シュリーゲン伯爵邸にて
「ミレーナ様、ご招待頂きありがとうございます」
「エリザベート様。こちらこそ、よくお越しくださいました」
婚約者であるジャックにエスコートされながら会場内に入り、まずはミレーナとお互いに形式ばった挨拶をする。そして次の瞬間、2人は目を合わせてにっこりと笑った。
「リジー!会いたかった」
「そんな何年も離れていたみたいな顔しないで。1週間会わなかっただけじゃない」
「1週間よ!私にとっては十分長いわ!」
ミレーナは夜会の準備のため、最近は屋敷に籠りきりだったのだ。そのおかげもあってか素晴らしい会場が出来上がっていて、エリザベートは心の中でミレーナを誉め称えた。
主催者側であるミレーナは挨拶に回るのに忙しいみたいで。また後で、と声をかけて、エリザベートはミレーナのもとを離れたのだった。
シュリーゲン伯爵家の主催する夜会で、ミレーナの友人であるエリザベートのことを噂しようとする勇気ある者は居ないようで、いつもの夜会のよりかは幾分か居心地がよかった。ジャックも気を使ってか、珍しく初めの数十分ほどはエスコートをしてくれたし、1曲だけだけれどダンスも踊ることができた。まあ、その後の彼はいつも通りの流れだったのだけれど。
ジャックが消えてしばらくしたタイミングでエリザベートは群衆から離れて壁際に向かう。シリルとの約束のためだ。前回と同じく黒髪を探そうとするけれどやっぱり見つけることができず。また庭にいるのかしら、と外へ出ようとしたその時、背後から待ち望んだ声が聞こえた。
「エリザベート」
「シリル様」
丁寧にカーテシーを行ってからエリザベートはシリルに向き合う。
「私、貴方を見つける才能がないのかもしれません」
「どうしてだ?」
「だって、こんなに目立つ髪なのに……」
そこまで言ってエリザベートは失態に気づく。前回髪の話をしてシリルが微妙な反応をしていたのを思い出したからだ。すみません、と言うとシリルは気にしていないといったふうに一度首を振った。
ふと、エリザベートは複数の視線に気づく。なんだろうと辿ると、自分たちが好奇の視線に晒されていることが分かってしまった。婚約者のいるエリザベートが他の男と2人きりで話しているのだ。周囲が興味を持つのも当たり前のことだ。
「しまったな」
「……みたいですわ」
「バラ園だ。時間差でな」
「分かりました」
そうして反対の方向に別れて、ほどなくして。ようやく2人はバラ園にて落ち合ったのだった。
まだまだ数日おき更新は続きます。
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