかわらず、何の心配もなさそうに眠りながら、口の中でもごもごと寝言を呟いている優しそうな青年。

 守りたい、と思う気持ちはヒジリオの生態的特徴(パッシブスキル)によって植付けられた偽物だ、と言われたが、そんなことはベスターにとってどうでもよかったのだ。


 正直、世界が滅びるとかなんとか、そういうこともどうでもいい。

 最近の魔物の多さにはちょっと辟易していたが、生きるのに苦労はしていなかった。


 でも――


(聖女とそれを守る騎士……最っ高にロマンチックじゃない? 一番近くでずぅっと見ていたいわぁ~)


 思わずにやけてしまうぐらいに、ベスターはその手の話が好きなのだった。


 それをリアルタイムで見られるなら。

 その上、仲間として一緒に旅が出来るのなら。


(物語の聖女にだって盗賊の仲間がいたんだし……アタシだって交ざってもいいわよね?)


 偽物の感情だろうと世界が滅亡しようとどうでもいいのだ。


(だってアタシは盗賊だもの。自分の好き勝手に生きるのが生き甲斐なのよ)


 セイリュウの寝言が段々大きくなってきて、いよいよ放っておけなくなった。

 ベスターはちょっと笑いながら、彼の肩に手をかけた。


 ☆


「ここなら安心して泊まれるわよ~。値段もお手頃だし」

「「おお~ありがとうございますベスター様!」」

「ウフフ、どういたしまして」


 神官だというなら金もそこそこ持っているだろう。それなら、ビオストリオ辺境伯の息がかかった闇雲に高いだけの宿より、知り合いがやってる値段も品質も相応のところに来てもらった方が都合がいい。

 それに、ベスターにはちょっとした目的もあった。


「……ところで、神官ちゃんたち?」


 本題を切り出そうと見下ろす。

 と、まったく同じ三つの顔は、まったく同時にベスターを見上げて、口々に言った。


「ヒジリオ様のことですか?」

「ハンクス様のことですか?」

「それとも辺境伯のことですか?」

「アラ~、話が早くて助かるわぁ。それゼ・ン・ブ」

「そんなことだろうと思いました」

「ところで僕ら、今ちょーっとお口が錆び付いてるんです」

「美味しいお肉で油をささないと、回りそうにないですねぇ」

「よく言うわ、散々回してるくせに」


 なかなか抜け目のないチビたちだ。


(ま、アタシはこういう方が好きだけど)


 ベスターは「いい店があるわよ。ついてらっしゃい、神官ちゃんたち」とウィンクをした。



 聞きたかったことはそんなに難しいことではない。

 セイリュウがここに来るまでの話。

 ハンクスがどういう人間かという話。

 辺境伯に関する噂話で、意図的に神官たちが伏せていた話。

 肉の油で口周りをてらてらと光らせながら、神官たちはべらべらと喋った。


「――というわけで、辺境伯のおそばにいる美人さん」

「彼女は悪魔だろうと思われます」

「ぶっちゃけ、遠目にも瘴気駄々洩れでしたし」

「なんでソレ、セイリュウちゃんたちに言わなかったのよ……」


 ベスターの責めるような言葉もどこ吹く風。

 神官たちはけらけらと笑いながら、


「言ったところで避けては通れないでしょう?」

「だったら言わない方が楽しいじゃないですか!」

「それに、ベスター様が助けるおつもりでしょう?」


 と、まるですべてを見通しているかのようにあっけらかんと言った。

 図星を突かれたベスターは一瞬だけ硬直してから、ジョッキに半分ほど残っていたビールを一息に飲み干した。「いよっ、ベスター様!」「いい飲みっぷりですねぇ!」「ひゅーひゅー!」などと適当な合の手を入れる神官たちに、にっこりと笑いかける。


「そうよ。アタシがセイリュウちゃんを助けて――ついでに、あの強欲ジジイをぶっ潰してやるわ」

「いいですねぇ」

「見学しに行きますね」

「応援しますよ~」

「ありがとう。――ところで、アンタたち」

「「なんですか?」」


 ベスターの顔から笑みが消えた。

 銀色の瞳が狼のような鋭さを湛え、神官たちを睨みつける。


おとぎ話はどこまで真(・・・・・・・・・・)実なのかしら(・・・・・・)?」


 神官たちは一瞬の空白ののち――


「ごちそうさまでした、ベスター様」

「いいお店を教えてくださってありがとうございました」

「ヒジリオ様のこと、どうかよろしくお願いいたします」


 と、へにゃりと間の抜けた、先程までとまったく変わらない笑顔で席を立った。


 一人残されたベスターは、跡形もなく食い尽くされた空っぽの皿を冷たい目で眺めている――。




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