第1話【前夜】
イギリス、北欧を舞台に騎士×神話をテーマに書きます。第1話です。
色々とめちゃくちゃなこじつけ小説です。
その時が来た。
世界に極寒の冬が3度襲い、生きとし生けるものが争い、号哭しながら次々とその命を潰えていった。
人間世界は全て破壊され、家族すら殺し合う地獄がそこにはあった。
狼の兄弟が太陽と月を噛み砕き、地が震え、樹木が震え、そして山が揺れ崩れる。
ありとあらゆる戒めや枷は外れ、''神々の黄昏''は訪れた。
──────
ふと目を開けると、縦長の窓越しに柔らかな月明かりが差し込む。
アーサーはひとつ欠伸をした。
どうやら蔵書庫で本を読み漁っている最中眠ってしまっていたらしい。
グッと伸びをしながら首を回すと、凝り固まった背中と首からポキポキと音が鳴る。脱力しながら腕を下ろすと、膝の上に置いたままだった本が床に落ちる。
アーサーは落ちた数冊の中から1冊の本を手に取る。
───『エッダ』北欧圏に伝わる神話が記された書物。
他国の様々な物語が好きだったアーサーの母が、ブリタニアの現統治者であるアルベルト王に頼み作り上げたのがこの蔵書庫になる。
蔵書庫は、城から少し離れ、裏門を出た少し先の場所にある。
その為、すぐ裏手が草原、その先は山々が連なっていて、本好きの母と幼き日のアーサー少年の、ちょっとした憩いの場となっていた。
その母も5年前に他界し、当時10歳だったアーサーも明日で齢15。
待ちに待たれた成人の儀が執り行われる。
その前日に蔵書庫で夜更かしをし、あまつさえ居眠りコケていたなどと周りが知ったら大目玉間違いなし。
許してくれるとしたら、現統治者の癖に能天気で楽天家な「そういうこともあるよね」が口癖な己の父親くらいだろう。
かつて、この国を統治し英雄と崇められたかの騎士王、アーサー王。
このアーサー王の子孫が、代々このブリタニアを治め、繁栄させてきた。
将来、幾何代と続くこの歴史ある一族の長となり、民のために身を粉にするという使命と、初代と同じ名前を付けられたアーサーには、あまりにも重く大きなプレッシャーに、考えただけで咽びたくなる話である。
何分、父親の自由奔放さという王としては1番ダメな素養を色濃く受け継いでしまったのだ、仕方ない、と1人首を上下に揺らし勝手に納得する。
「そろそろ部屋に戻んねーとダメかなぁ」
縦長の小さな窓の外を見ると、真ん丸の月が静かに見下ろすようにそこにあった。
夜はまだまだ長い。
どうせ朝になれば、慌ただしく急かせかと忙しない1日が始まるのだ、もう暫し、この薄暗い場所で、一人でいる時特有の時間のゆったりとした流れ、静寂さを堪能しようではないか。
アーサーはそう決め込み、胡座をかいて本棚に凭れる。
すると、間も空かずに木製の本棚の側面をコンコンと叩く音が響く。
音がした方向を見ると、ランプを片手に苦笑いを浮かべる、アーサーの父親、ペンドラゴンの称号を持つ現ブリタニア国王アルベルトが、そこに立っていた。
「こんな夜更けに明日の主役が居るなんて、侍女長が知ったら鬼の形相で説教だぞ?」
「説教だけで済むなら、俺は明日の式には出ないってメモ残して家出しますよ。それで済まないから渋々妥協して些細な反抗してるんじゃないですか」
苦虫を噛み潰したような顔をするアーサーに対し、アルベルトはそれもそうかと朗らかに笑った。
「そう言う貴方こそ、こんな所に居ていいんですか?アルベルト国王」
「実の父親に敬語なんて使わなくてもいいよ、アーサー。今時、自分の立場より上の者に畏まって跪くなんて、流行らないだろ?」
「……敬意を示すのは大事だと思いますよ。目上の者も、目下の者も。特に、貴方はこの国を治める者なのだから、厳格でなければ」
「意地悪を言うなよ。本当のところ、俺が堅苦しいのが嫌いなだけなの知ってるだろ?それとも、アーサーは俺に厳格で威圧的な王様になってほしいの?」
ニヤリと口角を上げ、子供のように悪戯っ気の含んだ笑みを浮かべるアルベルトを見て、この男の厳格さを発揮する姿を想像出来ない、むしろ想像したら面白くて笑いが込み上げそうになる。
やはり自分たちは親子なのだと再確認し、気を弛めたアーサーは軽く肩を下げた。
「そもそも厳格に振る舞うなんて無理でしょ、父さんには」
「その評価はその評価でちょっと不服だなぁ。これでも父さんはお前が生まれる前は冷血のペンドラゴンという異名を轟かせてたんだぞ」
口を尖らせながら隣に座る父親に対し、アーサーはケタケタと笑いながら
「俺が生まれる前の話だろ?つまり、俺が生まれた時点で父さんは不抜けちまったってことだ。俺という新時代の綺羅星が今ある以上、冷血のペンドラゴンは過去の遺産、詰んでる。チェックメイトだよ」
実の息子に終わってると指摘され、手厳しいと頭を搔く。
「ま、お前がいるんだもんな。未来の国王様!」
アルベルトは満面の笑みで、犬をあやすように両手の指を立て、豪快にアーサーの髪を乱していく。
「ちょっ、いきなりなんだよ」
「親子のスキンシップってやつだ!ハハッ、昔はもっと屈まないと撫でれなかったのにな!大きくなったなアーサー!」
「そりゃもう15だし……ってか、そろそろ手ぇどけろよ!」
パッとアルベルトがアーサーの頭から両手を離すと、無造作に逆立った髪の毛が形を残す。
「ライオンみたいなってるぞ」
「お前がやったんだろーがッ」
指をさして面白がるアルベルトの左肩を軽く小突くと、「わるい、わるい」と言いながら強引に掌でボサボサの髪を潰していく。
アーサーは、虫も殺せない様な優男の風貌で、どこにそんな乱雑さが宿ってしまったのだろうかと、疑念を抱きつつ、その不器用な手を黙って受け入れた。
「よし、これでいいだろう」
満足気に手が離されると、今度は髪が押さえられすぎて、アーサーの髪本来の特徴である、ふわふわとした質感、外ハネする癖が全く影もない形になっていた。
「お前には0か100しかねぇのかよ!」
「ハッハッハッ、ちょっと父さんと似てるな」
「うるせぇよ!!」
自身のストレートヘアーを指しながら、お揃いだと笑うアルベルトを横目に、アーサーは自分の手でクシャクシャと頭を崩し、元の髪型へと整えていく。
「どうせ明日になったら使用人たちが、神経張り巡らしながら丁寧に整えてくれるだろ?」
「普段寝癖だらけの俺が、こんなピッタピタの髪になってるの見られたら、接着剤でも頭に塗ったのかってあの偏屈メガネに嫌味言われて、その日1日中ガレスに馬鹿笑いされるに決まってる!」
不機嫌な犬のように唸るアーサーを見ながら、アルベルトは目を細めながら少し困ったような、物寂し気な笑みで再度アーサーの頭に左の掌を乗せた。
またぐしゃぐしゃにされると構えたが、一向に撫でられずただ置かれたままの手に困惑しつつ、アルベルトの顔を見ると
「俺はそろそろ行くわ」
頭に置いていたその手を離し、アーサーの右の手元にあった『エッダ』と、床に散らばっている数冊の本の中から1冊、そして本棚の上から3段目にある棚から少し色褪せた薄いノートを1冊、計3冊を手に蔵書庫の扉を開け外へ出ていく。
「父さん……?」
一瞬面をくらったアーサーだが、直ぐに立ち上がりアルベルトの背を追う。
外に出ると、空に浮かぶ月は、その周りに白虹を作り、初夏特有の青嵐が、アーサーたちの髪を靡かせながら、その鼻腔に草木の瑞々しい香りを連れてくる。
いつの間に用意していたのか、アルベルトは自分の愛馬に跨り、マントを羽織り出す。
そして肩から鞄を下げると、アーサーの方へと馬と共に身体を向ける。
「アーサー、ブリタニアを、この国の民を任せたぞ!」
「は……?ちょ、ちょっと待ってくれよ。一体何の話だよ?」
「俺はな、父さんはな……王様辞める!」
「ハァ!?!?!?」
唐突な現統治者のワガママ辞職宣言に、驚愕すると、そのままアルベルトは呵々大笑しながら、馬に乗って山の方角を目掛け、草原を走り去って行った。
「………………マジかよ」
気が付くと、遠くから響いてきたであろう高笑いする父親の声と、呆然と口を開けたままのアーサーだけが、夜の草原に取り残されていた。
我に返ったアーサーは、己の父の奔放すぎる行動と無責任発言に、これから起こりうる最悪の事態を頭に過ぎらせながら顳顬に筋を立てた。
「この、このッ……!クソ親父ぃいい!!!」
怒りに任せて叫んだ声は、月夜へ木霊して消えていくのだった。
高校の時からずっと書きたいなと
思いながら、知識の蓄えが追いつかず
「このままでは一生書けないッ」と思い
とりあえず筆を進めたこの作品。
まだまだ全然勉強不足なので、
勉強しながら書き進めていくことに
なりそうです。
遅筆なのに、更に投稿するの
遅くなりそう……。
頑張っていくので、応援したっても
ええでって方、暖かくなくて良いんで、生温く見守って頂ければ幸いです。
湊鏡葵斗