第12部
36編
私は今、レイトラバーと
互角に戦えている。
スピードよりも手数を増やすという戦略に
切り替えて数打ちゃ当たるでは無いけど、
その戦法で戦ってようやく攻撃が
まともに当たるようになった。
「くっ!回転斬りなんていつの間に
出来るようになったのよ!卑怯よ!」
「貴方に卑怯なんて言われたくない!
体を捻らせてその遠心力で回転斬りが
出来るようになったの。私は努力して
そしてお父さんとお母さんを
守りたい気持ちで
出来るようになったんだ!
攻撃の手は止めない!」
「私のムチさばきに対抗しようだなんて!
喰らいなさい!大技よ!憎蛇のムチ!」
「サッ!いくら貴方のムチさばきが速くても
回転技が出来るようになった
私にはかわすのは容易いわ!
次は私の番よ!フォーアトリビュート
五連撃からの回転斬り!」
「同じ手には乗らないわよ!
あら?居なくなったわね?
なっ!!上からですって!!」
「回転斬りからのジャンプ斬り!!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!私は負けなんて
認めないわよ!認めないんだから…バタッ」
「胡桃ちゃん凄ーい!」
「胡桃!よく勝ったな!」
「私の言った通りだったでしょ?」
「皆、ありがとう!
それよりお父さんとお母さんは?」
「大丈夫よ。少し憎しみを吸い取られたけど
もう良くなったわ。」
「僕も大丈夫だ。胡桃、ありがとうな。
こんな僕達なんかを守ってくれて本当に…。」
「お父さん!泣かないでよ…。」
「私も釣られて泣いちゃうわ…。」
「お母さんまで止めてよ。
私まで泣いちゃう…。」
こうしてヘイトラバーとの戦いは
私の勝利で終わった。
しかし、本当の問題解決は
ここからであった。
37編
「2人を守りきったこの機会に
伝えておきたい事があるんだ。
お母さんには申し訳ないけど、
私はお父さんの意見である今のままで
お店の規模を拡大させない方に賛成する。
理由は二つあって、一つは借金をしてまで
お店を拡大して2人に金銭面で苦しんで
また揉めてほしくない事ともう一つは
昔みたいに2人で仲良くお客さんの髪を
切る姿を私にもう一度見せて欲しいって
いう願いがあるんだ。
私は昔からお父さんとお母さんが
仲良く髪を切ってる姿が大好きだった。
でも、この頃いつも2人は
お店の経営の事で喧嘩してばかりで
私は苦しかったし、家に居場所がないって
感じてたんだ。
どうかお願いします。
また二人で楽しそうにお客さんの髪を
切ってください。」
私はそう言うと、
念を込めてお辞儀をした。
「胡桃がそんな事思ってたなんて…。
私はお店を拡大する事ばかりに
目を取られて、
お父さんの意見を否定したり
胡桃が苦しんでいる事が
まるで見えてなかったようね。
胡桃…。今まで貴方を苦しめて
本当にごめんなさい。
お父さんも今まで
貴方の意見ばかり否定して
ごめんなさい。
私の考えが間違っていたわ。
今更だけどお父さんの意見に賛成する。
こんな私でも許してもらえるかしら…?」
「お母さん…。
僕も伝えきれてなかった事は
沢山あったんだ。
お母さんだけが悪くないよ。
僕が今のままで良いって言ったのは
金銭面の事もあったけど、
やっぱり二人で髪を切って
お客さんと接している方が楽しかったんだ。
胡桃の言う通りでお母さんにはそれを
分かって欲しかっただけなんだ。
僕の方こそ、本当にごめんな。」
「お父さん…。許してくれてありがとう。
胡桃もごめんね…。」
こうして私とお父さんとお母さんの三人で
抱きしめ合って泣き合った。
でもこの涙は悲し涙じゃなくて、
今まで報われなかった私の想いが
叶った嬉し涙だった。
(またあの頃の二人に戻ってくれるんだ…。
今まで苦しい事も辛い事も有ったけど、
頑張って来て本当に良かった。
努力は報われるんだ!)
「胡桃ちゃん…。良かったねぇ。」
「美春、何泣いてるのよ。情けないわね。」
「そういう麗華こそ涙目だぞ。
今はそっとしておこうぜ。」
こうして私と両親との
長い確執は幕を閉じた。
今まで現在に希望を見出せなかったけど、
今は明日が来るのがとても楽しみな爽快な
気持ちで一杯だ。
「良かったねぇ。胡桃ちゃん。
今度は俺の番かな。」
影で時生が見守っている事も知らずに
私達は仲直りできた今日という日を盛大に
祝福したのであった。
38編
俺こと時生が生まれたのは
胡桃ちゃん達と同じ街だった。
平凡な家庭に生まれ育ち、特に夢や
希望もないままに高校二年生になっていた
俺の日常はある日一変した。
俺は趣味で良くゲームをしていたが、
そこに出てくるモンスターと同じ姿をした
奇妙な生物が街に突如として現れた。
俺は襲われている人を無我夢中で助けたが、
瀕死の重傷を負ってしまった。
その時に現れたのが今も
行動を共にしている精霊だった。
俺には共に戦う仲間が居なかった。
精霊は言った。
「貴方一人で戦わなければいけないの。
助けてくれる人は私しか居ない。
この街を救えるのは貴方だけなの!」
いきなり一人で戦えだの街を守れだの
言われても当時の俺には面倒事を抱えて
しまったという印象しか無かった。
しかし、よく考えてみると俺の周りの
家族や友人も襲われる可能性がある事に
気付くと何としてでも街を守らなければと
いう使命感に駆られていた。
俺の時代はそこまでモンスターは
凶暴化していなかった。
異次元空間の扉も自由に開く事が出来たし、
精霊も助言はくれた。
しかし、いくらモンスターがそこまで
強くなくても俺一人しか居ないのは
変わらない事実だった。
初期の頃の俺は剣技と盾技の他に
簡単な回復魔法しか使えなかったので、
俺が死んだら街はモンスターに支配されて
街は全滅の危機に瀕してしまう。
自分一人しか居ない事を嫌でも
分かっていた俺は死なない努力をした。
まずはどれだけ弱いモンスターでも
決して油断しない事だ。
異次元空間に逃げられると、強敵化するし
今の自分のレベルでは
強敵化したモンスターと戦う事は
不可能だったので、弱いモンスターでも
確実に仕留める事に努めた。
死んだら全てが終わり。
俺は常にそれを
念頭に置きながら戦っていた。
レベル20を超えた辺りから
異次元の空間を
行き来するようになった。
そこで分かったのは
過去↔︎現在↔︎未来でモンスターの強さが
変わる事や中級ボス、魔王幹部、ラスボスを
それぞれの次元で倒さなければ完全に
モンスターは消滅しない事であった。
俺は気が遠くなった。
一人でこれらの強敵モンスターと戦って、
しかも勝利をしなければ街が
平和に戻らない事は
遠い未来の話に見えた。
俺は何度も自分の弱さに
打ちのめされた。
瀕死になる度にこのまま
死んでしまった方が楽になる、
もう戦わなくていいと思った。
しかし、その度に俺の大切な人達の顔が
浮かんできて戦う希望をもたらしてくれた。
俺が自分の強さを実感できたのは
レベル40辺りであった。
今度はその時の話をしようと思う。