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彩星の魔術師【旧題:最速の魔術師】  作者: 上和 逢
『魔術師』と『無能』
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学園生活初日1

「ユミと言います。今日からこの学園に通わせて頂くことになりました。よろしくお願いいたします」

「はい、というわけで特待生のユミ君です。みなさん新たなライバルから技と力と知識を学びましょう」


 初めて森を出て人と楽しく話をした翌日、探索者育成学園第九学園の教室の1つに、やや長めのプラチナヘアーに真紅の瞳をした端正な顔立ちの少年であるユミがいた。


 ユミは昨日シャリスから「明日には特待生で入学させるように手続きしておくから寮に行って」と言われて寮の特待生だけに与えられる一人部屋に手続きもなく入れてもらったのだが、本当に翌日のうちにはその手続きが済んで、こうして特待生含む上位の『探索者候補』たちが集まるSクラスに挨拶をしたのだった。


 ユミのどこか子供っぽい雰囲気も持ち合わせているその美貌を見てか、クラス内の多くの女性陣が色めき立つ。

 同時に男どもはみな「ケッ」と悪態をつくものの、その目はすでに品定めをするようなものに変わっている。


(……なるほど、『探索者は実力主義』か。シャリスさんの言った通りだな)


 相手を私情を抜きにして冷静に観察する眼に晒されたユミはこの場所はなかなか面白そうだという風に感じていた。

 また、ユミがかつていたときは、エルフや獣耳などがついた獣人などの存在は迫害対象であったのに対して、この学園はそんな人たちも平然と存在していることからも、その様子がうかがえた。


(強ささえあれば種族が何だろうと出生が何だろうと関係ないというのは楽でいいな……)


 そんな感想がユミの学園に対する第一印象だった。


 それから午前中は座学として、瘴魔領域内で取れる特殊な薬草や毒草についての知識や学園が対応している瘴魔領域の魔獣たちの情報などが、生徒たちの選択制で行われ、ユミは『冥途の森』以外の瘴魔領域の知識を蓄えた後、昼食時間となった。


 ユミはそこで学園の施設の1つである学食がある場所へ行こうとしたのだが、そのタイミングで学園長室に来るように言われたため、そちらへ仕方なく行くことにする。

 実はこの時虎視眈々と女子たちがユミにモーションをかけようとしていて、かなり危ない状態だったのだが、本人は気づかぬうちに肉食女子たちの脅威から逃れることが出来ていたのだった。


 そうして学園長室に到着すると、ダークエルフの人形であるヤンバルから手のひらサイズくらいの長方形型の学生証を渡された。


 同時にあらかじめユミのために用意していたという学食人気メニュー「アタイのおすすめ」なるもの(赤いスープのようなものの中にゴロゴロと肉や野菜が入ったスパイシーなものだった)を口に運びながら、ユミは学生証についての話を聞いていた。


「学生証は特殊な道具でね。この学園において絶対な要素である『ポイント』と『序列』が記載、更新されるようになっていくんだ」

「確か『ポイント』は倒した魔獣の数や質、あとは対人戦の正式な『決闘』、そして聖具なんかの研究成果なんかによって与えられるもので、『序列』がそのポイントによって出てくる探索者としての順位、でしたっけ?」


 昼食をあらかた食べ終わったユミが「この人形どうやって動かしてるのかなぁめっちゃ滑らかなんだよなぁ」と内心思いながら、この先日聞いた『探索者育成学園』の最重要情報の確認をする。


「そうだよ、試しに学生証の校章を押してしてごらん」


 言われるがままに校章を押してみると、カチッとスイッチを入れたかのような音がして、真っ黒だったも場所に魔力による画像が出てきた。

 そこにはこう書かれていた。


========================

【名前】ユミ

【年齢】15歳

【性別】男

【学年】高等部1年

【クラス】S

【獲得ポイント】15000

【序列:全\学】1876549位\75879位

【所持金額】1,000,000エル

========================


「序列のところは『全』のところが全体序列、『学』のところが学園序列だよ。君は実績が少ないから今は底辺にいると思ってくれ」

「そうですか……確か序列が上になればなるほど優遇されるんですよね」

「その通りだよ。おっと、そろそろ午後の授業が始まるか。まあ、伝えたいことは伝えたし良いだろう。ポイント稼ぎ頑張ってくれ。期待してるよ?」


 そんな言葉を最後に部屋を出ると、ユミは今後の行動方針を考え始める。


(まずはポイントを多く獲得できるように頑張ることは確定事項だろう)


 ユミの目標は「人と接すること」と「老人の研究成果のすごさを知らしめること」なので、老人の研究成果を完璧に使いこなせるようにしたユミが使って序列を上げていけば、それだけでも十分宣伝になる。


 さらに──


(序列の上昇による優遇の中に、聖具使用権限や研究施設使用権限、そして貴重文献閲覧権限なんかがあったから、是非ともその辺りは欲しい)


 ユミ自身の行動指針の為には相応の研究環境が必要であるから、そういう意味でもユミとしてはガンガン序列を上げて行きたい所だった。


(……そうなってくると、ポイントを手っ取り早く上げるためにも『冥途の森』で久しぶりに獣狩りでもするのが一番か──)


 ドンッ!


「きゃっ!」


 集中しすぎて周りが見えていなかったためか、ユミは誰かとぶつかってしまう。


 すぐにぶつかってしまった人を見ると、そこにはいかにも高貴なお嬢様ですよといった風貌の少女がいた。

 何せ、ピンクと金を基調としたフリッフリのドレスを着ていたのだ。


 胸に校章が付いていることから学生であることはわかるのだが、金糸のような滑らかな髪と桃色の瞳がドレスに非常に似合っているため、ユミ的には世間知らずな自分以上に場違いな見た目をしているため、思わずぶつかってしまったことに対しての謝罪をするのが遅れてしまう。


 そして、それがいけなかった。


「何するんですのよ!」


 ぶつかった少女が高い声で怒鳴りつけてきた。


「あ、ご、ごめ──」

「本当よ!」

「お前! ユリア様に土下座しろ!」


 ようやく自分の失態に気がついたユミが謝ろうとしたタイミングで一緒にいた従者と思しきメイドと執事が畳み掛けるように言葉を重ねてくる。


「えーと、本当にごめんなさい」

「言葉だけで済むと思ってるのか! 誠意を見せろ! 誠意を!」


 ヤバイやつとトラブルを起こしてしまったぁと内心ものすごく後悔したユミは戸惑いながらも頭を下げて謝罪するものの、過激な発言をした執事がさらにうるさく声を出す。おそらく本当に土下座させる気なのだろう。

 ユミは「そこまでやる必要があるのか?」と思ったが、ぶつかった以上お嬢様な少女にきちんと謝罪を受け取って貰わねばならないという気持ちもあって対応に困しまう。


 そこに……


「おやおや、これはどうしたのかにゃ?」


 何とも気の抜けた声が聞こえてきた。


 声のする方を見ると、そこにはせいぜい8歳くらいのオレンジ色の髪にオレンジ色のまん丸な瞳をした小さな女の子がいた。


「あ、あなたはムミミミ・マミミムミマ先生!」


 ユミはお嬢様が今の人物の名前を物凄くスラスラ言えたことに驚きながらも、すぐ近くまでやってきたただならない強さを持つ幼女のような女性に視線を向ける。


「そうだよー? もう、実技の授業が始まるから早めに移動した方がいいと思うんだけど?」

「す、すみませんでした」


 お嬢様たちはこの名前を呼びづらい幼女見たいな幼女に窘められてその場を去る。

 去り際に執事がものすごく憎たらしい視線を自分に向けてきているのをユミは感じながら、それはスルーして頭を下げる。


「ありがとうございました」

「んー? ミミは別に何もしてないけど?」


 明らかにメンドくさい奴らに絡まれていたユミを助けるような発言だったものの、自分のことをミミと言ったムミミミ・マミミムミマはコテンと可愛く首を傾けてすっとぼける。


「……いえ、自分が感謝を述べたいと思っただけです」

「そっかー。君も早く行きなよーもー授業なんだからー」

「はい、失礼します」


 ミミのその反応にユミは尊敬の念を感じながら、再度頭を下げると、自分も午後の実技授業のために演習場へと駆け足で向かうのだった。


「ふーん、あれがしーちゃんのお気に入りかー。

 ふふふっ、なんか久しぶりに私が可愛がってあげれそうなイイ素材な気がする」


 そんなちょっと不気味な言葉が後方で呟かれていたが、その評価を受けた本人は気がつかなかったのだった。


 ***


 午前中は選択制の座学で、午後は大抵がクラスごとに実践演習。

 これが『探索者育成学園』の育成方針であり、基本的には第一から第十二まである学園全てにこれが適用されている。


 実際は近場にある瘴魔領域や学園がある国の違いによって所々違いが見られるが、探索者育成機関本部があるメイアルト王国の街アーリアの第九学園では、良くも悪くも基本に忠実であることが特徴だ。


 そんな第九学園の演習場は、いくつかの円形ステージがセットされて、その周りにもある程度戦闘しても大丈夫な広さをとっており、実に校内の50パーセントがこの演習場だけで占められているくらい広いスペースがある。

 そもそも第九学園がアーリアの街の70パーセントを占めていることからも、余計に演習場の広さが伺えるだろう。


 そんな広大な演習場の一つにはSクラスとAクラスの上位クラスとFクラスGクラスの下位クラスがそれぞれ別々に指導を受けたりしながら熱心に自己研鑽に励んでいた。


 ユミはその間、演習場の端で黙ってSクラスとAクラスの動きを見ていた。


(……上位クラスだけあって、みんな動きが洗練されてるな)


 上位クラスの同学年の生徒たちは1つ1つの動作を丁寧に確認したり、一対一や一対多でレベルの高い打ち込みをするなど、目を見張るものだった。

 その表情も皆非常に真剣である。


 しかしそれは当然のことだろう。

 聖具とは大抵が聖力(しょうりょく)が込められた近接武器であり、それをうまく扱えない生徒が強くなれるわけがないのだ。

 よって、強くなるためには相応の武術を修めている場合が多く、探索者になるならばむしろそれくらいできなければちょっと瘴魔領域の難易度が上がればそれはすぐに死に繋がってしまう。


 そうならないために、教育者側も、授業を受ける側も非常に真剣に演習を行うのだ。

 もちろん世の中には例外があって、特殊な聖具は近接戦闘に向かない物などもあるのだが、ユミが見ているところでは今の所それはなく、むしろ黙っているユミの方がものすごく目立っていた。


 そんなチラチラと休憩の合間などに見てくる視線をユミは無視しながら自己研鑽を自分なりに続けていると、そこに三人の人影がやってきた。


「ちょっといいかしら!」

「……なんでしょうか」


 ユミはなぜか語尾が「?」ではなく「!」だったような気がしたが、声を掛けられた方向を見ると、先ほど絡んできたお嬢様とその取り巻き一派だった。

 ユミは丁寧に、しかし自己研鑽を止めることなくお嬢様に話しかけると、お嬢様はこめかみをピクピクさせながら、


「あなた! このワタクシが話しているのにそんなオモチャ(・・・・)をずっといじっているというの!」


 お嬢様が怒りの視線でユミの手元を見ているのは先程からずっとカチャカチャと正十二面体の物体を動かしているからだった。


「ん? オモチャ? ……ああ、『るーびっくきゅーぶ』のこと? これは俺の自己研鑽のアイテムだよ」


 ユミの手にあったのは老人の友人の一人が作って与えてくれたという立方体型のパズルの正十二角形バージョンだった。

 しかも分割単位が非常に細かく、常人では一列すら揃えることが出来ないような難易度のものだ。


 それをユミは今も絶えず全ての面を揃えてバラしてを繰り返しており、おそらく老人の友人が「おおおっ!」ととんでもなくビックリ感動するような腕前だった。


 とはいえ、そんなものはお嬢様にとってはただのオモチャどころかガラクタ見たいなものだ。

 それを自分が話しているのに絶えず動かし続けていることに腹が立たないわけがない。


「早くそれをやめなさい!」


 一瞬バラバラだった色がすべての面で綺麗に揃ったのを見て思わず「おー」となってしまったが、すぐに気を取り直して怒鳴りつける。


 仕方ないと、ユミは『るーびっくきゅーぶ』を解体して自身が着る透き通るような黒にキラキラと輝くプラチナの糸で出来た刺繍がアクセントで入った軍服のようなもののポケットに入れる。


「それで? 何か用なの?」

「あなた、Sクラスに特待生として入ったんですって?」

「うん、そうだけど?」

「ここは実力主義の探索者育成学園なの。この場所でそんなふざけたことをやるなら即退学しなさい」


 明らかな侮蔑の言葉をお嬢様が放つ。

 ユミはこの言葉にカチンと来た。


「……人の強さを思い込みで判断して他人を侮蔑するのは人としてどうかと思うんだよね」

「なっ! なんですって!?」

「それに後ろに控えてる従者にももうちょっと落ち着きというものを教えた方がいいんじゃないかな。特に執事の方は怒りに任せて怒鳴り散らすなんて、アホのやることだ。戦場ではそういった感情的なやつほど早く死ぬ」


 ユミは冷たい目でお嬢様一派を睨みつける。

 他人を客観的に見れないバカに自分が弱いと言われるのはユミとしても納得がいかないし、実は先ほど絡まれた時もハッキリ言って相手の対応に腹が立っていたのだ。


 こうなってくると、この学園では大抵次の展開が決まってくる。


 それは──


「なら決闘をしてどちらが正しいか決めましょう! 私が勝ったらあなたにこれまでの無礼を全力で謝罪させますわ!」

「いいだろう、受けて立つ」

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