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飛びかかってくるジャックを、シリルは軽く受け流そうとしていた。ヴァンパイアであるシリルは、少し切られた程度の“普通の傷”であれば直ぐに治るからだ。
凶刃など手で受け止めて無力化してやろう。そう思ってナイフに触れる直前で、シリルは気づいた。ジャックの手にあるそれが、エリザベートに贈ったはずの“銀のナイフである”ことに。
躱すのが遅れてナイフが腕を掠り、次の瞬間灼けるような痛みにシリルは呻く。
「っ!」
「ほほう、やっぱり。ジュストの言っていた通り、お前には“これ”が“効く”んだな」
満足そうなジャックが、ナイフの裏表の装飾を眺めて笑う。
「くそ……あれさえなければ……」
あのナイフの存在がなければ、さっさと魔力を使って奴を無力化できるのに。シリルはもどかしさに歯ぎしりをした。
シリルには、奥の手の魔力があった。けれど、発動させるには、相手と目を合わせなければならない。それが条件だった。
今のこの状況で、ジャックの腕とナイフを足した間合いでは距離が遠く、目が合わないため発動させるに至らないのだ。
「ぐ、ぅ……」
そうしている間にも、腕の傷の影響がじわじわと体全体に広がり始めていて。シリルは小さく呻いた。
「悪魔が!消えろ!」
ふたたびジャックが飛びかかってくる。それを躱そうとしたシリルは、身体が思うように動かなくなっているのに気づいた。銀のナイフの効果が、こうも早く回るとは思っていなかった。でも、エリザベートを早く助けなければ。いっそ身体に刃を受けて、奴の動きを止めるべきか……そう思ったシリルが甘んじてジャックの攻撃を受け入れようとした、その時。
ドス、と鈍い音が静かな部屋に響いた。
ポタ、ポタととろみのある液体の落ちる音とともに、最初から部屋に充満していた血臭が、ぶわりと濃くなった。
「……リジー!!」
「エリザベート!?」
ジャックとシリルの間で、凶刃をその腹部で受け止めるのは、エリザベート、その人だった。
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