第1話 迷子の数字を探してこい!
Eveさんの「あの娘シークレット」
その切ない歌詞に心を奪われて筆を取りました。6話くらいで完結予定です。
「迷子の数字を探してこい!」
ある日、生徒会室にそんな不機嫌な声が響いた。
声の主は石川拓哉。片瀬高校の生徒会の会計だ。
拓哉は、成績がトップである上に、剣道でも中学時代に全国大会に出場したこともある、文武両道を地で行くような男だ。銀縁眼鏡に鋭い目線、そして、辛辣な口調で話すので、交友関係は皆無に等しく、孤高の天才や一匹狼なんて呼ばれている。
女性ファンは多いが、絶対に、寄せ付けないオーラを出している。
剣道の腕前もさることながら、相手が不良でも教師でも関係なく、はっきりとモノを言えるという精神的にも強い完璧超人だ。
正直、一歩間違えたら痛い奴だが、突き抜けているので、全生徒から一目置かれている。
「なーに、カッコ良く言ってんだよ。たった千円じゃねえか」
こっちは俺、中井玲央。片瀬高校の生徒会の副会長をやっている。この言葉のダサさを見てわかる様に勉強はからっきしで、運動も出来ないという学校においては残念な部類に入る人間だ。
これでも生徒会の副会長をやれているのは、いい友人に恵まれているからに過ぎない。部活にも所属せず、顧問にバレないように、色んな部活の練習に混ぎれこんで遊んだりしている。
拓哉の孤高の天才に対して、俺は浮浪者と呼ばれている。言葉の意味はあっているが、イメージが悪すぎる。俺はホームレスじゃない。
目下、遊び人という二つ名を定着させようと画策中だ。
拓哉は眼鏡を人差し指でくいっと持ち上げるとぴしゃりと言った。
「違う。851円だ」
電卓をこっちに見せながら拓哉は怒る。150円なんてジュース一本くらいの差じゃんか。細かい奴だな。
「なんだ、ケチや奴だな。じゃあ、俺が補填してやるよ」
「それは、絶対に、駄目だ!」
拓哉は俺の親切な申し出に対して、文節を丁寧に区切ってはっきりと宣言した。
そして、俺の背中を押して生徒会室から押し出す。
「間違いなく図書委員会が原因だ。さっさと事情を聞いてこい!」
それに、この世の気怠さを全て集めたようなやる気の無い声で答える。
「へーい」
そこで、ふと気づいた。俺、この学校で図書室に行ったことがないじゃん。
「あれ? 図書室ってどこだっけ?」
俺は本気で拓哉に尋ねた。だが、拓哉は冗談だと思ったようだ。冷たい目で俺を見ながら言った。
「下らない冗談を言うな。さっさと行ってこい」
拓哉は、生徒会室の扉をぴしゃりと閉めて俺を追い出した。




