第11部
33編
「お父さん、お母さん何してるの?」
「お客様の髪を切ってるのよ。一人で
髪を切るのも楽しいけれど、
お父さんと一緒に髪を切ってるのは
もっと楽しいわ!」
「お母さん、僕もだよ。
いつまでも二人で
一緒に髪を切っていこうね。」
「胡桃もお父さんとお母さんみたいに
楽しく髪を切る人になる!」
「あらあら!胡桃も将来はこのお店を
継いでくれるのかしら。楽しみね!」
10年前にこの街に引っ越してきた頃は
両親はとても仲が良かった。
二人で楽しそうに髪を切っているのを
見ていると幸せな気持ちになった。
私も将来は二人のお店を継ぐんだと
信じて疑わなかった。
しかし、10年という時が経ち、時間は
無惨にも両親の関係を悪くしていった。
「だから、このお店の売り上げをもっと
伸ばさないと潰れてしまうのよ⁉︎
呑気な事言ってる場合じゃないでしょう⁉︎」
「そんな事分かってるよ!
経営が苦しいのは重々承知している!
だけど、僕のやり方だって
あるんだから黙っててくれ!」
私が17歳になった頃にはお店の経営不振で
二人が言い争っているのを見かける事が
多くなった。
私は二人の仲がどんどん悪くなっていくのを
見てはいられなかった。
10年前の仲の良い二人に戻って欲しい。
そういつも考えていた。
お父さんのこともお母さんのことも
お店のことも大好きでありたかった。
でも、今の私には家庭は苦しいものでしか
なかったのだ。
「胡桃?何ボーッとしてるのよ。雷太と
美春があんな形に終わったから、今度は
自分の番だと怖気付いてるのかしら?」
「そうかもしれない…。成功したら
良いけど、失敗したらって思うと怖いの。」
「何よ。嫌味で言ったのに図星だったのね。
そんな事やってみないと
分からないじゃない。
歴史を変えかねないことをしなければ
失敗する事は無いとは思うけどね。」
「だと良いけど…。」
私達は現在に来ていた。
現在の魔王幹部を倒す事と現在の
キーパソンである私の悩みを
解決するためだ。
しかし、先程から見ての通り私は
この問題解決に乗り気では無い。
雷太と美春の落ち込み様を見ると、
自分も失敗するのでは無いかと
怖くなっているのだ。
だが、今のところ何らかの形では
キーパソンの悩みは解決しているから、
良い方向に向かうと信じるしか今は無い。
(とりあえずお父さんとお母さんを
仲直りさせないと…。
お店の経営が苦しいのは分かってるけど、
昔みたいに仲良くやって解決して欲しい。
そのためには私の二人への思いも
ちゃんと伝えないと。)
私は重い足取りで自宅へと
向かったのである。
34編
「だから私の言うことに口出ししないで!」
「僕の考えだってあるんだ!そっちこそ
いい加減僕の考えを認めてくれよ!」
自宅へ向かうと外まで聞こえてくる
両親の喧嘩の声にウンザリしつつも
お店のドアを開けた。
「ねぇ。外まで聞こえてるんだけど。
恥ずかしいから、もう少し声を抑えるか
喧嘩自体辞めて欲しいんだよね。」
「胡桃には関係ないでしょ!」
「そうだ!子どもは
あっちに行ってなさい!」
もう我慢の限界だ。そう思った。
「いい加減にしてよ!
私が毎日どう言う思いで
二人の喧嘩を見てると思ってるの⁉︎
どうして前みたいに仲良くできないの?
そんなにお金って人を変えるの?
そんなんだったら、こんなお店
潰れちゃえばいい‼︎」
私はそう言い残して走って自宅を離れた。
途中でどちらか分からない怒鳴り声が
聞こえたが、無視して走り去っていった。
「ハァッハァッ!何でこうなるの…。」
「もう胡桃ちゃん待ってよ〜。私達を
置いてけぼりにしないでよ〜。」
美春達の存在を忘れていた。
「皆、ごめん!でもあれじゃあとても
私の悩みは解決出来ると思えない。」
「確かに厳しそうだよな。
おじさんとおばさんは
何であんなに意見が
食い違う様になったんだ?」
「確かにあんなに
仲良かったのに不思議よね。
私のお父様とお母様は未だに仲良しよ。
何が違うのかしら…。」
「お金は人を変えるって事だよ。
麗華には悪いけど、
お金が無いと人はどんなに
仲良くてもすれ違う様になってしまうの。
お母さんはもっとお店を広くして事業を
拡大したいと思ってるけどそのためには
借金をしなければならない。
お父さんはそれに反対してるの。
今のお店のままで良いじゃないかって。
それで二人の経営方針が合わずに
どんどんお客さんも離れていって
今みたいな状態になってるんだ。」
「そうだったんだ…。
そんな事があったんだ。」
「胡桃はどうしたいって考えてるんだ?」
「私は今のままでいいと思う。無理にお店を
広げてお客さんがますます来なくなったら
元も子もないもの。
小さくても昔みたいに
二人で楽しそうに髪を切って欲しいと
思ってる。でもその思いを伝える前に
いつも二人に口を挟むなって言われる。」
「もう二人の会話を遮って本当に
思ってる事を無理矢理にでも伝えれば
良いんじゃないかしら?」
「それしかないのかな…。」
「思い立ったが吉日よ!さあ行くわよ!」
「麗華!ちょっと待ってよ!
まだ覚悟が…。」
「そんな事言ってたらいつまで経っても
言いたい事言えないわよ!
ほら、家に着いたわ。
行って来なさい!」
私は麗華に無理やり連れられて
覚悟が付かないまま、二人に思いを
伝える羽目になったのである。
35編
「あら、胡桃…。戻って来たのね。
さっきはカッとなってごめんなさい。
言い過ぎたわ。」
「僕の方こそ、胡桃にはいつも迷惑を
かけているね。ごめんな。」
「ううん…。でもこれをキッカケに
私の思いを聞いて欲しいんだ。実は…。」
「おやおや、仲直りかい?つまらないねぇ。
人の憎しみは燃えれば燃えるほど
美しいのねぇ。」
「誰よ!貴方は!」
「私の名はヘイトラバーよ。
その名の通り、憎しみを愛する者。
憎しみが強ければ強いほど、
私の最高のエネルギー源になるの!
そこにいる二人からは
強い憎しみが溢れている。
私のエネルギー源になってもらうわよ!
「そんな事させない!
お父さんとお母さんは下がってて!」
「胡桃!ダメよ!危ないわ!」
「胡桃!帰ってくるんだ!」
「私が二人を守るの!黙ってて!」
「あらあら。そんな憎しみに溢れている
両親を守るなんてお利口さんね。
でも、冗談は口だけにしなさい。
ヘイトアプソープション!」
「させない!ファイアソード!
アクアソード!ウインドソード!
アースソード四連撃!からの突き!」
「ふっ。これくらいのスピードと威力じゃ
この私を倒せないわ。愛憎のムチ!」
「ガハァァァァァ!痛ぁぁぁっ!」
「胡桃ちゃん!デビルズクライ!」
「地割れ!」
「百花繚乱!」
「遅いっ!」
「グハァァァァッ!キャァァァァッ!」
(強い!しかも何より速い。
このスピードに付いていけない…。)
「貴方たちは遅すぎるのよ。私のこの
スピードに付いていけると思ってるの?」
(このままじゃ全員瀕死になってしまう…。
そうしたら無双モードを使えば良いのか!
でも、現在のキーパソンである
私がトドメを刺さないと
ヘイトラバーを倒せないんだっけ…。
どうしよう…。どうする?
向こうがスピードで仕掛けてくるなら
こちらは何で勝負できる?
スピード?いや無理か…。
そうだ!手数を増やせば
スピードが速くても当たる確率は
上がるんじゃないかな。
でも四連撃からの突きしか出来ない私に
連撃や新たな技が出来るの?
やってみる?やるしかないよ!)
「あら?もうお終い?つまらないわねぇ。」
「お終いなんかじゃない!
フォーアトリビュート四連撃!からの突き」
「さっきより威力は上がったけど
まだまだね。」
「まだこれからよ!フォーアトリビュート
ソード五連撃!からの突き」
「なっ!連撃数を増やしたですって!
生意気な…。でもこれくらいじゃ
私を致命傷には負いやれないわよ!」
「何言ってるの?五連撃で終わりじゃない!
フォーアトリビュート
五連撃からの回転斬り!」
「回転斬りですって!くっ!速い!
かわせないかも!きゃぁぁぁぁぁ!」
「まだまだこれからとか言ってたよね?
これからが本当の戦いよ!」