第13部
39編
俺はレベル40になった辺りから、
瀕死になっても精霊の加護により
無双モードに突入する事が
出来るようになった。
無双モードになると、
通常の2倍の能力値が向上し、
攻撃力や回復力が格段に
上がったのは有り難かった。
他にも使える魔法が増えたし、
状態異常に出来るようにもなっていた。
俺は無双モードを片手に
過去・現在・未来の中級ボスに挑み、
見事に勝利を収めた。
しかし、魔王幹部に挑むには
時期尚早だと感じていた
俺はひたすら異次元空間を行き来し、
レベル上げと能力値・
スキルアップに努めた。
気付いた時には中級ボス以上の
強さを持つモンスターも一撃で
倒せるようになっており、
使える技や魔法を組み合わせて連携技や
合体技も繰り出せるようになっていた。
しかし、それだけでは足りないと感じていた
俺は魔王幹部について徹底的に調べあげ、
弱点や攻撃パターンについて研究した。
その甲斐があって、魔王幹部達とも互角に
戦えるようになり
何度か瀕死になりかけたが、
過去・現在・未来の魔王幹部を倒すことに
成功したのであった。
最後の壁はラスボスだった。
こいつらを倒せば街は平和になると
喜んでいるのも束の間だった。
精霊にラスボスの強さは
圧倒的だと聞かされたからだ。
俺はレベル上げは勿論の事、能力値や
スキル振りの徹底的な見直し、技や
魔法の連携や合体技の組み合わせを
何パターンも試し、どの系統のモンスターに
どの戦略が有効かを研究に研究を重ねた。
俺には今の胡桃ちゃん達みたいに
過去・現在・未来のキーパソンが
分かれている事は無かったので、
全て俺がキーパソンで
攻撃の要となるしか無かったのだ。
ラスボスとの戦いは
想像を絶する物であった。
過去のラスボスは攻撃力が高く、
何度も瀕死になりかけて
回復が追いつかなくなる事もあったが、
魔法防御力の弱さを突いて
火魔法と風魔法の合体技である爆炎風で
倒すことが出来たのであった。
未来のラスボスは逆に
魔法攻撃を連発してきて
何度も吹っ飛ばされた。
火魔法は燃えるような暑さだったし、
風魔法はそのまま身体ごと
吹き飛ばされるかと
思うぐらい強い物だった。
このラスボスは物理防御力が弱かったので、
剣技の合体技である五連撃+回転技からの
上空にジャンプして首元を突いて倒した。
一番厄介だったのは現在のラスボスだった。
攻撃防御力も魔法防御力も高くて、
まるで歯が立たなかった。
その上、素早く攻撃と魔法攻撃を
連発してくるので避けるだけで必死だった。
そこで俺が咄嗟に考え付いたのは
状態異常だった。
幸い状態異常が効きやすく、
麻痺や呪いでラスボスを動けなくしたり、
眠りで攻撃を止めてからその僅かな隙に
剣技と魔法攻撃で地道にダメージを与えて
やっと倒すことが出来たのであった。
全てのモンスターを倒した俺は
込み上げてくる達成感に満たされていた。
同時に俺がこの街や大切な人を
救ったんだという嬉しさも込み上げてきた。
俺はこうして平和な街を
自分の手だけで取り戻したのである。
しかし、やっとの思いで取り戻した平和な
日常はそう簡単には続かなかったのである。
40編
俺は全ての戦いが終わった後、
気になって街の図書館を訪ねた。
この街の歴史や伝記を調べてみると、
やはり俺の予想通り十数年に
一回はモンスターが大量発生していることや
その度に精霊がモンスターと戦うのに
相応しい人を選んでモンスター討伐に
向かわせていることを知った。
今、この街があるという事は
歴代の勇者的存在がこの街を
モンスターから守ってくれたおかげで
成り立っている事も理解できた。
しかし、ページを読み進めると
気になる記述を見つけた。
本には【モンスター発生の原因は
異次元世界の時空の歪みが原因であるが、
何故時空が歪むことでモンスターが
大量発生するかや歪み自体の
発生原因は分かっていない。
これまで何度となく
モンスターの大量発生が
続いているが、その度に
モンスターの強さは変化している。】と
記述されていた。
俺はこの記述の原因を突き止めないと、
この街にモンスターは
発生し続ける事を悟った。
(俺がこの歴史的惨事を止めなければ!)
俺はこの時、決意に駆られていた。
それ以来、大学に行かず親の手伝いを
時々しながら暇があれば調査を続けた。
しかし、この十数年で分かったのは
おおよその時空の歪みが起きる時期や
キーパーソンが強力なモンスターを
倒す事でモンスター討伐に成功する事
ぐらいであった。
そのため、時空の歪みに備えて準備を
万端にして今回の戦いのキーパーソンが
誰になるか備えていたが、またしても
大惨事を繰り返す所だった。
直前で俺に付いていた精霊や仲間の精霊が
モンスターに襲われて死にかけていた4人を
異次元の扉を咄嗟に開いて過去の世界に
連れて行ったが、それを機に異次元の扉は
開かなくなってしまった。
やはり俺の時と同様に
ある程度のレベルアップが
必要となりそうだった。
無双モードの発動条件も同じであった。
しかし、それ以外にも俺の戦いの時と
違った光景を目の当たりにした。
キーパーソンが4人いる事や過去・現在・
未来にキーパーソンが分かれている事、
そして何より胡桃ちゃん達の取った行動が
俺にまで影響を及ぼしている事だった。
胡桃ちゃん達が現れる前は精霊のお陰で
自由に異次元空間を行き来出来ていたが、
どうやら彼女達が
キーパーソンになってからは
彼女達が異次元の扉を開かないと俺も
それまでは異次元の扉を
開けなくなったらしい。
これには非常に手を焼いた。
この不自由な行動制限は
彼女達より先回りしてある程度の
危険を回避する事が出来なくなるからだ。
今の俺にできる事は俺の過去のモンスターと
戦った経験と調査結果から彼女達に
アドバイスをする事だけだった。
奥歯を噛み締めながらも俺は彼女達の
前に現れたのであった。
41編
俺が初めて彼女達の前に現れたのは
未来の世界で再び彼女達が無双モードを
使おうとした時だった。
俺も経験してる事だったが、
無闇に無双モードに頼ってしまうと
自分の力を過信してしまい
死に直結するからだ。
俺は見兼ねて彼女達を助けた。
いずれ彼女達には自分の存在を
知って欲しいと思っていたので
丁度良かった。
俺は自分の身分と過去に経験した事、
今の調査の段階で分かっている事を
彼女達に話した。
やはり彼女達は困惑していた。
ただでさえ自分達の置かれた境遇に
不安を抱いているのに
俺が与えた情報で現実を
突きつけられたからだ。
しかし、彼女達を
死なせるわけにはいかない。
俺は心を鬼にした。
その代わり、出来るだけ俺が
経験してきた強敵モンスターとの戦い方を
惜しみなく教えた。
次に彼女達に会ったのは
過去の世界でだった。
俺1人の時では経験しなかった未知なる
現象を目の当たりにして飛び出せずには
いられなかったからだ。
前に本で同時に複数居た勇者的存在が
キーパーソンとなる世界で
死ぬと復活すると書かれていたが、
まさか本当に存在するとは
予想だにしなかった。
それに俺は彼女達の苗字にも
隠された謎がある事に気付いた。
胡桃ちゃんは今川で現在のキーパーソン、
雷太くんと美春ちゃんは過田で
過去のキーパーソン、麗華ちゃんは
来葉で未来のキーパーソンという風に
苗字に次元の名前が使われていたのだ。
これには俺も拍子抜けした。
まさに彼女達はモンスターと戦う使命を
持って生まれてきた様なものだったからだ。
幸いだったのは要となるボス達の
種類や弱点が調査で俺が過去に戦った
ボス達とほぼ同一だった事だ。
しかし、俺が戦った頃よりもモンスター達も
強さが進化している様であった。
時空の歪みが起きる度に確実にモンスターも
強くなっていると確信した。
しかし、彼女達には以前の俺の様に
強力なモンスターと戦う
覚悟が足りなかった。
しかし、俺の時には無かった仲間同士の
助け合いや心の支え合いが有るのは
正直羨ましかった。
俺の役目は彼女達の足りない覚悟を持たせる
一歩を踏み出させる事だった。
上手い事は言えなかったが、彼女達には
しっかりと伝わった様で
安心したのであった。