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10-4


 朝霧の混じる澄んだ空気が、ひやりと頬を撫でる。


 これはとても珍しいことだ。オズボーン家に仕える使用人たちの心配りは常に行き届いていて、家主にとって快適な環境が整えられている。考えられることとしては、熟練の彼らの予想を上回って、今朝が特に冷え込んだということなのだろう。


 とはいえベッドのなかはいつもと変わらず完璧だ。


 清潔なシーツ。ふかふかの羽毛。

 そして、ぬくぬくと暖かな抱き枕。


 そこでラウルは、ん?、と半分眠った頭で考えた。彼の持ち物のなかに、抱き枕というものは存在しない。それなのに、どうしてこんなものがベッドのなかにあるのだろう。使用人の誰かが気を利かせて用意をしたのだろうか。


 それにしても、なんと心地いい抱き枕だろう。


 抱き心地といい、肌触りといい完璧なうえ、おまけにちょうどいい塩梅に温いときた。もしかしたら、中に湯たんぽでも入っているのかもしれない。おかげで、頬に当たる空気の冷たさが少しも苦にならない。


 しかも、だ。安心するような、それでいて心が弾む、この甘い香りはなんだろう。新しい香料を仕入れたのだろうか。うむ、そうに違いない。


 ああ、出来ることならこのままもう一眠りしてしまいたい。彼らしくもなくそんなことを思いながら、ラウルは回した腕にぎゅうと力をこめ、抱き枕を深く抱きしめた。


 その抱き枕から、「ぎゅむ」という妙な音が漏れた。


 彼は瞼を閉じたまま眉根を寄せた。今のは人の声に似ていたが、抱き枕のなかの詰め物が奏でた音だろうか。いや、一体全体何を詰めたらあんな音がするというんだ。


 そもそも、だ。

 改めて、この腕の中にあるモノはなんだ?


 だんだんと頭が冴えてきたラウルは、恐る恐る瞼を開く。すると、控えめにこちらを見上げる明るい緑色の大きな瞳とばっちり目があった。


「あ……、おはようございます?」


 抱き枕――もとい、照れくさそうに眉をへの字にしたシェイラが、小首を傾げてぎこちなく微笑んだ。


「うわあ!?」


 悲鳴をあげて、ラウルは床に転げ落ちた。受け身をとる間もなくしたたか床に体を打ち付けた彼であったが、うずくまっている場合じゃない。慌ててベッドの上を確認すれば、心配そうにこちらを見下ろすシェイラの姿があった。


「あ、え!? シェイラ!? なんで、え!?」


 素早く視線を巡らせるが、ここはラウルの部屋で間違いない。いつものベッド、いつもの天井、いつもの寝間着に身を包んだ自分だ。


 対して彼女は、念のためにと保管してある嫁いでいったラウルの姉の寝間着を着ている。つまり、昨夜のうちに自分か使用人、どちらかが彼女にそれを貸しているということだ。


 ラウルは非常に混乱した。なにせ、昨夜の記憶がごっそり抜けていて、何がどうしてこの状況を招いたのかまるでわからない。


 いや、待てよ。だんだんと思い出してきた。


 カトリーヌ・シオンに体を奪われたこと。間一髪で体の主導権を取り戻し、シェイラを襲う刃をなんとか止めたこと。


 そして、彼女に唇を奪われたこと。


 不思議なことに、お返しに唇を奪い返したのを最後にラウルの記憶は途切れる。いや、まったく何も覚えていないかと言われればそうでもないが、ひどく霞かかって曖昧だ。


 とはいえ、念願叶ってようやくシェイラと気持ちが通じあっていることをを実感できたのだ。そんな自分が何をしでかすかは想像するに難しくはないし、うっかりタガが外れてしまった可能性は十分ある。


 むしろ、それ以外の可能性があるだろうか。


 カッと頰が熱くなり鼓動が途端に早くなる。ごくりと喉を鳴らし、ラウルは慎重に切り出した。


「シェイラ。こんなことを聞くのは失礼だと、男として最低だとわかっている。だが、これだけははっきりさせておきたいんだ」


 シェイラが首をかしげる。何も言わないということは、先を続けろということだ。


 たっぷり逡巡したのち、ラウルは思い切ってその問いをぶつけた。


「俺たちは昨夜……その、結ばれたのか?」


 シェイラはますます首を傾げた。だが、しばらくして、ようやくラウルの言うところの「結ばれた」の意味を理解したらしい。


 シェイラの頰がみるみる赤くなり、水に打ち上げられた魚のようにぱくぱくと口を開いては閉じる。彼女はぎゅむっと枕を掴むとラウルの顔めがけて投げつけた。


「何でそうなるんですか!? ラウルさんのヘンタイ!!」






 カトリーヌは眠り、エリーゼ姫のゴーストはブローチへと戻った。


 憲兵隊詰所に満ちていたゴーストの気配も同時に掻き消え、倒れていた憲兵隊たちも次々に目を覚ましていく。まだぼんやりとした様子の憲兵隊たちが後処理を進めていくなか、ラウルだけはすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。


 単純な疲労だろう、とユアンは言った。とはいえ、ほかの者たちと違いラウルだけがゴーストに体を奪われたのだ。そのことによる反動もないとは言えない。とにかくそういうわけで、今晩中に出来る後処理はユアンが請け負うことにして、シェイラとラウルはそれぞれの家へと送り届けられることになったのである。


 ところが。


「いやだ。お前を帰したくない」


 そう言って、ぎゅうと強くシェイラを抱きしめたのは、寝ぼけまなこのラウルだ。


 ふたりがいるのはラウルの屋敷前に止めた憲兵隊の車の後部座席。そして、彼らをここまで運んできたユアンはといえば、開けた後部座席の扉の縁を苛々と指で叩きながら、額に青筋を立てた笑みでラウルを見下ろしていた。


「あのですね。私も暇じゃないんで、いちゃついてないでとっとと車を降りてくださいませんかね?」


「す、すみません! ラウルさん、車降りましょ? ユアンさん怒ってますから。ね?」


「ああ、いや。シェイラさんは謝らないでください。私はこの馬鹿に言っているんで……」


 どうにかラウルを起こし、車に詰め込んだまでは良かった。だが、先に立ち寄った彼の屋敷についた途端、ラウルはこのように駄々をこね始めたのだ。


 彼の表情を見れば、眠気により完全に正気を失っているのがよくわかる。ラウルの全身はどこもかしこも隙だらけで、漂う色気も駄々洩れだ。


 しかも彼は、ちっともシェイラやユアンの言葉に耳を貸そうとしない。何度車を降りるよう促しても、ラウルはいまにも閉じてしまいそうなトロンとした瞳でシェイラの肩に顔を埋めるばかり。


 そんなわけで最終的にユアンもシェイラも白旗を上げた。というより、ラウルを迎えに出てくれていた執事がシェイラに屋敷に泊まることを勧めてくれたので、互いにいたたまれない心地になっていたふたりがこれ幸いと提案に乗ったのである。


「と、いうわけで、私がラウルさんの屋敷に泊まったのは完全に成り行きなんです。言っときますけど、あんなことやこんなことも、一切ありませんでしたからね!」


「色々ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」


 ぷんすかと腕を組むシェイラに、ラウルがマットレスに額がつくほど深々と頭を下げる。尚、シェイラたちは未だ寝間着姿で、ベッドの上で向かい合うようにして座っている。


 いくら意識が朦朧としていたとはいえ、昨夜のうちにそんなにも黒歴史を積み上げているとは彼も思わなかったらしい。シェイラから真相を聞かされたラウルは、すっかり恐縮した様子で身を縮めている。


 だが、ラウルは腑に落ちないことがあったらしく、少しだけ体を起こして首を傾げた。


「……シェイラが屋敷に泊まった経緯はわかったとして、どうしてお前も俺のベッドで寝ているんだ? ああ、いや、ダメだって意味じゃない。ただ、この屋敷には客間もあるから、当然そっちに案内されたはずだが」


「ああ、そのことですね」


 遠い目をして、シェイラは頷く。


 ――もちろん執事は客間を用意すると言ってくれたし、シェイラもそちらを借りるつもりだった。だが、ストップをかけたのは他でもないラウル自身だ。


〝今夜はこのまま、お前の体温を感じていたい。……だめ?〟


 熱のこもった彼の声がリフレインし、シェイラの頬がぽんと熱くなる。こほんと咳払いをして動揺を誤魔化しつつ、シェイラはちらりとラウルを見やった。


「そっちについても色々とエピソードがあったりするんですけど……聞きます?」


「いや、いい」


 ごめんなさい。そう言って、ラウルはもう一度深々と頭を下げた。――尚、その姿勢が遠く海の向こうにあとある島国で『土下座』と呼ばれているということは、当然ながらふたりの知るところではない。


 とはいえ、昨晩何もなかったのは本当だ。よほど眠かったのかラウルはベッドに潜った途端すぐに寝付いてしまったし、シェイラもなんのかんの疲れていたのかすぐに眠ってしまった。そのあとは一度も目を覚ますことなく、こうして朝を迎えたのである。


 そのことを伝えると、ラウルはホッとしたような、それでいて残念そうな複雑な表情を浮かべた。


「しかし、流れとは言えこうして家に戻ってしまったが、詰所のほうは大丈夫だろうか? またカトリーヌがゴーストの力を借りて、拘束を抜けて逃げたりしていたら……」


「その心配はないですよ」


 きっぱりと首を振って、シェイラは断言をする。


 カトリーヌが意識を失ったあと、念のためシェイラも彼女を調べてみたのだ。だが、彼女のなかにはゴーストの気配は欠片も残っておらず、エリーゼ姫のゴーストとの強い結びつきは既に消えていた。おそらく、彼女自身がエリーゼ姫から力を引き出す必要性を感じなくなったためだろう。


 悲恋の果てに命を落としたエリーゼ姫と、叶わない恋のなか失意に溺れたカトリーヌ。今回の事件は、ふたりの女の『恋』にまつわる無念が偶然に呼応しあったことで、生者と亡者の魂が密接に結びついたために起こった。


 だが、恋敵への復讐という強い目的を失ったカトリーヌが、再びゴーストの力に魅入られてしまうことはないだろうと、シェイラは考える。


「一応ブローチのほうも調べてみましたが、カトリーヌさんという依り代を失ったいま、あのブローチにそこまでの力はありません。ユアンさんが厳重に鍵をかけてしまっていましたし、もう悪さをすることはないと思います」


「そうか。よかった」


 ほっと肩の力を抜いて、ラウルは微笑んだ。


「だが、あれをシュタット城に戻すまでは油断がならないな。いや、戻したあとこそ重要か。二度と〝ルグランの悲恋〟に関わる品々がもちだされることがないよう、城の管理者に指導をするとして……それから……」


「ああ、もう! ダメですよ!」


 途端に仕事モードに入って、表情も険しくあれこれと策を巡らせるラウルに、シェイラはストップをかける。怪訝そうに首を傾げる彼に、シェイラは人差し指を立てて左右に振った。


「ユアンさんから伝言です。『後処理は任せて、今日一日はしっかりと養生するように』。昨日、散々無茶したばかりなんですからね。仕事のことは一旦置いておいて、ちゃんと身体を休めてください」


「無茶? 俺は単に体を奪われていただけで、これといって無茶は……」


「何言っているんですか。ゴーストに体をのっとられるなんて大事件なんですよ! ていうか、こんなふうに起きていて大丈夫ですか? 気持ち悪かったり、頭が痛かったりするなら、ちゃんと横になっていないと」

 

 心配に眉根を寄せて、シェイラはラウルの顔を覗き込む。すっかり顔色が良くなっているとはいえ、なにせ彼は昨夜、ゴーストに体を奪われていたのだ。何かしらの不調が残っていても不思議なことはない。


 だがラウルは予想に反して、「大丈夫だ」とあっさり首を振った。


「実を言うとここ最近あまり調子がよくなかった。けど、俺の中から連中が出ていったとき、俺の記憶に住み着いていた亡霊も一緒に出て行った気がしたんだ。憑き物が落ちた、とでも言うべきかな。……俺はまた、お前に救われてしまったな」


 どこか悔しそうにラウルが視線を伏せる。その表情に、シェイラは思い切って尋ねた。


「私に助けられるのは、嫌ですか?」


「そうじゃない」


 ぱっと顔を上げて、ラウルが即答する。


「ただ、俺はお前を守るどころか、お前に剣を向け、危険に晒してしまった。それが不甲斐ないだけだ」


「何言っているんですか。ラウルさんは、私を守ってくれましたよ」


 忘れたとは言わせない。カトリーヌにより勢いよく剣が振り下ろされようとした刹那、辛くも体の主導権を奪い返し、シェイラを守ってくれたのはラウルだ。


 シェイラは身を乗り出し、ラウルの頬に触れる。気落ちしているためかいつもよりほんの少し幼く見える彼の顔を覗き込み、シェイラは優しく微笑んだ。


「ラウルさんは強いひとです。そのことは十分すぎるくらい伝わっています。だけど、……ううん。だからこそ、私はあなたの弱い部分も知りたい。そして、力になりたい。昨日も言ったでしょ? あなたを大事に思う気持ちは、私も同じだって」


「シェイラ……」


 シェイラの手に己の手を重ね、温もりを確かめるようにラウルが瞼を閉じる。次に視線を上げたとき、ラウルの瞳には新たな熱の光が灯っていた。


「お願いだ。お前の気持ちが知りたい。お前の、言葉をくれないか?」


 その強請るような甘えた瞳に、シェイラは思わず笑みをこぼしてしまった。


〝それはつまり、愛の力じゃないかしら〟


 初めて聞いたときは突拍子のない説だと思えたクリスティーヌの推測は、結局のところ正しかったのだろう。だからこそ、互いの想いが通じ合った途端、カトリーヌはラウルの身体の中から追い出されたのだ。


 つまり逆説的に言うならば、昨夜のやり取りを通じてシェイラの気持ちはきちんとラウルに届いていたことを意味する。


「変なラウルさん」


 僅かに頬を染めて、シェイラはわざとそのように返す。


「私の気持ち、ちゃんとわかっているくせに」


「仕方がないだろ」


 照れ隠しのためか僅かに眉根を寄せて、ラウルが口をとがらせる。


「俺がどれだけ、待ちわびていたと思っている」


 その拗ねた表情には、嘘も誇張もない。たしかにシェイラはこれまで散々彼を待たせ、焦らしてきた。それは決して悪意によるものではなかったけれど、シェイラをずっと待っていてくれた彼に、きちんと想いを告げると自分は誓っていたはずだ。


 シェイラは身を乗り出し、ラウルの唇に己のそれを重ねる。それから彼女は、ラウルの紅い瞳をまっすぐに見つめて、花が咲くような笑みを浮かべた。


「これが、私の気持ちです。大好きです、ラウルさん」


 ラウルが目を瞠り、それから笑み崩れた。


 シェイラの視界がくるりと回る。気が付けば彼女はラウルに押し倒され、柔らかなベッドに身を沈めていた。


「……嫌か? 今ならまだ、抑えられる」


 気遣わしげな顔でシェイラを見下ろし、ラウルが問いかける。やはり彼はどこまでいっても真摯でまっすぐだ。強引なようでいて、決して大切なラインは踏み越えない。そんな彼の優しさは、ぐずぐずにシェイラを甘やかす。


 少し考えてから、シェイラは首を振った。


「ラウルさんにされて、嫌なことなんかないです」


 けど、と言って、シェイラは手を伸ばした。そうやってラウルの頬を包み込むと、ゆらゆらと熱の揺れる紅い瞳に困ったように笑いかけた。


「緊張はしています。……だから、その。優しく、してくださいね?」


「ああ」


 愛おし気に目を細め、ラウルが身を屈める。シェイラの額、髪、そして頬。軽やかな音色を立てて、彼は優しく触れるだけの口付けを次々に落とす。


「昨夜、何もしていなくて良かった」


 シェイラの首筋に顔を埋め、ラウルが囁く。その声は今まで聞いたことがないほど艶やかに耳を打ち、彼女の胸の奥をぞくりと疼かせる。


 彼はシェイラの手に己の指を絡めると、真っ赤に染めあがった恋人の顔を甘く見下ろした。


「――お前との初めては、すべて記憶に焼き付けたい」


 くらりと眩暈を覚え、シェイラはぎゅっと目を閉じる。そんな彼女にくすりと笑みをこぼしてから、唇を奪おうとラウルが顔を近づけた。


 だが。


 カランと遠くでベルが鳴る音がして、一瞬ラウルが動きを止める。一拍おいて、何事もなかったかのように先を続けようとする彼に、シェイラは「ま、待って」と制止を掛けた。


「さっきのドアベルの音ですよね? 誰かお客さんがきたんじゃ……」


「この時間なら郵便か何かだろ。それに玄関には俺が出ずとも、執事が出るから問題ない」


「で、でも! 対応が終わったら、この部屋に報告にきますよね?」


「……お前が俺の部屋に泊まったことを、あいつも知っているんだろ? よほどの急ぎの内容じゃなけりゃ、空気を読むはずだ」


 言葉とは裏腹に、ラウルはちらちらと扉に視線をやる。彼自身、だんだんと嫌な予感がしてきたらしい。


 それからほどなくして、階段を上る誰かの足音が微かに響いた。足音はそのままラウルの寝室前まで続き、次いでコンコンと控えめなノック音へと変わった。


「おはようございます、ラウル様。……その、申し訳ございません。急ぎお耳に入れたい内容がございまして、少々よろしいでしょうか」


 シェイラにのしかかったまま、ラウルががくりと項垂れる。彼は腹の奥底から染み出してきたような澱んだ溜息を深々と吐くと、心底名残惜しそうにシェイラから離れて、「入れ」と扉に声を掛けた。


 戸を開けたのは、やはりこの屋敷の執事だった。主人の顔を一目見ただけで、自分が何かしら邪魔してしまったことを察したらしい。つくづく申し訳なさそうに身を縮めつつ、彼はラウルとシェイラを交互に見た。


「実はシェイラ様にも関係のあるお話でございます」


「私、ですか?」


 先ほどまでの余韻でなんとなく気恥ずかしく、なるべく執事の視界に入らないようベッドの隅で小さくなっていたシェイラだが、思わぬ発言につい頓狂な声を上げてしまう。


 そんな彼女にホッとしたように頷いてから、執事は先を――衝撃の知らせを口にした。


「ただいま報せが入りまして、本日夕方、旦那様と奥様がこの屋敷におみえになるとのことです。それから……シェイラ様。お二方様は今夜のディナーに、あなた様をお招きになりたいと仰せでございます」


「だんな、さま?」


「つまりは、ラウル様の御父君と御母君でございます」


 恭しく頭を下げた執事に、シェイラはしばし沈黙。


 ややあって、彼女は屋敷中に響くような悲鳴を上げたのだった。



 


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