第10部
29編
「おばあちゃん!お兄ちゃんが怒った泣」
「あらあら。美春ちゃん。大丈夫かい?
雷太も拗ねてないで
こっちにいらっしゃい。」
「だって美春が悪いんだぜ。
俺が怒られるのが
納得いかないんだけど。」
「怒ったりしないよ。
2人とも可愛い孫だからね。」
「ばぁちゃん…。」
「おばあちゃん大好き!」
「ありがとね。あら、胡桃ちゃんと
麗華ちゃんじゃない。
遊びに来てくれたわよ。
遊んでらっしゃい。」
「おばあちゃん行ってきまーす!」
「ばぁちゃん、またなー!」
これが私達兄妹が見たおばあちゃんの
最後の姿だった。
次に見たおばあちゃんは棺の中だった。
「うぅぅぅぅ…。
何で急に居なくなったの?」
「ばぁちゃん、嘘だと言ってくれよ…。」
「可哀想になぁ。
お袋がまさか事故でこんな
急に亡くなるとは…。
俺達ももちろん悲しいが
あいつらは可愛がってもらってた分、
余計に悲しいだろうな。」
「そうね。
トラウマにならなきゃ良いけど…。」
「俺、ばぁちゃんに伝えたい事
沢山合ったのに結局言えなかった…。
もう二度と言えないんだな。」
「お兄ちゃん…。
私だってもっと一緒に居たかったよ!
今、頭の中が後悔だらけだよ…。」
こうしておばあちゃんの突然の死は
10年前の幼い私達に
強烈なトラウマを残したのだった。
「……。美春!美春ってば!どうしたの?」
「はっ!胡桃ちゃん…。何でもないよ。」
「美春らしくないわね。しっかりなさい。」
「ごめんね〜。」
その場は笑って誤魔化した。
「これからの事なんだが、
次の魔王幹部討伐は
過去の世界にしてくれないか?
ちょっと訳あって行きたいんだ。」
「良いけど訳って?」
「時期に話すさ。」
お兄ちゃんが過去に行く
提案をしてくれた。
「お兄ちゃん、やっぱり…?」
「もちろんばぁちゃんの事だ。
過去に行って俺達の後悔を晴らすんだ。」
「お兄ちゃん…。ありがとう!」
「お礼はばぁちゃんに
会ってからにしてくれ。」
「はーい。
でもどうやって過去の世界に行くの?」
「麗華が一人で未来に来た
方法を取ればいいだろ。」
「分かった。お兄ちゃん、行こうか!」
こうして私達はおばあちゃんとの後悔を
晴らすために過去の世界へと
向かったのであった。
30編
(この公園、懐かしいな。
よくばぁちゃんに連れてってもらったっけ。
俺はあまり活発じゃなかったから、
走り回って良く転んでくる美春を
見てばかりだったけどな。)
「わー!久々だね!あ!やっぱり
おばあちゃん居たよ!おばあちゃーん!」
「おい!美春!
俺達の成長した姿なんて分かんないぞ…。」
「あら。お嬢ちゃんにお兄ちゃんじゃない。
また会ったわねぇ。
やっぱり改めて見ると私の孫に
そっくりだねぇ。
10年後くらいにはこんな美男美女に
なってるのかしら。ふふふ。」
「おばあちゃん…。お兄ちゃん!
やっぱり私達がおばあちゃんの孫だって
打ち明けたいよ!」
「ダメだ…。そんな事しても
ばぁちゃんを困らせるだけだ。」
「あらあら。揉め事かい?
兄妹は仲良くだよ。
ウチの孫達もよく喧嘩してくるけど、
いつも親である息子達に怒られるのは
お兄ちゃんの方なんだ。
私にはどっちも大切な孫だから、
出来るだけ差別はしないのさ。
どちらにもちゃんとした愛情を
与えたらきっと将来は立派に成長するよ!」
「きっとそのお孫さん達もちゃんと
ばぁちゃんの愛情は伝わってますよ。
これだけは言えます。
とても感謝していますよ。」
「そのお孫さん達もおばあちゃんの事、
大好きですよ。私にもこんな愛情
深いおばあちゃんが居たらって…。」
美春はとうとう泣き出してしまった。
「おばあちゃん!この後、十分に
気をつけて帰って!良くないことが…。」
「美春!これ以上言うな。
歴史を変えかねない。」
「そうだぞ。そのババアは俺様が後で
美味しくいただくんだから
邪魔するんじゃねぇ!」
(今なんて言った?
ばぁちゃんを食べるだと?)
「誰だ!お前は!」
「俺の名は人食い鬼のプレデターだ。
丁度腹が空いてたんでなぁ。
もう何人も食ってきたんだ。
そのババアも食わせろや。」
「人食い鬼だと?
ふざけるな。ばぁちゃんには
手出しはさせない!」
「そうよ!おばあちゃんは下がってて!」
「俺様に反抗するとはなぁ。
俺様の攻撃をくらえ!」
「ゴォォォォォ!」
凄い勢いでプレデターが振りかぶって
俺達を殴ろうとしてる。
「そうはさせるか!俺が盾で守ってる間、
美春の魔法攻撃で攻撃してくれ!」
「ふんっ!この程度の守りなら
俺のパンチの方が強いぜ。」
実際にプレデターの言う通り、
俺の守りよりプレデターの攻撃力の方が
圧倒的な差がある。
(くそっ!こいつの攻撃力が高すぎて
守りきれない…。)
「今度は俺様のターンだ。連続パンチ!」
「ゴゴゴゴゴゴ!バキャァァァァ!」
何と盾が壊れてしまった。
「お兄ちゃん!どうしよう…。」
「俺達はこれまでなのか…?」
「まだ諦めるのは早いよ!
私達が援護する!」
「胡桃!麗華!
どうしてここが分かったんだ。」
「そんな事より今はあのモンスターに
全集中よ。皆、行くよ!」
こうして胡桃と麗華が何とか間に合い、
起死回生の戦いが始まるのであった。
31編
圧倒的な力の差だった。
まさか盾まで壊れるほどの攻撃力の
モンスターに出くわすとは思わなかった。
(考えろ!考えるんだ!
攻撃力が高いモンスターには
何が通用する?
やっぱり魔法攻撃だよな…。
後は高い防御力か。
こないだのレベルアップで
習得したあの技を
連携させてみるか…。)
「仁王立ち!」
「お兄ちゃん!何やってるの!
それじゃあお兄ちゃんばかりに
攻撃がいって持たないよ!」
「美春、大丈夫だ。俺には秘策がある。
その間にお前も新しい技を
習得してるはずだろう?
それでガンガン攻撃してくれ。」
「お兄ちゃん…。分かったよ。
死なないでね!」
「おう!」
「馬鹿な奴だなぁ!
自分から俺様の攻撃を受けにくるとはな。
お望み通り死なせてやるよ!」
「馬鹿はお前の方だ!
仁王立ちからのアイアンボディ!」
「バゴーン!痛ってぇぇぇぇ!
何だこの硬さは!まるで鋼のようだ…。」
「全攻撃を俺に集中させて、
アイアンボディで全ての攻撃を
無効化させればお前みたいな
攻撃力が高くても勝機はある!
美春!行け!」
「皆、耳を塞いで!デビルズクライ!」
「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「何だ!この鼓膜が裂けそうな
耳障りな叫びは!ぐぅぅぅぅ!
立ってられないぜ…。」
「胡桃!麗華!今だ!集中攻撃してくれ!」
「ファイアソード!アクアソード!
ウインドソード!アースソード!からの
4連撃からの突き!」
「百花繚乱!」
「ウギャァァァァァ!俺様が負けるだと…?
信じられん…。負けるなんて認めない…。」
プレデターは負け惜しみを言いながら
消滅していった。
「やったー!お兄ちゃん、勝ったよ!」
「ばぁちゃんを守れて良かったぜ。
胡桃と麗華もありがとな。」
「間に合って良かったよ。
それより2人でおばあさんとの後悔を
晴らして来なよ。」
「胡桃…。行ってくるぜ!」
「行って来まーす!」
こうしてプレデターを倒した俺達は
10年越しのばぁちゃんとの後悔を
晴らしに行くのであった。
32編
まさかとは思った。考えたくもなかった。
この結論に至ったのはプレデターと
戦い終えた後だった。
(まさか10年前にばぁちゃんが
亡くなったのは事故なんかじゃなくて
モンスターに襲われて
亡くなったのか⁉︎
そうだとしたら、ばぁちゃんは
この先も生き続けることになる…。
手を叩いて喜びたいところだが、
俺は歴史を変えちまった。
今まで俺達が生きてきた
17年間が無くなるんだ。)
「助けてくれてありがとねぇ。
貴方達が居なかったら、
今頃このババアは食われてたよ。
そんなしょげた顔して
私が助かったのが嬉しくないのかい?」
「いや、ばぁちゃんそうじゃないんだ…。」
「そうだよー。
おばあちゃんが助かったんだよ?
もっと喜ぼうよ!」
美春は嬉しさのあまり、
さっき俺が忠告した事を
すっかり忘れているようだ。
「おばあちゃんが助かったんだし、
お兄ちゃんも私も
伝えたかった事伝えたんだから
10年越しの後悔は晴らせたんだよ?」
「そうなんだけど…。
後悔を晴らせてばぁちゃんが
助かったのは嬉しいんだけど…。」
「お嬢ちゃん、さっき2人が
私にかけてくれた言葉かい?
あれは心に沁みたねぇ。
一生かけても貴方達の言葉は
忘れないでこれからも孫達を
可愛がっていくよ。
今日はありがとね。貴方達も
気をつけて帰るんだよ。じゃあまたね。」
その言葉がばぁちゃんの
最期の言葉だった。
「また会う日」が来ることは
永遠に無かった。
「キャァァァァ!キキー!ドーン!」
ばぁちゃんは俺達と別れてすぐに
トラックに轢かれて亡くなった。
結局俺達が10年前にばぁちゃんが亡くなった
原因を取り払ってもばぁちゃんは10年前の
今日に死ぬ運命だったのだ。
「おばあちゃん!何で!何でなのよ!
せっかく助けたのに!」
「美春…。気持ちは痛いくらい分かるが、
歴史を変えようとした時点でばぁちゃんが
違う理由で亡くなる事は決まっていたんだ。
そうじゃないと、17歳の俺達は生きては
いられないんだ…。」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
美春の泣き叫ぶ声が辺りをこだまする。
俺達は10年越しの後悔は晴らせたが、
結局ばぁちゃんの死に対しては大きな
トラウマを残したままだったのである。