第4話 簿記ってやつが分かったぜ
主人公は自慢したくて仕方ない。
俺は、一週間かけて簿記の内容を理解していった。千尋の説明のお陰で全体像を理解したおかげもあって、分かり始めると頭の中にすらすら入ってきた。
今日の放課後は神崎さんに簿記を教える日だ。朝から少しウキウキしている。あまり勉強で人に頼られることが無いからだと思う。
いつもは続かない俺だが、葵ちゃんに説明するという明確な目的もあるだけあったので、今回は本気だ。後輩にカッコ悪いところは見せられない。
前払費用だとか前受金だとか、そう言うのは頭がこんがらがって駄目だった。でも、少なくとも生徒会の会計のことは分かるようになっていた。
昼休み中の教室で、借りた簿記の参考書を見せながら、俺は拓哉にどや顔で言う。
「俺もついに簿記ってやつを理解したぜ」
何だか難しそうな本を読んでいたが、拓哉はこっちを見ると冷たく言う。
「今さらか。何か月前に貸したと思ってる」
俺は拓哉の小言を無視して、真剣な表情で言った。
「分かったよ。お前が言っていたことがな」
拓哉が言っていた宇宙語の意味が、ようやく分かった。
現金の減少が、報告されている費用と違うってことだったんだな。
「で、解決したのか?」
「いや、まったく」
俺は真剣な表情でそう答える。少し、低い声でカッコを付けて。
「さっさとしろ」
「ったく、お前に同級生の成長を喜ぶ優しさは無いのか」
俺は両手を広げて大きな声で言った。
まったく、薄情な友人だよ。ここまで表情を一度も変えてない。少しくらい喜んでくれたって良だろ?
そんな不満に対して、拓哉は冷たく言い放った。
「簿記3級なんて最低レベルだ」
俺は不貞腐れて拓哉が本を読むのを変顔で邪魔することにした。拓哉は全く動じる様子も無く、集中して本を読んでいた。
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終業のチャイムが鳴る。図書室に行くために準備は万端だ。すでに教科書や筆記用具は鞄にしまい込んである。
しかし、先生は無情にもこう宣言した。
「ちょっと、切りが悪いから3分延長な」
いつも遅刻には厳しいのに、なんで先生は終わりの時間には甘いのか。まったく、こっちは約束があるというのに。
「よし。終わりだ。解散!」
その言葉を聞くや否や、俺はバッグを掴んで教室を飛び出した。
「あ、レオ。この後暇?」
教室を出ると千尋が話し掛けてくる。それに、一瞬足を止めて応じる。
「悪い。今日はちょっと用事がある」
そして、図書室に向かおうとするとさらに引き留められる。千尋は少し怪訝な表情をしていた。
「急いでるみたいだけど大丈夫? あんた、部活も入ってないでしょ」
俺は素直に答える。
「ちょっと図書室にな」
「あんたが図書室?」
千尋はさらに怪訝な表情をしている。しかし、もう時間が迫っている。千尋には悪いが会話を切り上げることにした。
「悪い、急がないと」
せっかく生徒会に興味を持ってくれた神崎さんを待たせる訳にはいかないのだ。