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覆せなかった結婚

冷たい空気をまとった石造りの教会で、エリザベートはため息をつく。窓から見える空は、重そうな雲が埋めつくしていてまるで自分の心の内を表しているように思えた。


あの日からひと月。今日は、どれほど願っても覆すことの出来なかった、ジャックとの結婚式の日だった。


「お前のような素晴らしい娘を持てて私は幸せだよ」

いかにも大袈裟に言う叔父は、望み通りの結婚が進んだことで上機嫌のようだ。先程から気持ち悪いくらいの笑みをこちらに向けている。目の前の煩わしいヴェールで視界が曇って見えるせいで、直視せずに済んだことだけは幸いだった。


「さあ、エリザベート。いくぞ」

時間になり叔父にエスコートされ、エリザベートは教会の中に歩みを進める。ウエディングドレスのたっぷりとした裾がまとわりついて鬱陶しかった。

参列者は叔父の見栄で選ばれた貴族ばかりであった。

数歩歩いたエリザベートは、視界の端に黒を捉えて。思わず、そちらを向いた。

そこに居たのは、シリルだった。叔父に呼ばれていたのか、それとも紛れ込んだのかは分からないけれど、参列者席の端に佇んでいた。

目が合ったような気がしたエリザベートは、思わず顔を逸らす。心の内にどす黒いものが渦巻いているような気分になった。


正面を向くと、祭壇の前でジャックが佇んでいる。金髪の彼は、シリルの黒と正反対の色彩を持っていた。そこにいるのが、エリザベートが求めてやまないその人ではないという残酷な事実を、身に染みて感じる。目を伏せたエリザベートから流れた一筋の涙は、ヴェールの皺に隠れながらこぼれ落ち、どこまでも白いドレスに小さな灰色の染みを作った。



夫となったジャックの家である、クレオドール伯爵家に着いたエリザベートは、自分が女主人として認められていないという事実を感じざるを得なかった。

使用人たちの態度が、あまりにもお粗末なものであったからだ。エリザベートの実家であるオレリアン家より使用人の数が少ない分、それぞれの職務の幅は広く、自然と能力が付くはずだ。それなのに、エリザベートに対しては最低限、形ばかりの仕事をこなす姿が数多く散見されていた。恐らく、ジャックがエリザベートのことを迎え入れていないような態度が原因だろう。

「世も末だわ……」

ぼそりと呟いたその言葉が聞こえたかどうかは分からないけれど、傍に付き従う侍女がぎゅっと握った拳を震わせるのが、視界の端に見えた。


その夜。結婚当日、といえば夫婦の務めである初夜が待ち受けている。こればかりはいくらジャックのことを愛せなくても仕方がない。そう、覚悟していた。なのに。エリザベートがいくら待てども、朝までジャックは部屋を訪れて来なかった。その夜は、夫婦間で何も起こらず、エリザベートは密かに胸をなで下ろしたのだった。


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