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政宗が上で光圀が下で

 まだ九月なのに、ハロウィンだろうか。

 顔に包帯をぐるぐる巻きにした男を見て、美哉はそんなことを思った。

『お前は友達のことで泣くくせに、こういうときはびびらんのだな』

 光圀に言われて、美哉は驚いた。

「えっ!? 『このガキ』って私のことなの!」

 光圀が呆れる間も無く、件の男が叫ぶ。

「他におらんだろが! とぼけやがって!」

 朝っぱらからテンションが高い。大体、自転車を担いでるのも不自然だ。


 自転車……自転車。そこでようやく、美哉が気付いた。


「ああ!? その声、その自転車! この間の!?」

「今になって気付いたのか……!」

 男はショックだったらしく、自転車を担ぐ力が抜けて、道に落としてしまった。


 いや、自転車は落ちなかった。そのままふわりと浮いたかと思ったら、自転車に跨った姿の人間が現れた。

 歳は騒いでいる男と同じぐらい。服装は甚兵衛で、筋骨隆々の太い足のすね毛がよく目立つ。

 その顔の右目には眼帯がしてあって……。


『ああっ!? 政宗のじいさん!』

 光圀が美哉の頭をポンと叩いた。

 すると相手の方は自転車を器用に空中で漕いでみせてから、笑って答えた。

『お前の方がよっぽどじじいじゃねえか、ちぃ坊。まさかお前だとはな』

『またそんな若作りをして……恥ずかしくないんかい!』

『っせえなあ。死んだ後ぐらい体に不自由したくねえだろがよ。まっ、目の方は片目に慣れちまったが』

 二人の会話に割って入ったのは、自転車の本来の持ち主の方である。

「何をごちゃごちゃくっちゃべってんだよ! あのガキをぶん殴るの手伝ってくれるって約束だったろ!」

『初対面のお嬢ちゃんの前で人聞きの悪いことを言うない。俺はお前がめためたにやられたことに思い当たる節があるから手伝ってやるって言ったんだ』

 何やら込み入った事情があるようなないような。

 美哉はといえば政宗と呼ばれた男のすね毛の方が気になっていた。自分の父親よりは濃い。

 おそらく、この人が有名な伊達政宗なのだろう。どちらかといえば光圀よりゲームとかに出てくる分だけ、美哉にも覚えが良い。

 その政宗は包帯男の上を自転車でぐるぐる回ってから、自転車と一緒に地面に降りてきた。自転車はどこか痛んでいるらしく、キシキシと嫌な音が聞こえていた。あれでは普通の人間では乗って帰れないだろう。

 それから興味深げに美哉の顔を眺めてから、つぶやいた。

『ふうん……なんか食わせてやりたくなる顔だな。どうだ、ずんだでも一緒に』

 変わったナンパである。そもそも美哉はずんだを知らなかったので、光圀に助けを求めた。

『ずんだっていうのはな……って、今はそれどころじゃないわい』

 朝の空に、どこからかパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

 まあ、あれだけ包帯男が騒いだら、近所の誰かしらが通報するのもおかしくない。

 もしくは、ここに来る前に何かしでかしたのか。

 政宗は包帯男の肩をぽんぽんと気安く叩いた。

『時間切れだ。さっさと行くぞ』

「今やらねえのか!?」

『あのとぼけたじじいな、ああ見えて人を斬ったことがあるんだ。あんま舐めない方が良い。力は貸してやるから……一度退くぞ! 遅れるない!』

「っておおおおおい! 勝手に人の漕いでくな!!」

 政宗の漕ぐ自転車を、包帯男が大慌てて追いかけていく。

 霊が見えない人があの光景を見たら、さぞや奇怪であろう。


『さて、わしらも行くぞ』

 光圀の言葉に、美哉は驚いた。

「あのままでいいの?」

『あんなの追いかけたら、お前まで警察に怪しまれるわい。あの様子だとまた来るだろ』

「いや、来て欲しくないから今なんとかしたいって話なんだけど……」

 光圀の言うことも一理あるが、このままにしておくのは気持ちが悪い。

『政宗のじいさんが付いてる以上、そうほいほい捕まりゃせんだろうしなあ。まあ、そこが狙い目だとも思うんだが』

 謎かけのような光圀の言葉に美哉は首を傾げた。


 ああ、でも……これで、正四と話すきっかけが作り易いかもしれない。


 そう考えた美哉の顔を見て、光圀は愉快そうに鼻で笑った。

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