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「それにしても、君の叔父とジャック、やはり叩いたら埃が出た」

「と、いいますと……」

「君の耳に入れるには心苦しい話なんだが……聞きたいか?」

どうやら君の父の死に関与しているみたいだ。シリルのその言葉に、迷いが出たけれど、エリザベートには受け止めなければならない義務感のようなものがあった。

「はい」

「そうか……。まず君の叔父は、もともとひどい借金にあえいでいたらしい」


それは聞いたことがあった。オレリアン伯爵家の後継者が父に決まってから、ジュストは土地を貰ってそこの管理をしていた。けれど、次第に賭け事に嵌ったジュストはその土地すら手放し、返す宛のない借金に苦しみ父の元を訪れて来る姿も見たことがあった。

「そこで目をつけたのが君の父親だったというわけだ。君の父は、海難事故で亡くなったと言っていたな?」

「はい」

「海外にいくように仕向けたのは、ジュストだ。そして、その時の船を手配したのは……ジャックだ」

それは、巧妙に偽装された事故だった。

ひゅ、とエリザベートは息を飲んだ。それを見て、シリルは苦しそうな顔をした。

「ジャックの……クレオドール伯爵家も、華やかに見えて実は資金繰りが苦しかったらしい。ジュストが伯爵家の財産を手に入れた暁には、リジーを嫁がせ持参金として多額の金を支払う約束を、ジュストから提案されていたようだ」

「そんな…………」

「すべてシナリオ通りに事が進んでいたわけだ。俺と君が、出会うまではな」

エリザベートはその場に泣き崩れた。受け止めなければならないと思って、聞こうとしたことではあるけれどあまりにも酷い真実だった。


「リジー……」

シリルの腕が背中に回り、抱きしめられる。薄い夜着ごしに、低めのシリルの体温が伝わってくる。

「こんな薄汚い話、君の耳には入れたくなかった。でも、君は知りたがるだろうと思った」

エリザベートの耳に囁くようにして、シリルが言う。心地よい声の低さを聞いていると、次第に心が落ち着いてくるような気がした。

酷い話ではあったけれど、ひとつだけ、救いと思えることがあった。今までの辛い日々は、自分の定められた運命だと思っていたけれど、実はそれは仕組まれねじ曲げられたものであったことだ。


運命は、回りくどかったけれどやはり最後には味方をしてくれた。今こうしてシリルといられることに感謝をしながら、エリザベートは瞳を閉じる。涙の残滓はぽろりと一粒だけ落ちて、シリルの黒いシャツをわずかに濡らした。


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