プロローグ『理不尽の終わり』
――世界は理不尽だ。
矛盾だらけではっきりしない。屁理屈をこねて、正論で武装し、汚いものには蓋をする。明確なルールはないし、明確な敵もいない。でも、モラルにしがらみに世間体に。不明瞭なルールだけは山のようにあるわけだ。
才能だ、運だ、環境だと。そういった自分ではどうしようもないパラメーターに左右される要素が多すぎる。そのくせ救済のアイテムがあるわけでもなく、あるのはただの出来レース。
まったく、バカらしいっちゃありゃしない。
人の顔色を見て、自分を殺して、顔だけ笑って心で泣いて。時間に追われて、腹を探り合って、面白くない話に無理して笑って。疲れて帰れば寝るだけで、何かを変えようなんて気力なんざ起きやしない。
あるのは搾取するかされるかの弱肉強食。
そんな中、比較的成功した大人は子供にドヤ顔混じりにこう言うのだ。
『もっと大きな夢を見ろ』
………………夢ってなにそれ美味しいの?
あれか、千葉にあるのに東京を名乗るしかなかった何気に業の深い夢の国にでも行けばいいの? 自分たちの不完全さを棚に上げて、次の世代にだけ完璧を求めてんじゃねぇよ。
それでも、そのよくわからないものに、俺たちはふか~く悩むわけだよ。それはそれは真摯に、答えなき答えを探すわけだ。
悩んで、迷って、ぶつかって。怒って、泣いて、泥にまみれて。走って、止まって、やっと何かを見つけた気がして。そして怖々と踏み出した〝大きな夢〟への一歩に大人たちが言った言葉がなんだと思う?
『現実を見ろ』
………………やってられっかコンチクショオッ!!
やっぱり世界は理不尽だ!
よくも知らないくせに「こうだから」と決めつけ例外は排除する。
こんな世界の何が楽しい!?
やっと見つけた〝好きなもの〟を一方的に否定する。
こんな不完全のどこに救いがある!?
……だけどいつかみんな、そんな卑怯者の一員になるんだろうなぁ。
汚い油に汚れてた方が社会の歯車としてよく回る。現実ってものはそういう風にできている。そしてくすんだ死人みたいな目で同じ台詞を口にするのさ。言い切ってやっていい。何せここまで長々語ってる俺がそうなのだから。
本日四月一日、四捨五入で四十代な三十五歳の俺が、めでたくもない三十五回目になるエープリルフールを迎えたこの日。
どうやらこの日が嘘でも偽りでもなく、人生の幕を閉じる命日となりそうだ。
死因は単純。いつものごとく肉体労働を終えて疲れ果てた体で帰った六畳一間。風呂なしトイレ兼用という、今のご時世探しても見つからないような昭和臭溢れる長屋にて。いつものごとく一杯飲んで寝てしまおうと冷蔵庫を開けたことが発端だ。
毎年のように更新される桜の開花時期のせいで、どこもかしこもお花見シーズン。お酒は連日品薄状態。それを見越して数か月前から買い溜めていたビールがどうやら一番必要な時期を前に切れてしまったらしい。
日雇いの道路工事の疲労と、汗で乾いた喉にキンキンに冷えたビールは聖水の一滴に勝る。それでもこの不条理な世界と三十五年もつき合っていれば、嫌でも我慢強くなるのが大人という生物だ。いつもなら「ついてないなぁ~」と諦めるところだっただろう。
でもふとカレンダーを確認し、はじめて今日がエープリルフールというちょっと特別な日だと気づいたことが運の尽き。
「せっかくだし買いに行くかな~」などと思いたってしまった。いつもは便利なだけで高いコンビニのお酒には手を出さないのに「珍しいのがあるし豪勢にやっちゃおうかな~」と分不相応にもそんな気分になってしまった。
そんな感じで心の天秤が傾いた結果が以下である。
「搬送中も激しい腹痛を訴えています! 車内で少量の嘔吐も!」
「バイタルは!?」
「血圧76の44、脈拍112回、呼吸15回です!」
「カルテ!」
「三十五歳男性、名前は天河星。複数から暴行をうけ放置されたもよう。全身に打撲!」
「内出血の可能性もあります! 腹部の腫れから内臓へのダメージも――」
慌ただしい声が聞こえる。誰かが俺の名前を呼んでいる。やたらと重い瞼を開けると心配そうに見下ろす複数の視線。
なんだよ、こんなに注目されたのなんて何年振りだ? たぶん高校の時告白した女のコが、次の日クラス中に言いふらしてて笑い者されて以来じゃね?
ははは……やめろよマジで。完全に黒歴史じゃん。こんな時まで嫌なこと思い出させんなよ。
「脇の下……クソ! すい臓がやられてる可能性がある! 早く手術室へ!」
「なんでこんなになるまでッ! おいそこ! どけっ!!」
「先生! 脈拍安定しません! 心拍微弱!」
そう……そうだ。思い出してきた。俺、コンビニの帰り道にガラの悪い連中にからまれてる女のコを見て……それで助けようとしてボコられたんだっけ。
ったく、最近の若者は我慢がなっちゃないだろ。仲間を一人やられただけでプッツンしやがって。怒りまかせに鉄パイプ振り下ろすか普通。あんなことしたら死ぬってマジで。
……結局、あの女のコはどうなったのかねぇ。
「除細動用意! ジュール120から!」
「ダメです! 腹部に損傷! 使えません!」
心臓? ……………………………………あぁ、なんだ。
やっぱ死にかけてんじゃん俺。
てかなんだこれ、あっけねぇ。酒とつまみでしめて三〇〇〇円。三〇〇〇円の買い物をしに夜道を歩いたせいでボコられ終了? ……はっ、三十五年も俗世の理不尽我慢した俺の命の価値は三〇〇〇円ですか、そうですか。
これがこのクソゲーのエンディングってんなら目も当てられない。
もうどうでもいい。残す未練すらバカバカしく枯れ果てた。あえて言うなら……最後にひと目、妹の――沙紀の顔を見たかった。笑ってる姿を見たかった。
……チッ! 意識が遠のいてきやがった。死の間際の願いすら聞き届けられないなんて、やっぱりこの世は慈悲も救いもねぇ。毎日祈ってる信仰深い人たちに教えてやりたいね。
クソ、へんなことを考えたせいで未練になっちまったじゃねぇかよ…………くそぅ……。
俺はすべて諦めまぶたを閉じる。
そして世界は黒一色に染り――
なろうは初挑戦で、本文だけでなくシステムや告知にもなにかと不手際があるかもしれませんが、精一杯やっていきますので、生暖かく見守っていただけると幸いです。
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だからお願いしますなんでも(以下略