リュックサックに異常、卵が孵る
ちょいちょい、色々出てきます。
つまりながら書いています。
仰ぎ見た先で、ぴーひょろろと鳥が鳴く。嘆いても仕方ないので、ちょっと休憩することにしました。ま、これで誰かの説明あっても怖いよね。リュックを下ろして、公園ランチ用にと入れておいた100均のレジャーシートを取り出そうとリュックを開いたら、あらビックリ。
「どうなってる、の? ……はぁ?」
中は暗黒でした。いや、私のお弁当(散々シェイク済)とかマイボトル(ただの麦茶、恐らく泡立ち済)とか、持ち歩いてるメモ帳(最近一目惚れして、衝動買いした一品)とか、どこいった。恐る恐る手を突っ込んだら、何にも触らないし第一光が当たっているのに中が見えない。ってか、リュックの高さ以上に手を突っ込んでるのに、底に当たらない。私のリュックサックがなんかわからないうちに、よく分からない物になった。唯でさえよく分からない場所にいるのに、非常に困る。
突如として表れたリュックサック問題に、頭を抱えていた私の耳にかすかな音が聴こえてくる。コツコツ、コツコツと固いものをノックするような音の後に、カリカリと引っ掻くような音。それが、交互にコツコツ、カリカリと止まずに響いてきます。
はっとして顔を上げたら、卵が震えてるじゃありませんか。もしかして、もしかしなくても……。
「生まれちゃうかい、今、このときに」
少なくとも、側に居て良いのは私じゃないよね。オカアサンやらオトウサンのが良いでしょう。で、つまりは……。
「帰ってくる、よね。あんなでかい卵産めるような立派な親御さんが」
それってもしかして、めっちゃヤバいんじゃ。私は生まれたばかりのお子さまの栄養となるべくオカアサンのご飯になるのでは。
考えるうちにも、卵の震えは最高潮に達していて。コツコツという可愛い音は、ゴツゴツと力強い音に。カリカリと軽い感じの音はガリガリと削り出す音になる。
『ペキッ』
今、ペキッて言ったよね。つまりは卵が割れたってことで。輝く卵を恐る恐る見ると、確実にヒビが入っているのが分かった。ついでに光が増しているのも感じる。
『パキパキッ』
ぎゃあー、生まれるー。取り敢えずリュックサック問題は棚上げするとして、さっさと退散することにします。あてはないけれど、必ず親が帰ってくるここにいるよりはマシなハズ。リュックサックのファスナーをしめ、今まで通りに背負う。やっぱりガサガサ言うが、中身は底なし暗闇。いや、余計なことを考えている暇はない。さっさとおいとましましょう。
『パカッ』
スタスタ歩いて、茂みに隠れる。足音、羽音は聞こえないが、油断は禁物です。体を低くして、見つからないようにそーっと歩き出したところで、小さな声が聞こえる。掠れるようなかすかな囁き。
『カ、アサン』
可愛らしい男の子の声、それが弱々しく誰かを呼んでいます。
『カアサン、ドコ? ミエナイ、ヨ?』
たどたどしい、可愛らしい囁き。信じられないけれど、聴こえていたのは間違いなく卵の方向から。
『カアサン、カアサン。サミ、シイ。ドコ? カ、アサン』
来る、親が間違いなく来る。穴に落ち、森をさ迷い、卵が光り、愛用のリュックサックはよく分からない物になり、あまつさえ生まれたばかりの卵から日本語が聴こえる。これだけ常識外れのオンパレードでも、この声はいただけなかった。
弱くなっていく鳴き声に、誰も来る気配のない森の中。
あー、もう私死ぬかもしれない。得たいの知れない何かに食べられて。そう思いながら、卵に向かって駆け出した。
『サミ、シイ。カ、アサン、ドコ、ドコ?』
「お母さんじゃないけど、抱き締めてあげる。淋しいの、嫌だもんね」
どうにでもなれ。私は光の中に手を突っ込んだ。