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第35話『ロックゴーレム戦 2』

 その日から数日、敏樹は国道の魔物を時々狩って適当にポイントを稼ぎつつ、ロックゴーレム攻略法を考えていた。

 コンパウンドボウで上手く矢を当てればわずかずつではあるが額の文字を削り取ることは可能である。

 しかし、完全に削り取るまで一体何本の矢を消費しなくてはならないのか、見当もつかない。

 もう少し効率よく削る方法を考えなくてはならないだろう。


 最初に敏樹が思いついたのが、映画で見たことのある(やじり)が爆弾になっている矢であった。

 あれを作ることが出来ればかなり効率よく文字を削ることが出来るだろう。

 上手くすれば一撃で終わるかもしれない。

 しかし、いくら調べても爆発物を作れそうにはなかったので、早々に諦めた。


 次に考えたのは、今更ながら銃である。

 猟銃でも使えばそれなりに削れそうではある。

 しかしいくら探してみても町内に銃砲店はなかった。



(はつ)るか……)


 【(はつ)る】とはコンクリートの建造物を削って形を整えたり破壊したりするという意味の建築用語であり『削る』『破つる』と記されることもある。

 元々は表面を削り取るという意味を持つ近畿南部の方言だったようだが、それが転じてコンクリート建材の成形に使われ、やがて破壊も含まれるようになった。

 現在ではコンクリートにかぎらず、アスファルトや石材全般に使われる言葉である。


 建築用語として斫るという言葉がある以上、斫りに特化した工具ももちろん存在する。

 『斫りハンマー』『コンクリートハンマー』『コンクリートブレーカー』などと呼ばれる工具で、石材専用に作られたノミを高速で打ち付けるものだ。

 T字型の大型のものが道路工事などでよく見られるが、敏樹が今回購入したのはハンディタイプの物である。

 ハンディタイプといってもその中では比較的大きく、強力そうなものを用意した。

 電源タイプとエアータイプのものがあり、エアータイプの方が威力も高いようだが、別途エアーコンプレッサーが必要になるので、多少威力は劣るものの電動タイプのものを選択。

 電動タイプもバッテリー型とコンセント型があったが、そちはら威力を優先してコンセント型にした。

 電源は車から供給すればいい。

 念のため延長用の電工ドラムも購入しておく。



 翌日届いた斫りハンマーを試しに使ってみる。

 父親が庭のリフォーム用に多くの石材やらコンクリートブロックやらを買っており、以前はガレージにそれらが無造作に転がされていた。

 ガレージのリフォーム後は、一角に整頓されて積み上げられていたので、まずはコンクリートブロックから試してみる。


「おおおおおおおおお!?」


 ガガガガガッ!! というコンクリートを破壊する轟音とともに、強い振動を伴う衝撃が手から腕へ、そして体中へと伝わっていく。

 筋トレでそれなりに筋力がついた敏樹であっても、なかなかに手こずる作業だった。

 しかし、斫りハンマーは見事コンクリートブロックを粉々に砕いた。


 次は庭石用の石材で試す。

 庭石はコンクリートブロックとは比べ物にならないほど硬く、その分返ってくる衝撃も相当なものだった。

 結局その日は丸一日斫りの練習を行ったが、翌日から2~3日は振動によるダメージが抜けなかった。

 筋肉痛とも関節痛とも言い難い痛みと戦いつつ、1週間ほどかけて斫り技術を練習した。



 ある程度斫りをマスターしたところで、いよいよロックゴーレムとの対決となる。

 ロックゴーレムの額の文字を斫るには、その文字の場所まで移動しなくてはならない。

 そのための作戦と、必要なものは既に用意してあった。


 高校に着いた敏樹は、ロックゴーレムに気づかれないように校舎へと入り、屋上へ。

 車を停めた場所とは反対側の屋上付近に、中古で購入した安いスマートフォンを10台ほど、適当に離して置いていく。

 これらにはアラームがセットされており、数分後には時間差で音声が出るように仕掛けてあった。

 音声に関しては、音楽であったり獣の声であったり、人の話し声であったりと、様々なものを用意していた。

 どういう種類のものの効果が高いのかはわからないが、とにかくロックゴーレムの注意が引ければいい。


 屋上にスマートフォンをセットし終えた敏樹は、一階に降りで車を停めてある入口付近に身を隠し、様子をうかがった。

 そして指定した時間となり、スマートフォンから音声が流れる。


(よーっし……!!)


 ロックゴーレムは狙い通り音につられてそちらへ移動した。


 敏樹はそれを確認し、車に乗り込む。

 この作戦のために、走行音がほとんどしないEV車を購入していた。

 電源を安定して供給するという意味でも、ガソリン車にインバーターをつなぐよりこちらの方が優れている。

 走行距離よりも積載量を優先し、ミニバンタイプを選択。

 200万ポイントほどだった。


 ロックゴーレムがスマートフォンの音声に気を取られている隙に、敏樹は目当てのポイントへと移動。

 音を立てないよう慎重に荷台のドアを開け、荷台ギリギリのところに3つ並べておいてあった箱を少しだけ押し出す。


 箱の一部には穴が開いており、そこにはすでにコックを取り付けてあった。

 敏樹がコックをひねると、排出口から透明の液体が勢い良く流れ出した。


 ローションである。


 箱の中にはビニールタンクに入った業務用のローション20リットルが入っている。

 コックから流れ出たローションがじわじわと運動場に広がっていく。


 通常であればある程度運動場の土に吸収されるのだが、今の状況において、敏樹の行動が地面等の環境に干渉することは出来ない。

 コックから流れ出たローションは、そのまま地面に広がっていく。


 ちなみにだが、地面に干渉できないといってもなにか薄い膜のようなものが張っているというような感覚があるわけではない。

 土の上に立てば土の感触が、アスファルトの上に立てばアスファルトの感触はあるのだ。

 しかし、敏樹が撒き散らした液体などが地面に染み込むということはない。

 なんとも不思議な状況である。


 合計3つのコックからローションが流れ始めたのを確認した敏樹は、ロックゴーレムの様子を伺いつつも運転席に戻り、ゆっくりと車を前進させた。

 その場にとどまってローションが広がり、後輪にローションが絡んでしまうと厄介だと考えたのである。

 一応4WD使用のタイプを用意したので前輪が無事なら問題はないかもしれないが、念には念を、である。


 合計60リットルのローションで出来た水溜まりならぬローション溜まりを完成させた敏樹は、再び校舎入口に車を停めて校舎に入る。

 そしてエアーライフルを担いで屋上へと向かった。


「おーい!!」


 校舎の反対側でスマートフォンの音声に翻弄されていたロックゴーレムが、敏樹に気づく。

 ロックゴーレムは体の向きを変え、敏樹の方へ歩いてきた。

 少し怒っているように見えるのは気のせいだろうか。


「ばっちこーい!!」


 敏樹は位置を変えながら手を振り、ロックゴーレムをローション溜まりへを誘う。

 そして、ロックゴーレムのつま先がローション溜まりに入った。


「ああ!! 違う!!」


 敏樹の狙いでは仰向けに倒す予定だったのだが、つま先の方を滑らせたロックゴーレムは、前につんのめって倒れた。


「おおお!?」


 前方につんのめって倒れたロックゴーレムが校舎に激突した。

 本来であれば見るからに大質量を誇るロックゴーレムに、これほど勢い良く突っ込まれたら校舎などひとまりもなく崩れ去るのだろうが、今の状況で魔物が環境に影響をあたえることは出来ない。

 ロックゴーレムは見えない壁に当たったような格好となり、そのままズルズルとずり落ちるように倒れ伏した。


ズウウゥゥン……!!


 校舎に激突したときはなんの音も衝撃もなかったのだが、地面に倒れると同時に低い轟音と振動が発生した。


「ああっ、車!!」


 ロックゴーレムが倒れたあたりに車を停めていたことを思い出した敏樹は、慌てて下を覗き込んだ。

 買ったばかりのEVのミニバンの半分ほどが倒れたロックゴーレムの頭に埋まっていた。


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