第9部
27編
私は時生さんから貰ったメモを頼りに
1人の人物に会っていた。
「麗華ちゃんは確かに
あのお屋敷を出たけど、
その理由はちゃんとしたものだよ。
将来について悩んでたみたいだけど
10年前のモンスターとの戦いが終わって、
決心が付いたみたい。
お父さんの会社の役に立ちたいって今、
アメリカで経営学を学んでるよ。
この前、帰国してきて
沢山のお土産と楽しそうに
向こうでの生活の事を話してたなぁ。
昔に比べて、大分棘が取れて
フレンドリーになってたよ!」
今、私の目の前に居て
私の将来のことについて
話してくれているのは何を隠そう
10年後の美春だ。
時生さんは美春が
まだこの街に残ってることを
教えてくれ、美春の実家の家電屋を
尋ねたのだった。
「お話ししていただき
ありがとうございます。
でも突然押しかけた身で
言うのもなんですが、
全く知らない私にどうして
話してくれたんですか?」
私はさすがに自分が麗華であるとは
明かしていない。
美春が混乱すると思ったからだ。
しかし、美春から
予想外の答えが返ってきた。
「やっぱり麗華ちゃんに
どことなく似てるからかな。
うちの子達もいつもは
人見知りするんだけど、
不思議と貴方には初対面なのに
懐いているのよね。」
そう、美春はこの10年で結婚して
お母さんになっていた。
今は実家の家電屋で手伝いをしながら
お母さんをやっている。
「そうだったんですね。
ありがとうございます。
ちなみに胡桃さんと雷太さんは
今、どうしているのですか?」
「お兄ちゃんは電気系の学科がある
大学を出て今は違う電気会社に
勤めてるよ。
将来的には家を継ぐんじゃないかな。
胡桃ちゃんは実家の美容室を
継いで美容師として活躍してるよ。
でも、一番意外だったのはやっぱり
麗華ちゃんだよね。
まさか海外に行っちゃうなんて
想像もつかなかった。」
(私もまだ信じられないわ…。
お父様の会社の手伝いをするのは
何となく予想が付いていたけれど、
まさか渡米して経営学を学んでいるとは…。
しかも、私がフレンドリーになった
姿が想像付かないわね。)
「今日はお時間をいただき
ありがとうございました。」
「いえいえ。こちらこそ
またうちの子達が喜ぶから
遊びに来てね。」
大人になった美春に別れを告げると、
教えられた自分の将来について
もう一度考えてみる。
(私が渡米かぁ。
人の役に立ちたいと思って、
まさかそこまで大胆な行動に出てるとは
全く思いつきもしなかったわ。
でも、あくまでモンスターとの戦いが
終わった場合よね。
もしどこかで死んでしまったり、
モンスターを倒しきれなかったら
将来はまた変わってしまう。
その時こんな夢も才能も無い私に
何が出来るのかしら…。)
考え始めて暗い気持ちになっていると、
誰かに話しかけられた。
「もしもし?お嬢さん。お悩みの様ですね。
私が悩みなんて吹き飛ぶ良い夢を見せて
あげましょう。」
顔を上げるとそこに居たのは
人の様な外見をしているが、
この禍々しい雰囲気は間違いなく
モンスターだった。
「っつ!あぁぁぁ!」
反応が遅く、モンスターに
眠らされたのであった。
28編
しばらく街を探索していると、
麗華の姿を見つけた。
声をかけようとした時、
男の人と話してて突然
麗華が崩れ落ちるように倒れた。
「麗華っ!」
麗華の元に駆け寄る。
(男の人…いやこの禍々しい雰囲気は
モンスター!
しかも凄い魔力を持ってそう…。)
「おやおや、集団で駆け寄ってくるなんて
どうかしましたか?」
「どうかしたって、お前麗華に何をした⁉︎」
「何って悩んでいたお嬢さんに
心地良い夢を見させてるだけですよ。
心地良すぎて 永遠に目覚めない夢をね…。」
「永遠ってどう言う意味⁉︎麗華を返して!」
「私の夢の虜になってしまったら、
永遠に自分の意志では
目覚めたくなくなるのですよ。
邪魔するならば貴方達には悪夢を見て
もらいましょう。ナイトメア!」
「うぁぁぁぁぁ!きゃぁぁぁぁぁ!」
(…。ここはどこ?
あ、お母さんとお父さんだ。
また喧嘩してる…。もう喧嘩しないで。
また、前見たく仲良くしてよ!
2人で楽しそうに
お客さんの髪を切ってよ!)
(…。ここはどこだ?
あれは胡桃と時生さんか。
何故2人で寄り添っているんだ?
辞めてくれ!そんな幸せそうな胡桃は
見たくない!)
(…。あれ?ここどこだろう。あ!
おばあちゃんだ!
あれ?おばあちゃん行かないでよ!
どこ行くの?また私を
置いてけぼりにするの?)
「ふっふっふ。
オールマイティドリマーである
私のナイトメアやルシッドドリームから
抜け出せた者は今まで一人も居ません。
このまま永遠に眠る事ですね。」
(…。ここはどこ?
あら、お母様とお父様だわ。
お二人とも楽しそう。
私も混ぜてちょうだい!
このまま夢や才能になんか悩まないで、
お二人の側にずっと居ようかしら…。
声が聞こえてくるわ。
「麗華ちゃん、このまま
ずっと私達と暮らしましょう。」
「麗華、パパの側にずっと居てくれ。」
ああ…。それも良いかもしれない。
このままずっとお二人の元で暮らすのも
悪くないわ。
ずっとこの時間が続けばいい。
…。また声がしてくるわ。
「麗華!本当にそれでいいの?
いつまでも親元に居て
お嬢様のままで過ごしてて良いの⁉︎」
「麗華らしくないな。俺達にあれだけ
いつも楯突いてくる癖にそんな甘い事
考えるんだな。」
「麗華ちゃん、確かに親元を離れるのは
寂しいけど、私達も成長してるんだよ。
麗華ちゃんのお父さんとお母さんもそれを
きっと望んでると思うよ。」
この声は胡桃!雷太!美春!
でも、私はアンタ達みたいに
社交的でも無いし、頭が良いわけでもない、
愛想なんて最悪なのよ?
そんな私を受け入れてくれるのは
お父様とお母様だけ…。
本当にそうなのかしら?
私達4人が過ごした10年という時間は
私にとって大切なものじゃ
無かったのかしら。
私の良い面も悪い面も
見てくれて喧嘩して仲直りして…。
それも絆とは言わないの?
私を受け入れてくれるのは
お父様とお母様だけだと思ってたけど、
それは違う!
私には大切な仲間が居るじゃない!
こんな所で寝てる場合じゃないわ!)
29編
「アンタの思い通りになんてさせないわ!」
「なっ!私のルシッドドリームから
抜け出すなんて信じられないですぞ!」
「皆、起きるのよ!癒しの舞!」
「私のナイトメアも解除されただと!」
「この癒しの舞はモンスターを
眠らせるだけでなく、
心地良い夢を見させることも出来るのよ!
時期に皆、目が醒めるわ!」
「くっ!もう一度ルシッドドリームを…。」
「好きにさせない!こないだ覚えたばかりの
スキルを使う時が来たわね…。百花繚乱!」
「うわぁぁぁ!何だ!この花の舞は!
段々意識が遠のいていく…。」
(ここはどこだ?…。あ!母さんだ。
これは私が人間だった頃の記憶か?
「和也、無茶しないのよ。
母さん心配だわ。」
優しくていつも私を
気にかけてくれた母さん…
っ!モンスターに襲われている!止めろ!
母さんを攻撃するな!母さんっ!
「和也、私の事は気にしないで。誰かを
憎んではいけないのよ。貴方は貴方なりの
人生を歩んでちょうだいね…。」
あぁ…。そうだ。私は母さんを殺した
モンスターが憎くてその憎悪から自らも
モンスターに成り果ててしまったのだった。
今、母さんの言葉を思い出して気付いたよ。
私のしてた事は実に愚かだったのだね…。)
「うぅぅん…。あれ、
私悪夢を見ていたんじゃ無かったっけ?」
「あれ?俺は何してたんだ?」
「麗華ちゃん、おはよう〜。」
「皆、何寝ぼけた事言ってんのよ!
オールマイティドリマーが寝てる間に
一斉攻撃よ!」
「ファイアソード!アクアソード!
ウインドソード!アースソード
4連撃からの突き!」
「地割れ!」
「アンデットカースからのリバイブ!」
「もう一度百花繚乱!」
「あれ?百花繚乱って眠らせるだけじゃ無いんだ。」
「眠らせてる相手に使うと
効果2倍なのよね。」
「麗華の必殺技になりそうだね。」
「母さん、私は安らかに眠るとするよ。
最後に大切なことを気付かせてくれて
ありがとう…。」
「消えていったわね…。
お礼を言われたけど
何だったのかしら。」
「まぁいいじゃないか。
あれが多分未来の魔王幹部だろう?
無事に討伐できたんだから
良かっただろ。」
「それより麗華、何で居なくなったの⁉︎」
「そうだよ麗華ちゃん!
心配したんだから!」
「もう良いじゃない。そのことは。
でも、今回ばかりは貴方達のお陰ね。
感謝するわ。」
麗華が鼻歌交じりに先へと歩いていく。
どうやら麗華の悩みは解決したようだ。
「麗華、待ってよ!」
「先行くわよー!」
「ねえ…。お兄ちゃん。
今度は私達の番かな。」
「そうだな。
俺達の後悔を解決する良い機会だな。」
私と麗華の2人で先に行ってる間、
こんな会話がされていたのを
私は気付かなかった。