出会い
大変長らくお待たせしました!
また更新再開していきます……!
「出かけようと思う。会わせたい人がいるんだ」
変化したこの身体にとっては明るすぎる昼間をなんとかやり過ごした夕刻、シリルは突如エリザベートの部屋を訪れるとそう言った。人間だった頃の昼中心の生活を捨て、夜に生きる生活にそろそろ慣れようかとしていた頃だった。
「はい。今からですか?」
「ああ」
そう言うシリルは、少し渋っているような様子だった。それが気になりながらも、エリザベートは素直に従いシリルに抱き寄せられる。目を閉じるとふわりとした浮遊感がした。収まってから目を開けるとそこには、こぢんまりとした屋敷があった。ブラッドリー公爵邸の大広間の中に収まってしまう程の規模の屋敷ではあるけれど、小さな庭園もあり丁寧に手入れされたバラが誇らしげに美しい花を咲かせていた。
「あら、来たのね」
ノックしようとする前に、図ったかのようにドアが開く。現れたのは、黒髪と赤目を持つ美女だった。身に纏う紫のドレスは、体のラインに沿ったシンプルなもので、彼女自身の持つ妖艶さを絶妙なバランスで引き立てていた。
「シリル。待っていたわ」
「ああ、久しぶり」
シリルを視界に捉えると彼女は、嬉しそうに笑った。
「ああ、瞳が赤になったのね……とても美しいわ。食べてしまいたいぐらい」
そう話す彼女の口の中には、人間よりも長い犬歯が佇んでいる。それによって、今のエリザベートやシリルと同じ、人ならざるものだと分かった。
彼女は愛おしげにシリルの頬に手を伸ばし、シリルの赤い瞳を食い入るように見つめている。
友人だと仮定したとしても距離感が近すぎるシリルとこの女性の関係性が分からないエリザベートは、頭の中が疑問符で一杯だった。
もしかしてヴァンパイアは一夫多妻制だったのか、とか、わざわざこの人のために屋敷を立てて住まわせているのか……など、さまざまな考えが頭をよぎる。
「こっちが、エリザベートだ」
シリルに紹介され、エリザベートはカーテシーを行う。
すると。
ふっ、と綺麗に紅が乗せられた唇の両端が引き伸ばされ、彼女は笑みを浮かべた。
「貴方が、シリルと結婚するお嬢さん、ね」
値踏みするような、些か不躾な視線を寄越され、居心地の悪さを感じる。
「おい、リジーに変なことを言うなよ……母様」
「え……!?」
シリルが彼女を呼んだ、その呼称を聞いたエリザベートは仰天した。なぜなら。目の前の女性は、息子がいるなんて思えない程若く見えるからだ。エリザベートと同じか、少し上だと言われても誰も疑わないだろう。やはりヴァンパイアは長命なだけあって、いつまでも若く見えるのかもしれない。
「あら、貴女なんだかすごく驚いた顔をしているわね」
シリルの母親――カーミラ・ラフェスキア、と名乗った――は訝しげに言う。
「お母様、なんですね……」
エリザベートは安心するとともに、緊張のようなものを感じて複雑な気分だった。
「私のことを何だと思ったのかしら?もしかして……シリルの妻その1、とか」
カーミラはからかうように笑いながら言うけれど、図星を突かれてエリザベートはうっ、と口ごもった。
「嫌だわ、私がシリルの妻だなんて」
「どういう意味だ」
カーミラの口ぶりに、シリルは不機嫌そうに言う。
「だって、私には愛するフランツがいるんですもの」
「年甲斐もなく惚気けるのはやめてくれ……」
「そんな、失礼ね」
まだ私は200年しか生きていないわ、とのカーミラの言葉に、エリザベートは自分の耳を疑った。
ヴァンパイアの規格外すぎる感覚に、とてもついていけそうにない。
エリザベートが少しばかり疎外感のようなものを感じ始めていると。
「あら、ごめんなさいね」
エリザベートの様子に気づいたらしいカーミラが詫びる。全然悪いと思っていなさそうに見えたことは、エリザベートの心の内に仕舞っておいた。




