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今回は少しばかり短めです。
翌朝。いつもよりほんの少しだけ寝坊しながら、エリザベートは朝の支度を終えた。テーブルの上に置かれた昨晩の招待状が、あれは夢ではなかったのだと実感させてくれる。開封したことで欠けてしまった、封蝋のバラの印を指先でなぞると自然と頬が上がった。
招待状を手に取り、唇を寄せようとした、その時。ドンドンと乱暴にドアが叩かれ、エリザベートは思わず手に持っていたそれを、分厚い本のページの中に隠した。
返事を待たずして押し入ってきたのは、予想に違わぬ人物だった。
「叔父様……どうかされましたか?」
招かれざる客は、物々しい雰囲気でこちらに近づいてくる。そのいかにも横柄な態度に、エリザベートは眉を顰めた。
「エリザベート、お前に聞きたいことがある」
「え、ええ……」
「昨日、仮面舞踏会に行ったようだな」
その言葉に、エリザベートは体を硬直させた。まさか、もう知られていたとは思っていなかった。仮面舞踏会は、男女が一夜だけの恋愛を楽しむ意味合いもあり、夜会の中でもあまり印象の良くないもので。結婚の決まっている男女が行くべき場ではないとされていたため、叔父には参加することを伝えていなかったのだ。
「まあいい、あの場に行くのはいいとして……男と、逢引きしていたようだな」
エリザベートが息を詰める、ひゅっ、という音が静かな部屋に響いた。
「以前から怪しいと思っていたんだ。いろいろと調べさせてもらったが、あの男には良くない噂があるそうじゃないか」
そんな、分かっていて泳がされていたなんて、思ってもみなかった。あの幸せな日々は、全て管理された箱庭の中での児戯だったなんて。
「お前には婚約者がいるだろう。予定通りあの家と結婚してもらわないと私は困るんだ……しばらく夜会に出るのはやめなさい。衣装部屋のドレスは預からせてもらった」
「そんな!叔父様……!」
「お父様と呼びなさい」
「お、父……様……」
唇を噛んだエリザベートがようやくそう呼ぶと、満足した叔父はふん、と鼻を鳴らしてからうるさく足音を立てて部屋を出ていった。
失意に駆られながらテーブルの上の本を見る。震える手で招待状を取り出したそのページはちょうど主人公の結婚式のシーンだった。この世の暗いところなど何も知らないような、幸せに満ち満ちた文面を見て、それは所詮おとぎ話でしかないのだと実感したエリザベートは、伏せた瞳から一筋の涙を流した。
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