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7 『深緑の悲劇』

 時間は少しだけ遡る。

 ぎゅーぎゃー喚く声が暗い森に響く。僕はその声を聞き流し、いつもそこにある重みがないことに不安を覚えて首を撫でた。暴れる男を風の繭で包み連れて行った方向にはもう人影は見えない。そのことに小さな安堵を覚えて、思わずため息をついてしまう。


「あれが噂のよそ者か。ずいぶんくせのある男みたいだな」


 そんな僕を見て気遣ってくれたのは、先行するリーフの変わりにそばを歩いてくれているシャロだった。何気ない気遣いに苦笑する。

 シャロは昔からこういうところがあった。見た目は尻軽で、行動だってそぐわず尻軽で、いつも女のコのお尻ばっかり見てるくせに、人の機微は見逃さない。逆に、だからこそ女のコに人気があるのかもしれないとも思う。たぶんこんな彼だから、僕とも長い付き合いになったのだろうなぁ。

 そう思うと感慨深くて、ありがたくて。何より、こんな僕にもその態度を変えなくて。一人の女のコとして心配してくれることが申し訳なくて。


「くせどころかくせの塊みたいな人だよ。まったく、いい迷惑だね」


 だから努めて明るい声を意識する。それに「そっか」と笑い返してとりとめない話しに花を咲かせる。それがいつもの僕たちだ。もう何年も変わらない。僕たちの黄金パターンと言っていい。

 でも、この日は少し違ったみたいで。僕の言葉を聞いたシャロは返事を返すわけでもなく、真剣な顔で僕の顔を見つめていた。じっと、僕の深淵を覗き込みみたいな、鋭いのとは違う、そんな視線。

 いつもと違う反応に――オスを感じさせるその視線に、わずかにたじろぐ。


「な、なに?」


「あ……いや、ごめん」


 距離を離したことで我に返ったのか、バツの悪そうに前髪をくしゃっと握りつぶす。さっきのはなんだったんだろう? 驚き以上に戸惑いの大きな僕に、今度こそいつもの人をほっとさせる笑みを浮かべ、シャロが振り返った。


「珍しいな、っておもってさ。ニーフちゃんが誰かを悪く言うなんて」


「そうかな? 僕だって失礼な人には怒るよ? もうぷんぷんだよ?」


「少なくとも、俺は喧嘩した記憶ないけど?」


「それはシャロがいい人だからだよ。喧嘩する余地すらなかったくらいね」


「……俺としては喧嘩したかったんだけどな」


 ん? 最後、シャロは何と言ったのかな?

 聞き返そうとしても、すでに先を歩いて背を向けるシャロに、再び問いを投げるのもはばかれる。仕方なくぴょんっと一足跳びで彼の後ろにつくと、その背を見上げることにした。

 もう何年も見てきた背中がそこにはある。年々その目線は上に上に持ち上がる感覚が、僕は嫌いじゃない。兄妹……はいないけど、お兄ちゃんがいたらたぶん、こんな感じなのかなぁって。そんな取り留めない想像をするときだけは、心が救われる気分だった。


「何かあれば言えよ。俺たちはニーフの味方だ」


 思わず苦笑が漏れる。言わなくてもわかってる。彼の今までの行動が、つねに僕の味方であったことを知っている。なのに、それをわざわざ口にする彼が可笑しかった。いっつも口が上手いくせに、時々すっごく不器用になるんだよなぁ。


「うん、ありがとう。あいつを集落から追い出すときは、ぜひ協力をお願いするよ」


「……それだけじゃなくて、変なことをされそうになったら、大声を出してでも俺を呼んでくれ。絶対に」


「はは! 彼が僕に手を出すって? ありえないよそれは!」


 この点は確信を持ってそう言えた。だって、スカーがあんなに仲良くしてるんだもん。

 スカーは精霊だ。エルフ族の掟やアイエスお婆ちゃんの命令を聞く必要はない。スカーがいつも第一に考えてくれるのは僕の安全だ。そんな彼があの男を拒絶しないってことは、彼の中に少なくとも僕を害する意志はないって思ったからだと思う。

 だったら僕はそれを信じた上でお婆ちゃんの言葉を守るだけでいい。そうやって今日まで生きてきたんだから。


「あの男に負けて気絶させられたって聞いたけど?」


「ち、ちがっ! あれは! その、僕も不覚だったっていうか……そう! ちょっと無警戒すぎただけなんだよ! うん、だからもうあんな隙は見せないから安心して!」


 む~、今日のシャロはちょっといじわるだ。あの不覚は僕的にもものすっごく悔しかったのに。あなどりがなかった、と言えばウソになる。この集落で――エルフ族の中で、僕に接近戦で勝てる人はいない。傲りでも何でもなく、そういう風になっている。

 だから、あんなに見事な負けっぷりをさらしたことはなかった。


 なのに……なのに、あの男はッ!


 思い出しただけで恥ずかしいやら悔しいやら、わけのわからない気分がとぐろを巻いて顔が赤くなるのがわかった。そんな顔を見られたくなくて、僕はシャロに背を向ける。


「――だから、その無防備さが心配なんだよ」


 そんな背中越しに、聞いたことのないシャロの声が聞こえたのは、直後のことだった。どんと押される衝撃。そのまま前のめりにたたらを踏んで木にぶつかる。

 いきなり何をするんだ! そう言おうと振り返る。でも、想像以上に近くにあったシャロの顔に息を飲んだ。真剣でいてどこか切羽づまった、複雑な色を帯びる双眸に、僕の戸惑った顔が映り込むのがわかる。咄嗟に視線から逃げようとしても、顔の左右を両腕で防がれ右腕も掴まれてしまっていては退路がない。


「ニーフちゃんはなんとも思わないのか? 今だってここには俺たちしかいないんだぞ? スカーだっていない。それでも自分には何もないって、そう言い切れるのか?」


「シャロ……?」


「お前は……もっと自分の価値を知るべきだ。じゃないと、俺みたいな奴でも不覚はとれるんだからな」


「あ、う、うん。わかった。わかったってばシャロ。だから、その……近いよ」


 胸を押して離そうとする。掌にはシャロの筋肉質とは言えない細身な感触。自慢ではないけど、僕が彼に力比べで負けたことはない。その気になればこのまま突き飛ばすことは簡単なことのはずだ。でも、押し返せなかった。その細身からは考えられない胆力が、彼の足の裏から根が生えているのではないかと思うくらい強くて。


「ね、ちょっと、待ってよシャロ。目、怖いし……右手、痛いよ」


「ニーフ」


 いつものちゃん付けじゃない真剣な声音。余裕のない、肉食の獣みたいな眼光。喉の奥が引きつるのがわかった。動かない体の変わりに思考だけがぐるぐる空回りを繰り返し、いま自分が何を考えているのかもわからない。


「ぃ、ゃ……」


 恐怖と混乱の中、せめて近づくシャロの顔から目を背けたい一心で目を瞑る。そうすれば気遣い上手で何だかんだで優しいシャロが元に戻ってきてくれる。

 根拠もなくそんなことを考えた、その直後だった。


「二人とも、ここにいたんだ」


 瞬間、僕の中から混乱の靄が晴れるのがわかった。かわりに顔が沸騰するほど熱くなった。聞き間違えるはずがない幼さを残す声は、もう一人の幼なじみリーフのものだったから。緊張で固く結んだ唇がほどけ、声の方を振り、


「リーフ! いいところに来てくれた! シャロがまた悪ふざけを――」


 閉じていた眼を開いた瞬間……凍りついた。


 リーフは集落きっての弓名人だ。彼の木の契約精霊が作る精緻な弓と弦を引く右腕があわされば外すものはないと言われるほどで、弓の苦手な僕はいつも彼に憧れていた。無駄な動作がないからか、その立ち姿はいつも可愛いと言ったほうがしっくりくるリーフを、その時だけすごくかっこよくうつすのはいつものことだ。


 何より、その右腕だ。


 弦を引き、離す。そのいち動作は友達びいきを抜きにしても集落一だと確信して言える。

 すっと引き、気づかないほど自然な所作で離す。風切音のあと命中する、タンと小さな短拍子。残心すら完成されていて。恥ずかしくて本人には直接言えないけど。見惚れたことだって一度や二度じゃない。僕から見たら奇跡の腕なんだ。


「ねぇ……リーフ……」


 そんな彼が、


「右腕、どこにいったの?」


 リーフの右腕が、肩の付け根からなくなっていた。


 鋭利な刃物で切ったとかそんな傷痕じゃない。何か強引な力でねじ切ったような歪な跡から、とめどなく赤い血が流れ出ていた。その赤とは対照的に、真っ青な顔でリーフは気丈に笑いながら痛みに耐えるように浅く下唇を噛む。


「よかった……二人は無事、だったんだね」


「っ! バカ! リーフが無事じゃないじゃないか! 待っていろ、いま止血を――」


「今は、そんなこと気にしてる、場合じゃないよ」


「気にしている場合なんだよ!!」


 いまだ僕の前に立つシャロを押しのける。あんなに強固な壁みたいだった彼が、今度は簡単に尻餅をつく姿を横目に駆け寄った。


「スカー! 止血は苦手って知ってるけど――」


 そこで手が止まる。そうだ、スカーはここにいないんだった。そのことを思いだし噛み締めた歯が軋む。自分の不甲斐なさが恨めしくて、リーフを救うにはこれしかないと理解して。すがる思いで声を荒げた。


「ッ! シャロ!」


「………………え?」


 自分の不甲斐なさを噛み締める時間はない。僕じゃどうしようもできない状況だと判断し、まだ尻餅をついたまま茫然とするシャロへ振りかえる。


「リーフお願い! 君の草の精霊なら止血できるだろ!」


「あ、ああ……そ、そうだな! そうだ!」


 我に返って、それでも抜け切れない動揺に躓きながらもシャロの傍に座る。


「待ってろ! いま治療してやるからな!」


「シャロ、ダメだよ」


 傷口に手を伸ばしたシャロの手が、リーフの左手に阻まれる。


「わかってる、でしょ。ここは危ないんだよ? シャロが取るべき手は、こんな無くなった右手じゃないはずだよ?」


「――ッ!」


「約束を果たして、シャロ」


 二人が何を話しているのかわからない。ただこの切羽づまった状況で悠長に話をしている時間はないことだけはわかる。咄嗟にもう一度声をあげようとしたとき、突然立ち上がったシャロに腕を掴まれた。いきなりの奇行に反応できず、あっさり両足を持たれて肩に担がれる。


「行くぞニーフ」


「な、何を」


 そして僕らは来た道を引き返した。傷つき血まみれなリーフを置き去りにして。


 返答を待たずに走り出すシャロ。後ろを向いた状態の僕は、ゆっくり立ち上がるリーフの姿を見ることになる。こちらを見送る視線は、どこかほっとしているようで、でも悔しそうで。いろんな感情を噛みしめ飲み込み、それでも大半は慈愛に満ち満ちたもので。泣きたくなるくらい自分のことなど顧みず、僕たちのことしか見てなくて。


「待って……」


 だから、僕の中で嫌な予感だけが膨れ上がった。


「待って、待ってよシャロ! まだリーフが! リーフが!」


「うるさい口を閉じろ。リーフが命張ってんだ。だったらくんでやらないとダメだろ!」


「命を……張る?」


「ああそうだよ! ……クソ、あークソッ!! チクショお! チクショオオオオ!」


 吐き捨てる声がどこか遠くのことのように思えた。

 同時に理解する。あの不思議な目で見送ったリーフの考えていたことを。

 たぶん、あれが、死を覚悟した人の目。


「っ! シャロ! 離せ! 離せよ!!」


「離せない、離せるわけないだろ!」


「でも、このもままじゃリーフが!」


 駄々をこねる子供みたいに、目の前の背中を叩く。力の限り叩く。なのにさっき押しのけられなかったときみたいに――いや、その時以上にビクともしない背は、走ることをやめない。


「ここで約束持ち出す奴があるかよ! どっちかが絶対ニーフを守るって。俺は――俺はお前の方がふさわしいって思って。だから今日まで我慢してんだぞっ!」


「何を言ってるんだい! 早く、早く離してくれ!」


 降ろされないとわかって、せめて手を伸ばそうと面を上げ、それを見た。木の精霊特有の緑の光を浮かべるリーフと、それに照らされ見えたいくつかの影。木々の間を縦横無尽に跳ぶその影は、無秩序でありながらそのじつ規則的であるようで。


「ッ! 見るなニーフ!! 傷になるぞ!!」


「――……ぁ」


 つまり、過程は無秩序でも、結果は一つに収束していた。木の精霊の力で生まれた蔓の壁を、数秒の足止めにもならないうちに切り刻んだ影は、その凶刃をリーフへ突き立てる。


「ぁ、ああ、ああああ――……」


 右脇腹がゴッソリ削がれる。左肩から腰までが裂かれる。心臓を正面から突出で貫通される。残った左腕が宙を舞う。最後に――首と胴が別れを惜しむように剥がれ落ちる。

 その光景を、つぶさに見てしまった。


「いやぁああああああああ――――ッ!!」


 伸ばした手は遥か遠く、見開いた目は崩れる肉塊となった幼なじみを映すばかり。

 おかしい……こんなのおかしいよ。さっきまで笑いあっていた男のコが、数少ない心許せる知人が、いまもう届かないところにいる。物理的な話ではなく、途方もなく現実的な意味で。そのことを理解した途端、思考が黒く塗りつぶされていくのがわかった。


 何が、どうして、これは、やだ、待って、伸ばす、違う、そうじゃない、ありえない、ない、ないないない、ないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないない――――――ッッッ!!!!


「――――フ! ……ニー……フ! ニーフ!!」


「――……え?」


 泥のような思考の海から帰還すると、そこは深い茂みの中だった。押し倒されるように覆いかぶさるシャロの顔は、さっきとは比べ物にならないくらい近い。なのに感じる気持ちはまったく違うのは、


「ねぇ、リーフは……」


「今は生き残ることを考えろよ。結構絶望的な状況なんだぜ?」


 努めて明るい軽口は、でも引き攣った目元のせいで台無しになっていた。

 シャロは茂みからわずかに顔をだし、すぐ引っ込めると毒づく。


「ちっ、あいつら、まだ俺たちのことを探してんのか」


「あい、つら?」


「この状況じゃ一つしかないだろ。ウルフ族だよ」


 今度はただ純粋に恐怖で言葉を失った。咄嗟に草の隙間からそれを見る。想像していたより近くに上半身を裸にした男たちが見えた。がっしりした骨格、彫りの深い顔立ち。浮き上がる筋肉とその体をなぞる幾何学模様が他者を威圧する。


 ――平地に生きる『風の種族』、ウルフ族。


 精霊との繋がりこそ弱いが、純粋な身体能力ではエルフ族など足下にも及ばない草原の民。そんな敵が目に見えているだけで三人。


「どうしてこんなところに……」


「さっきも言っただろ。ここは奴らの勢力圏との境界線なんだ。そんなことより、逃げることを考えた方がいいぞ」


 ――無理だ。その光景を見て僕が思ったのはそのひと言だった。

 ウルフ族の刻む幾何学模様は戦士の証。つまり彼らが戦いに馴れた者たちせあることの証明ということになる。それが三人……いや、もしかするともっと多く。たいしてこっちは精霊のいない僕とシャロだけ。いくら僕が接近戦に強いと言っても……戦いになんてならない。


「なんであいつらは必要に僕らを探してるんだ!」


「…………あ~そういうことかよクソ!」


 僕の毒づきに、シャロははっとした顔で頭を掻きむしる。


「あいつらは知ってるんだよ。俺たちエルフが見回りを二人一組でしてるってことを。ここで片方を取り逃がせば今回の襲撃がすぐ明るみになる。それを阻止したいんだ」


「そんな……じゃあここが見つかるのも」


「時間の問題、だな。このあたりをずっとウロウロしてるってことは、なにかしらの確信を持ってるってことだろうし」


「そんな、じゃあ……」


 じゃあどうするればいいんだ! そう問い返そうとして、愕然とする。ここに至って、まだ誰かに頼ろうとしてる自分に気づき言葉を飲み込んだ。そして、その僅かな間隙は、シャロを覚悟させるには十分な時間だった。


「ニーフ、聞いてくれ」


「……いや」


「頼む、聞いてくれニーフ」


「いや、いやだよ。だって……リーフも……ったのに」


 ああ、わかってしまった。悲しいくらいに伝わってしまう。

 幼なじみだからとか、大切な友達だからとか、そんなの抜きにしても。だって、今のシャロの目は、逃げだす瞬間僕を見ていたリーフと同じだったから。


「俺が囮になる。時間を稼ぐ……なんて、カッコいいこと言えないから、できるだけ速く逃げてくれると嬉しいかな」


「やめて、やめてやめてやめてよ! まだ、まだどこかに道が、二人で助かる道があるから――」


「それを考えてる時間がないんだよ!!」


「っ!」


 声を潜めながらもこめられた万感の思いが耳朶を打つ。


「いいか、このまま南に走れ。そしたらすぐに長老の結界にはいれる。あいつらだって、無策でエルフの結界に近寄ろうとはしないはずだ。だから、そこまで行ければ俺たちの勝ちだ。わかりやすいだろ?」


 動きを止めた僕に、シャロは最後まで笑っていた。今にも泣きそうな目と震える手を抑え込んで笑っていた。そして、それを最後の記憶に刻みつけて彼は走り出した。隠れていた茂みを飛び出し、らしくもない雄たけびをあげて、僕が逃げ出す時間と足音をかき消すため、必死に恐怖を打ち消すため走り出した。


「~~~っ」


 僕にできた選択肢は一つしかなかった。

 シャロに背を向け、目立つ金髪をマントで隠し走り出す。。

 森がざわめく、同時にいくつもの影が僕の背後に走っていく気配を感じた。それを理解しても、足を止めるわけにはいかない。振りかえる間すら無駄にはできない。


 ――雄たけびが聞こえる。


 ――雄たけびが聞こえる。


 ――雄たけびが、聞こえる。


 ――雄たけびが…………聞こえない。


 その結末に声をあげて泣くことすら許されず、ただ足を前へ運ぶ。悲しむのも後だ。弔いも後だ。今は生き残ることを……


「え?!」


 急速に接近する気配に思わず声をあげる。

 どうして? シャロのおかげで少し時間が連れたはずじゃ――


「……………………あ」


 バカさ加減に嫌気がさす! 今さらになって奴らがしつこく僕らを探していた理由に行きついたからだ。


 ――血だ。


 白かったマントには、リーフに駆け寄ったときついた血がべっとりついていた。ウルフ族は鼻が効く。いろいろな匂いが混在する森とはいえ、これほど強烈な鉄さびの匂いを、彼らが逃すはずがない。


「そんな……」


 絶望的な気分でマントをはぎ取に投げ捨てる。夜風の肌寒さなんて気にしてられない。とにかく逃げないと。逃げ切らないといけない。……じゃなきゃ、


「じゃなきゃ、二人の死を無駄にするっ!」


 それだけは、許されない。絶対に許せない。でも接近する気配は速く、逃げ切れるとは思えない。咄嗟の判断で切株の裏に滑り込むのと、すぐそばにウルフ族の男がやってくるのはほぼ同時だった。

 両手で口を押え、漏れそうになる悲鳴を抑え込む。だが、


「そこにいるのはわかっている! 大人しく出てこい!」


 そんな小さな抵抗は絶望に押しつぶされた。歯がガチガチと噛み合っている音が聞こえる。

 仲間の……友達の死を犬死にさせたくない。そんな最後の願いすら叶わないの?

 そう思うと、声にならない涙が頬を伝う。不甲斐ない自分に、結局なにもできない自分に、全身を切り刻まれるような自己嫌悪が止まらない。そして、そんな思考の行きつく先は決まっている。


 いっそここで一矢報いたい! 


 友達を失った悲しみは憎しみに、絶望は怒りに切り替わるまでさして時間はかからなかった。手近のとがった木を掴む。大きく息を吸い――いざ飛び出そうとしたときだった。



「ひぃいいいい!! た、助けてくれぇええええ!!」



 出鼻をくじかれ足が止まる。

 え? と、驚きより戸惑いが大きくて、言葉が漏れなかったのは救いだったと思う。僕がいる場所からウルフ族が立つ位置とは対角線の茂みから、情けない悲鳴とともに誰かが姿を現す。よく見ると出てこいというセリフも、その茂みに向けられたもののようだ。


「た、頼む。こ、殺さないでくれぇええええ!」


 情けなく鼻水をたらし、汚れるのもお構いなしに地面へ額をこすり付けるその姿からは、プライドをかなぐり捨てて命乞いをする男以外表現できない。演技とは思えない決死の懇願のそのものだ。問題があったとすれば、その情けない面に見覚えがあったこと。


「なにをやってるんだい、あの男は」


 僕を投げ飛ばし護衛となったはずの男――セイの姿だったことだ。


どんどん長くなる症候群(白目

今回からなろう向けに台詞との間を開けてみたり、形を工夫してみました。

こっちの方が読みやすい、こうしたほうがいい、意見を頂けると嬉しいです♪


ブクマなどよろしくお願いします!

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