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「リジーこれは……」

むせ返るような血臭と、かすかに死臭のようなものが鼻についてシリルは愕然とする。無理やり結婚させられてはいたけれど、噂を聞く限りなんとか夫婦として生活している、とのことだったのに。まさか、こんな目に遭っているとは思ってもみなかった。それでもシリルの顔を見て、弱々しくはあるが嬉しそうに微笑むエリザベートの姿が痛ましかった。

「どうして……こんなことに」

色々と気になることはあった。けれど、まずはエリザベートをどうにかしないといけない、とシリルは我に返る。少しだけ吸血して、シリルの魔力を流し込んでやれば、造血・回復効果が付与されるから。もうあまり目を開けていられないらしいエリザベートの許可はあえて取らず、シリルは細い首筋に顔を埋め、牙を突き立てようとしてーーー。


「おい」

背後から声をかけられ、シリルはエリザベートからばっと離れた。警戒心を剥き出しにしながら、そこで何をしている、と言うのは書類上でのエリザベートの夫である、ジャックだった。ジャックは、シリルの赤く輝く瞳を見て、一瞬息を飲んだように見えた。


「……誰かと思ったら、ブラッドリー公爵様ではないですか」

そう言ってジャックは下卑た笑みを浮かべる。それは御伽噺の王子様のような見た目に、酷くミスマッチだった。

「公爵様が、どうやって此方まで?それに、貴方の瞳の色は、僕の記憶と違っているみたいだ」

おかしいですね、まるでヴァンパイアみたいだ、と嫌味ったらしく言うジャックは、エリザベートの惨状を鼻にもかけていないようだった。


「お前か、リジーをこんな目に……」

「リジー、だと?嫌ですね、公爵様。まるで自分のもののような言い草だ」

「……ッ!」

「“リジー”は私の妻ですよ。勘違いしてもらっては困ります」

「お前こそ酷い勘違いだ……!リジーはお前には勿体なさすぎる」

シリルがそう言うと、ジャックは薄い笑いを浮かべたまま、首を傾げた。

「勿体ない、だと?この女が?」

剣呑とした瞳が、エリザベートの居るベッドを捉える。

「俺を見ても媚びようともせず面白みのない冷めた女が、俺よりも価値があると言いたいのか?」


ジャックのその顔には、屈辱の感情が見て取れた。

「当たり前だろう。持参金目当ての貧乏伯爵のお前にとっては、“エリザベート”の存在はありがたいものでしかないだろう?」

シリルの発言に、ジャックの目がだんだんと見開かれていく。

「……なぜそれを!」

「さあな」

「それを知ってしまったなら……公爵様、貴方には消えてもらわないといけないな!!」

顔を歪ませたジャックが怒鳴る。その手の中には、銀色の輝きがあった。


シリルに向かって、ジャックは勢いよく踏み出した。


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