4
「ジャック様……おやめください」
どうやってここまで移動してきたのか分からないほどやつれたエリザベートは掠れた声を出す。
「は、はは……エリザベート……お前は今際の際でも、あくまでもこの化け物を庇おうとするんだな」
ジャックはエリザベートを刺してしまった衝撃に震えながらも、嘲った。
「ジャック様、私は……無理やり結婚させれましたけど、貴方と夫婦になろうと努力しました。でも、」
もう、終わりですね。エリザベートがそう話す間にも血は流れ続け、絨毯をどす黒く染め続けていた。
「エリザベート、お前は…………俺と夫婦になれると勘違いしていたんだな」
ジャックに投げつけられた言葉を聞いたエリザベートは、瞳に悲しみの色を浮かべた。
「……この際だからはっきり言っておくが、俺はお前のことはどうでもいい。お前に付帯する金が手に入ればよかっただけだからな」
ジャックはもはや何かが吹っ切れたかのように、すらすらと言葉の刃までエリザベートにぶつける。
絶望したようなエリザベートの瞳から、ぽろりと雫が零れた。
それを見たシリルは、ぶちん、と自分の中で何かが切れる音がした。
「この……屑が!」
シリルが吼え、ジャックに赤い瞳を向ける。皮肉にも、エリザベートによって、魔力を使うには最適な近さとなっていた。シリルの赤をまともに見てしまったジャックは断末魔の叫びとともに崩れ落ちた。
血に染まった絨毯に転がったジャックは虚ろな瞳で虚空を見つめている。ジャックは、シリルによって永遠に開放されることの無い、苦しみの世界へと突き落とされたのだった。
「リジー、リジー……エリザベート」
ぐったりとしたエリザベートの身体を腕に抱き、シリルは懸命に名前を呼ぶ。
「シリ、ル……無事、ですか?よかった……」
薄らと目を開け、虚ろな赤の瞳でシリルを捉えたエリザベートは、彼の体が無事であったことを知って力なく笑った。
「リジーは馬鹿だ。あんなの切られても俺ならなんとかできたのに」
「でも、切られたら痛いでしょう……?」
「それはリジーだって一緒だろ……」
悲痛な顔をしたシリルに弱々しく微笑んだエリザベートの身体は、急速に冷えつつあった。それをしっかりと抱き寄せたシリルは、犬歯で己の腕を深く傷つけその血を口に含む。そして、エリザベートの冷えた唇に、深い深い、口付けをした。
混濁しつつある意識の中、エリザベートはわずかに残っていた感覚で、シリルに口付けられたと理解した。そしてさらに鉄臭い何かが口内に入ってきて、それをこくん、と嚥下して、そして。エリザベートの意識は、どこまでも暗い闇へと落ち込んでいったのだった。
ブクマ、評価ありがとうございます!
励みになります!!
そろそろ完結が見え始めてきましたー




