第8部
23編
私は大人になりたくなかった。
自分の未来を想像したくなかった。
お父様とお母様が年を取るのも
嫌だったし、何より自分が将来
どんな姿になっているかなんて
考えたくも無かった。
学歴も大して無い、夢も無い、
有るのは有り余るお金だけ。
私は自分の未来を見るのが怖いのだ。
モンスターと戦うようになって、
改めて実感させられた。
平和な日常はいつまでも
続くことは無いのだと。
皆、戦いを通して成長している。
皆、平穏な日々を
取り戻すために先を見据えてる。
でも、私だけはいつも皆から
取り残されているような気分だった。
「中級ボス達も倒したし、
少し宿に泊まって
ゆっくりしようよー。」
「連日の戦いで疲れたし、
少しは休むとするか。」
「私ももうクタクタ。
しばらくは休みたい。
じゃあ2,3日はそれぞれ休暇を取ろうか。
外に出る時はくれぐれも
モンスターに気をつけてね。」
私にとってチャンスだった。
集団ではなく、個別での行動に
なったことで私はある行動を
実行しようと決めていた。
「麗華ちゃんもゆっくり休んでねー!」
「はいはい。じゃあさよなら。」
私にとってそのさよならの言葉は
しばしの別れの挨拶を意味していた。
「ふー。この2,3日で
すっかり体も休めたなぁ。
そろそろ出発の時かな。
皆に声を掛けようっと。」
「胡桃ちゃん、準備OKだよー!」
「俺も大分休めたな。」
そこに麗華の姿は無かった。
「あれ?麗華は?」
「私は見てないなー。」
「俺も見てないぞ。」
(私も姿を見ていない。
そういえば最近の麗華、
何だか悩んだりしてたな…。まさか!)
「皆、麗華の部屋を探して!
居なかったら、街中を探すよ!」
「胡桃ちゃん?急にどうしたの?」
「そうだぞ。そんな血相変えて
まるで麗華が居なくなった
みたいじゃないか。」
「そのまさかよ!」
麗華の部屋にも街中を探しても
麗華の姿はどこにも無かった。
「麗華が居なくなるなんて…。
まさか異次元の扉が開いたっていうの?
でも、開く条件は
限られてるはずなのに…。」
「そうだな…。麗華1人だけで
行動してるとなるとかなり危険だぞ。」
「…。もしかして、私達が最初に
異次元の扉を開いた時みたいに
明らかにレベルの差がある
弱いモンスターが逃げ出したのを
見計らって、過去か未来に飛んだとか?」
「美春!それだ!
でも、麗華は過去と未来の
どっちに行ったんだ?」
「それなら、未来だと思う。
未来に居た時の麗華は
様子がおかしい事が多かったから。
何かに悩んでいてもしかして自分で
解決しようとしてるんじゃないかな。」
「じゃあ未来の世界に
麗華と同じ方法で行くか。」
「麗華ちゃん、
何事も無ければ良いけど…。」
(麗華は何に
悩んでいたんだろう…。
未来の世界に居た時は
必ず様子がおかしかった。
相当深い悩みなのかな。
私達が口出しして良いものか…。)
そんな事を考えながら、私達は再び
未来へと向かうのであった。
24編
1人になった私は以前と同様に
逃げ出したモンスターが開いた
異次元の扉を開けて
未来へと来ていた。
(ここに来ても何か
解決する訳じゃ無いのに…。)
トボトボと歩いていると気付いたら
私の家に着いていた。
(やだ!私ったらつい自分の家に
足を運んでたわ…。
お父様とお母様の姿を見るのも
怖いし、帰ろう…。)
そう考えた矢先だった。
見慣れた2人が庭の
カフェテーブルで歓談していた。
「麗華が巣立って大分
寂しくなってしまったな。
私達も歳を取るわけだ。」
「あら。私はまだまだ若いつもりよ!
貴方だって年老いてなんていないわ。
気持ちが若ければ美貌も
衰えないものよ!」
「ははっ!そうだな!」
(あれはお父様とお母様!
もっと老けてらっしゃると
思っていたけど、年相応の
美しさとカッコ良さを
兼ね備えているわ!
良かった…。
お父様とお母様の事に関しては
心配無さそうね。
だけど、一番の問題は私が
将来どんな姿になってるかを
見るのが怖い…。)
「あれ?麗華ちゃんじゃないか。
こんな立派なお屋敷の前で
何をしてるんだい?」
(この声は…!)
「時生さん、お久しぶりです。
こちらに来てたんですね。
この家は私の家です。
ちょっと悩み事があって…。」
「この立派なお屋敷は麗華ちゃんの
家だったんだね。
それより悩み事って?
差し支えなければ聞いてもいいかい?」
私は時生さんに自分の
将来の事について話した。
「ふむ…。自分の将来を見るのが怖いか。
確かに俺もそんな時期があったな。
モンスターを街から完全に
排除してそこから先、どうしようか
悩んだものさ。
だけど、君には仲間が居る。
この人物に会ってみるといい。」
時生さんから一枚のメモを渡された。
「この名前と住所って!」
「麗華ちゃんの悩みが
解決する事を祈るよ!」
またしても颯爽と去って
行ってしまった。
(この人に会って
どうしろって言うの…?)
一枚のメモを握り締めて
呆然としていた。
25編
麗華の捜索をするために私達は
再び未来の世界に来ていた。
「胡桃ちゃん、麗華ちゃんが
居そうな場所の当てはあるの?」
「んー。麗華が寄るとしたら、
自分の家か未来の私達の元とか?」
「そもそも過去の世界でも俺達の存在が
見当たらなかったのに、未来の世界に
俺達は居るのか?」
雷太の意見はもっともだ。
「でも、お父さんもお母さんも
小さい頃の私達が存在するって事は
言ってたし、たまたま
会わなかっただけじゃない?」
「そんなもんかねぇ。
とりあえず麗華の家に
行ってみるか。」
まずは雷太の提案で麗華の家を訪ねた。
庭先を見ると麗華のご両親が
カフェテーブルで歓談していた。
「すいませーん!
お尋ねしたい事があるのですが、
今お時間よろしいでしょうか?」
「あら。貴方達、どこかで
見たことある顔ね。
尋ねたい事って何かしら?」
「麗華を見ませんでしたか?」
「麗華ちゃんの知り合いかしら?
麗華ちゃんならこのお屋敷からもう
巣立って行ったわよ。」
今聞きたいのは
そっちの麗華じゃない。
「すいません。
麗華と言うよりは高校生位の
女の子見ませんでしたか?」
「あら、勘違いしてごめんなさいね。
さっきふと目をやると
お屋敷の門の前に女の子らしき
人影が見えたわよ。
すぐに居なくなったけど。」
(麗華だ!間違いない。)
「その女の子って
どちらに行きました?」
「男の人と話してたみたいだけど、
話し終えたら目的があるみたいに
どこかへ向かって行ったわ。」
(男の人?誰だろう…。知り合いかな。)
「ありがとうございました。
もう少し探してみます。」
「こちらこそあまりお役に立てなくて
ごめんなさいね。
見つかるといいわね。」
私達は麗華の家を後にした。
「胡桃、ここには麗華は来てたが
今は居なかった。
次行く当てはあるのか?」
「正直言って確信は無いけど、
一緒に居た男の人が
私達の知り合いのような気がする。
もう少し探してみようか。」
(私達の知り合いの
男の人ってもしかして…。)
そんな不確かな考えを持ちながら、
再び麗華探索へと向かった。