最終話 キミを見つけた
主人公は河川敷に座って黄昏る。
「ちぇっ。なんだよ」
河川敷に腰を掛けて夕日を反射する川を眺める。俺は、草をむしり取って、空に投げた。草は風に流されて飛んでいった。
そんな時に、唐突に人が視界に入ってきて、話しかけられた。
「何を感傷に浸ってるのだね?」
ぎょっとしてその人を見ると……
「うわっ! 千尋かよ」
びっくりして、咄嗟に大きな反応をしてしまった。千尋は少し怒った表情で言う。
「人を化け物みたいに。失礼ね!」
千尋はそう言いつつも俺の隣に腰を掛けた。そして、川の方を眺めながらこう言った。
「あの子でしょ。神崎さん。何かあったの?」
俺は思わず千尋の方を向いて応じる。
「何で知ってるんだよ」
千尋はこちらに顔を向けることも無く言った。
「バレバレだよ。で、何があったわけ?」
正直、言いたくは無かったが、バレているなら仕方ない。
千尋に顛末を伝えた。
生徒会室から出てきた話をしたところで、千尋はこっちに顔を向けて言う。
「それで出て来ちゃったわけ?」
「うるさいな! ああ、そうだよ。憐れな俺を笑えよ」
「昔からお人好しなんだから」
千尋は肘で俺を小突いた。文句を言おうと千尋の方を見ると、千尋は人差し指を俺の顔の前に突き付けて、偉そうに言った。
「ねえ! 私に何か奢ってよ」
「なんで俺が奢るんだよ。お前には傷心者を労わる優しさはないのか」
千尋はすっと立ち上がると俺の前に出た。そして、こちらを振り返りながら、大きく両手を開いて、千尋はこう言った。
「そしたら、お礼に私が付き合ってあげても良いよ」
その千尋の姿を見て、急に昔のことを思い出した。
すっかり忘れていた約束を。
あれは、千尋がアメリカに行ってしまう前、幼稚園での出来ごとだった。
★☆★
「おれいにあたしがケッコンしてあげる」
「うん。おとなになったらキミとケッコンする」
☆★☆
目の前にいる千尋の笑顔に、その時の映像がオーバーラップした。
くそ。なんでこんなときに。
俺は出来るだけ、内心の動揺を隠しながら応じた。
「な、何を言ってんだよ!」
残念ながら全く隠せなかった。慌てふためく俺を見て、千尋はニヤリと笑った。
「おやおや、本気にしているのかい。冗談だよ」
俺は不貞腐れて言う。
「ったく、デリカシーが無い奴だな」
そうやって赤くなっている顔を隠すために俯いた。きっと夕日で誤魔化せたと思う。
でも、その瞬間。少しだけ悲しさを忘れている自分がいた。
そして、目の前で心の底から楽しそうに笑う彼女を改めて見る。その時、ちょっとだけ、彼女に奢ってもいい気がした。
いや、生徒会に寄付しようと思った851円だ。こいつの思いのままに転がされるのは癪だから、それを、寄付すると思えばいい。
「仕方ねえな。奢ってやるよ」
河川敷の斜面に後ろ手をついて俺は言った。
「まじで? やったー!」
千尋は両手を広げて喜んでいる。子どもみたいな奴だ。
「おっ。あそこに自販機を発見!」
そう言って、河川敷の野球場の端にある自販機を指さす。そして、千尋は駆け出した。そして、こちらを振り返ると俺を急かす。
「おいてっちゃうよ~」
俺は「奢る奴を置いてくなよ」と叫ぶ。
千尋はそんなことを意に介さずに、「はやく、はやく!」と言いながら、河川敷の坂を駆け下りて行く。
「ありがとうな」
千尋に聞こえないようにそう言って、立ち上がる。
そして、走って行く千尋に追いつこうと、河川敷の坂を駆け下りた。
夕日に向かって駆けていくキミを追いかけて。
最後まで読んで頂いた皆様、お付き合い頂きまして、ありがとうございました。
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最初に書いた通りでEveさんの『あの娘シークレット』という曲の片思いの歌詞に心を奪われて、思わず筆を取りました。そのため、片思いがテーマになっています。
実は、千尋、葵、拓哉の3人の話も考えているのですが、こちらは気が向いたら書きます。