コント「エレベーターが使えない」
某文房具メーカーの社内。エレベーターの前でダンボールを二箱乗せた台車に手をかけ、社員が一人立っている。
それを見て、同期の社員が声をかける。
ボケ「何してんの?」
ツッコミ「これ、下まで運ばなきゃいけないんだけど」
ボケ「うん」
ツッコミ「エレベーター今日使えないの?」
ボケ「そうだよ。昨日朝礼で言ってたろ」
ツッコミ「昨日休みだったんだよ」
ボケ「そっかー。でも動かないもんは仕方ないから、階段で運ぶしかないな」
ツッコミ「無理だ」
ボケ「何でさ」
ツッコミ「持ってみ」
ボケ「ちょっとどいて……ふんっ!……あ、無理無理、これ腰いくヤツ」
ツッコミ「だろ?」
ボケ「何入ってんのこれ」
ツッコミ「文鎮五百本、二箱」
ボケ「詰めたねえ」
ツッコミ「分割して詰めなおすしかないな。ちょっと手伝ってくれよ」
ボケ「いや、もっといい方法がある」
ツッコミ「何だと」
ボケ「こないだ倉庫に細長い金属板があったの見たんだけど」
ツッコミ「それが?」
ボケ「階段にこう渡してさ、スロープみたいにできないかなと思って」
ツッコミ「あー、なるほど」
ボケ「ちょっと倉庫行ってくる」
ツッコミ「いや、ちょっと待て」
ボケ「何だよ」
ツッコミ「うちの階段、結構急だぞ。プラスこの重さで二箱だ」
ボケ「それが?」
ツッコミ「スロープに乗せた途端、ものすごいスピードとエネルギーが生まれて、踊り場の壁を突き破るぞ。二人で始末書だ」
ボケ「それは盲点だったな」
ツッコミ「だからその案は却下」
ボケ「待て、まだあきらめるのは早い」
ツッコミ「急に男前な顔になってどうした」
ボケ「階段の下り口に、台車を受け止める係を一人置けばいいんだ」
ツッコミ「壁突き破るって言っただろ。来た瞬間誰だって逃げるよ」
ボケ「ほんの一握りの勇気があれば」
ツッコミ「じゃお前受け止めてくれよ」
ボケ「いい方法を思いついた」
ツッコミ「スルーすんなよ。今度は何」
ボケ「受け止める係が逃げないように、後ろから押さえておく係を置く」
ツッコミ「そんなもん、二人そろって逃げるに決まってるだろ。アホか」
ボケ「日本は教育水準が高いから、きっと逃げずにやり遂げると思う」
ツッコミ「お前見てるとその水準も怪しいけどな」
ボケ「そういう失礼なこと言うと、受け止める係にするぞ」
ツッコミ「だからその案採用してねえよ」
ボケ「じゃあ、じゃあ、受け止める係と押さえる係が二人とも逃げないように、弱みを握って脅す係を置く」
ツッコミ「最低だな。そいつ縛って壁に立たせてクッションにした方がいいレベルだ」
ボケ「お前はひどいことを言うな」
ツッコミ「お前が言い出したんだろうが。やべ、そろそろ行かないと遅刻する。もういいから、一箱ずつ二人で運ぼう」
ボケ「えー、何で俺?」
ツッコミ「ここまで来て見捨てるなよ!ほらそっち持って」
ボケ「わかったよ。じゃ、せーのでな」
ツッコミ「おう。せーの」
ボケ「あー、やばい重たい重たい。一旦置きたい一旦置きたい」
ツッコミ「ここで置いたらもう持ち上がらんぞ。我慢しろ」
ボケ「あー、早い早い。もっとゆっくり」
ツッコミ「階段狭いからタテに行くぞ、せーの」
ボケ「あ、これ斜めになったら上の方がつらい。やばいやばい。落ちる!落ちるって!」
ツッコミ「バカ!手え離すな!一旦下すから!」
ボケ「ん……しょっ!あー、重い。手が取れるかと思った」
ツッコミ「結局階段下りてねえし。やっぱ先方に遅れる連絡して詰めなおすか」
ボケ「あ、すまん電話だ」
ツッコミ「おう、出ろよ」
ボケ「もしもし……はい、はい。えっ……本当ですか?ええ、ここにいますけど。僕が言うんですか!?あ、ちょっともしもーし」
ツッコミ「何だ、何があった?」
ボケ「……いや」
ツッコミ「いやじゃないよ。言えよ」
ボケ「その……お前が今度のリストラ候補になったって、俺から伝えろって部長が」
ツッコミ「……」
ボケ「と、とりあえず一旦落ち着こうぜ。一緒に文鎮詰め替えしよ、な?」
ツッコミ「……倉庫行ってくる」
ボケ「え?」
ツッコミ「決まってんだろ!板持ってきてスロープ作る!この台車で会社の壁破壊してやる!」
ボケ「おい、早まるな!待てって!あっ……ちょっ……ちょっと聞いてー、みなさーん!誰か腕力に自信のある方、逃げずにやり遂げる方、人の弱み握るのが上手い方いませんかー!?ほんの一握りの勇気があったら申し出てくださーい!」
おわり