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揺さぶられる本能 1

最初にシリルがオレリアン邸を訪問してきたあの夜から、はやひと月。今日も、エリザベートは彼を待っていた。シリルは毎日ではないけれど、夜になるといつの間にかエリザベートの自室のバルコニーに立っていた。半刻ほど話をして、そしてエリザベートが眠ってからこの部屋を去っていく。普通の人間ではできない芸当だ。けれど、彼に会うことが出来るのならば、そんなのはもうどうでもいいのだとまで思えた。


その日のエリザベートは、どうにも体が本調子ではなかった。それもそのはず、ただでさえ毎月の症状が安定していない月のものが、今月はいつにも増して酷かったのだ。ほぼ終わりがけではあるが、そもそもの体質のせいで出血が長く続いた影響があり、特に今日なんかは一日ふわふわとした感覚が付きまとっていた。

「こんな姿、シリル様に見せられないわ……」

寝台のヘッドボードにもたれながらぼそりと呟いて、額に手の甲を当てる。そうしていると少しばかり天井が歪んで見えるのが改善される気がするからだ。

毎日、シリルに会いたいと願っていたけれど、今日だけは会いに来て欲しくないと思ってしまう。

そして、そんな贅沢すぎる願いほど、叶わないものであって。

「リジー」

静かな声が耳に入ったエリザベートは、シリルに会えたのに嬉しくない日が来るなんて、と思ったのだった。


「……どうしたんだ?」

様子がいつもと少し違うことに気づいたらしいシリルから、心配そうに声がかけられる。

「今日は少し体調が悪いだけです。でも、大したことは無いので、大丈夫です」

そう言ってエリザベートは寝台から足を下ろす。


そして、シリルに歩み寄った、その時。

「…………ッッ!」

ヒュ、と短く息を吸い込む音が聞こえて、瞬間、視界がぐるん、と天井を向く。背中がマットレスの反発で跳ね、エリザベートは自分が押し倒されたのだと理解した。

「…………!」

自分の真上にいるその人を見て、エリザベートは息を飲む。静かな湖畔のような青だった筈の瞳が、今は血のように真っ赤に染まっていたのだ。

恐怖を覚えて身体の下から逃れようとするけれど、ものすごい力で押さえつけられてぴくりとも動けなかった。そうしているうちに自らの首筋に、彼の顔が近づいてくる。薄暗い部屋の中で、彼の赤い口内にたたずむ白く長い牙が見えた。

「シ、リル……様……」

一度、彼の名前を呼ぶ。そして、エリザベートは喰われる覚悟を決めてぎゅっと固く目を閉じた。


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