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彩星の魔術師【旧題:最速の魔術師】  作者: 上和 逢
『魔術師』と『無能』
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『魔術師』と『無能』2

(……相手の攻撃を的確のアジャストして行っている!)


 ユミはミヤビの恐ろしく繊細な剣捌きに見惚れていた。


 ここまでミヤビはすべての攻撃を受け流している。

 それには理由があって、おそらくミヤビは圧倒的にパワーが足りていないからだ。


 この「パワーが足りていない」というのは別に男女の差を言っているのではない。むしろこの世界ではそんなものを重視することなど愚の骨頂だ。


 では何が「パワー」に繋がってくるかと言えば、それは個人の「内蔵魔力」だ。


 魔力とはこの世界の人間において純粋なパワーの源である。

 ユミと老人の研究ではもっと細かいところまで把握できている部分もあるが、それであっても力の根源であるというのは変わらない。


 それゆえ、「魔力が多いこと」それ自体が「大きなパワーを持つこと」に繋がっていくのだ。


 その原理から判断すれば、魔力がないというのは圧倒的なまでのディスアドバンテージとなることは明確であり、その体質をもって生まれてきたミヤビはどう頑張っても学園にいる生徒には力で勝てないだろう。


(そんな中で対抗するなら力を受け流すテクニックしかないけど、それは口で言うほど楽ではない)


 ユミもより強大な魔力の持ち主と戦ったときはそれを意識した戦い方をするように心がけていたが、それがなかなかうまくいかなかった。

 それだけにユミの現在の戦闘スタイルはどちらかと言えば中遠距離だ。


 今は『英雄の翔靴(ヘルメス)』の力が大きく作用していることもあって近接戦で戦えるイメージを付けているが、今後さらに上の序列の相手と戦えば確実に遠距離重視になっていくだろうと予想しているくらいだ。

 魔術は極めれば万能ではあるが、決して全能ではない。

 どうしてもそれを扱う者の技量がいる。


 それだけにミヤビの体捌きは恐るべきものがあるのである。


(………………すごいな)


 ただただそんな言葉がユミの心の中から出てきた。


 そしてその後、すべての攻撃にアジャストされて焦ったクリストファーが下がろうとしたタイミングを縫ってミヤビが試合中初めて攻撃。

一刀のもとに斬り伏せて勝利をもぎ取った。


 その後、周囲の罵倒をものともせず立ち去るミヤビの後を追っていくと、


「誰?」


 ものすごく冷たい眼差しを持って、未だ『インビジブル』の効果で見えなくしているユミの存在にミヤビは気がついた。


(ははっ、本当にすごいや……)


 ミヤビの研ぎ澄まされた刃のような視線に何処か高揚した気分をユミは感じながら、不可視の魔術を解く。


「やあ、久しぶり」

「あ、あなたは!」

「君のお陰で学園に入れたから挨拶したくてね」

「そ、そうだったんですか。お、おめでとうございます」

「……それ、なんか日本語がおかしいような気がするんだけど」

「ふ、ふぇ!? そ、そうですか?」


 ユミが話しかけた瞬間に、先ほどまでのそばにいるだけで全てを見透かし、なおかつ首に刃を当てられているかのような感覚が霧散して、ミヤビは初めて話した時のようにオドオドした様子になる。


 その戦闘時と日常時のギャップに思わずクスクスとユミは笑ってしまう。


「あ、あの? な、何かおかしかったでしょうか?」

「いや、そんなことはないよ? ただ戦ってる時とだいぶ印象が違うなぁと思っただけだから」

「そ、そうですか?」

「へぇ、自覚ないんだ」

「は、はい……」


 なぜかおどおどどころかビクビクし始めたミヤビに又してもユミは笑うも、すぐに気を取り直して話を進めることにした。


「ねえ、どこかお店にでも行かないかな? この前のお礼もしたいし、個人的にミヤビさんには興味があるんだよね」


 ……どう考えても全ての発言がナンパである。


「ふ、ふぇ!?」

「ん? どうかした?」

「い、いえ……」

「?」


 ユミの発言にミヤビが顔を赤くして硬直するが、ユミは何故そうなったのか理由がわからなかった。


 実はこのような女子生徒に対して自覚のない発言がここ最近ユミは目立っており、それが余計に女子たちからは人気を、男子たちからは嫉妬を集めているのだが、ユミ本人は全く気がついていなかった。

 巷ではその見た目と女性を所構わず虜にするかのような行動から『白き吸血鬼』などと呼ばれていたりするのだが、もちろん本人が知るはずもない。


「もしかして、ダメだった?」

「い、いえ! そ、そんなことはないですよ!」

「本当に? よかったぁ、じゃあ行こうか」

「は、はい……」


 ユミはミヤビの手を引っ張って歩き始める。

 不安な方で相手に断らせにくくして、了承を得たらびっくりするくらい嬉しそうな顔をするというテクニックに何人もハートを撃ち抜かれたとの噂も出ているのだがもちろん本人は無自覚である。


 それからユミはもう一度『インビジブル』を発動しており、二人の姿を捉えることが出来た人間はおらず、その後無事に目的の店にやってくることに成功したのだが……


(……ど、どうしてここなんでしょうか?)


 戦闘モードから解放されると突然おどおどした状態になるミヤビはものすごく戸惑っていた。


 戸惑っている理由は別にお店の雰囲気が悪いとか先ほどのナンパ発言が本当に大人なナンパだったと確信させるようないかがわしい店でもなく、非常に雰囲気のいい喫茶店で、アーリア内でも人気のスポットではあるのだが、一つだけ問題があった。


 なぜなら今もたくさんの客が楽しく談笑しているのだが、その客がたいていの場合男女のカップルなのだ。

 そして、ミヤビも女の子としてこの人気スポットが、人気のデートスポットであるということまで知っているため、ここに連れてきた理由を勘ぐってしまう。


 さらにいえばさらっと奢るよ的な感じで飲み物を二つユミは注文したりもしていたし、それがまたなんとも判断に困ってしまう。


 これはユミの目的を訪ねるべきだろう。

 そう判断したミヤビは戦闘などでは感じないような緊張感の中、動いた。


「あ、あの」

「ん? どうかしたの?」

「な、なぜこのお店に来たのですか?」

「うん? どこかおしゃべりするのにいいお店ないかなって思ってクラスの女子に聞いたらここだって教えてくれたんだよね。まあその後実際にここに行かないかって話はこっちの事情で断っちゃったんだけど」

(ああ……この人天然だ……)


 明らかにその尋ねられた女生徒はユミとここに来たいがために教えたのだろうと思ったミヤビは「いやー、なんさよくわからないけど男子からは避けられててさーなんだなんだろうなー」と本気で疑問に思っているような顔でそんな男が聞いたら「ふざけんなっ!」と言いたくなることをのたまうユミをジト目で見つめる。


「それで本題に入るけどさ? その刀捌きは一体どうやって見につけたの?」

「へ?」

「いや、これでもかなりの数決闘をこなしてさ? この間学内序列が1000位内に入ることが出来たわけなんだけど……」

「!?」


 ユミの発言にミヤビは驚く、ユミはこの学園に入ってまだ一週間程度しか経っていない。

 そんな中ですでに学内序列をそこまで上昇させるというのは脅威でしかなかった。


「それなりに戦った中で君が一番技量が高かったから、君はどうやってそこまでの力を手に入れたのかと思ったね」


 そんなミヤビの驚きなどまるで気にしないとばかりに質問したくるユミにミヤビは一瞬戸惑うものの、どこかでこんな人物を見たような気がした。


(……ああ、この人は自分が興味のあることに全力で集中を注ぎ込んで、それ以外をほとんど気にしないようなタイプなんだ)


 自分の中にいる憧れの存在がそんな感じだったなぁと思ったミヤビはその瞬間、ユミを見ているとおかしくなって笑ってしまった。


「ん? 何かおかしかった?」


 奇しくもミヤビがユミに放った言葉をそのまま返された形になる。

 そのことにミヤビは気がついてまた笑ってしまうが、すぐにそれでは失礼だと思って笑うのをやめると、ユミの質問に答えることにする。


「わ、私の刀の扱いは私を育ててくれた師匠に教わったものです」

「へえ、師匠か」

「はい、私は物心ついた時から両親のことを知らずにいて、そんな私を師匠が拾って育ててくれたんです」

「……そっか」

「師匠は刀を極めたとかつて言われたそうなんですけど、本人はそれに満足も慢心もせずにずっと修行していました。

 それに私も影響されたといった感じですかね」

「なるほど」

(あれだけの技量はやはり一つの頂点に至った人物くらいのものだからな。我流とかだったら恐ろしいと思ってたけど、今回はそのパターンじゃなかったか)


 あの素晴らしいとしか言いようのない刀捌きの秘密は教授してくれた人物と聞いてある種の納得をユミは覚えた。

 そもそも「刀」という武器自体使う人間は滅多にいないのだ。

 それをあれほど使いこなすにはやはりある程度と知識が必要であるからある意味それは当然だと言えるだろう。


「質問なんですけど、ユミさんは『魔術師』なんですよね?」

「うん、そうだけど」

「た、確か魔術陣にあらかじめ魔力を込めて、一つ何か発動するための鍵を作っておくことでほぼノータイムで魔術を発動する、でしたっけ?

 こ、この技術はどこで手に入れたんですか?」


 確かこの技術は自分が作ったものではないって言ってましたけど、と付け加えるミヤビに対してうーんとユミは腕を組んでしばし考えた後、


「ジジイのお陰だな。不本意ながら?」

「へ? じ、じじい? ふ、不本意?」


 実に簡潔にユミは答えたものの、ミヤビからしてみれば何を言っているのかさっぱりわからない。


「実は僕、魔力の扱い方がド下手でさ? というか体外に出すことがほとんど出来ないのかな? そんなわけで聖具の扱いもままならない落ちこぼれだったんだ」

「落ちこぼれ……」

「そう、それで家が厳しくてね。そこにいるのが怖くなって逃げ出しちゃったんだ。

 そしてあのジジイと出会った」


 いやーあの時は完全に常識をぶっ壊されたなーと呟くユミに、なるほどとミヤビは頷く。


「つまり私と同じように師匠がいたということですね」

「それはない」

「ええっ!?」


 まさかの全否定にミヤビは驚くが、ユミはそこは譲れないとばかりに答える。


「あのジジイとは最初以外は常に対等だったよ。僕は物を覚えること自体は得意だったから、出会ってすぐにあのジジイがやってた技術は覚えたし、むしろ子供ながらの発想で僕がジジイの手助けをしたことだってあった」

「そ、そうなんですか……」

「まあ、同じ研究者仲間みたいなもんかな」

「は、はあ……」


 どうやら自分とは違う関係だったようだとミヤビは思って苦笑するが、次のユミの言葉に固まった。


「──だから、君の体質(・・)についても実はかなり気になってるんだよね」

「──ッ!」


 一瞬ユミの視線が見透かすようなソレに変わったような感じをミヤビは受けたが、いずれは知られることだろうとわかっていたことだけにすぐに気を落ち着かせていく。


「気になってるとはどういうことですか?」

「そのままの意味だよ。なぜ君は魔力を持たないのか、そしてなぜ(・・・・・)魔力を持たない(・・・・・・・)状態であの(・・・・・)レベルの相手と(・・・・・・)相対することが(・・・・・・・)できるのか(・・・・・)。研究者として気になるのは当然だよ?」


 「なんのことか?」と言外にとぼけるミヤビに対して心外だとばかりに言葉を強めるユミ。

 一瞬命を取り合うかのような緊張感が出てくるが、


「ま、別に君を取って食おうとしているわけじゃないんだよね。なぜその瘴魔領域での戦闘に不利そうな体で探索者を目指してるのかとかちょっと気になってるだけだから」

「……そうですか」

「別に不快ならこの件についてはこれ以上聞かないけど、個人的にはそこに君の強さの根元がある気がしたから答えてくれると嬉しいなとは思うけど」

「……わかりました。私もあなたにもともと興味があったので、貴方もあなたの強さについて教えてくれるなら話しましょう」

「いいよ、それくらいなら。……それにしても雰囲気変わったね」


 先程からおどおどしたところは一切見せなくなったミヤビに対してユミは嬉しそうにそう答えを返す。


 ミヤビ本人に自覚はないので一瞬首を傾げるも、すぐに気を取り直してミヤビは話し始める。


「私が探索者になりたいと思ったのは、もしかしたら母に会えるかもしれないからと聞いたからです」


 ……自分の、過去の話を。

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