私は親友を守る為に裏切る
親友の最後のお願いで語られなかった親友のお話です。理不尽な出来事にも友の為に令嬢は令嬢でいる事を選びます。
皆様が沢山読んで頂けたので補足です。この物語は悲劇なので書く予定は無かったのですが親友は何故、権力のある公爵家でありながら死を選んだのか書きました。
理不尽な悲劇でも宜しければ、お読み下さいませ。
私は友を裏切った。
どの様な理由を並べてもそれが事実であり、許される事のない事です。ですが、そんな私ですがいまだに貴方を友と呼び、貴方を友と慕ってます。
「ほら、陛下への謁見の準備が整った。さっさと牢から出ろ」
「公爵家様はいいご身分だ。罪人の癖に牢でも俺ら兵士より良い服着て飯食って良い生活かよ。さっさと歩け!」
……これが私への罰なのでしょう。ならば私は従うしかありません。
何故こうなったのでしょう?
あの子と関わったから?
私が王妃候補だから?
今となっては考えても意味がない事です。
『アリア様!アリア様!あのですね!今日こんな事がありましたの!』
全く仕方がない方ですわね。
落ち着きがなくては、気品が問われますわよ?そんなに落ち込まないで。もう、まるで私が悪いみたいではありませんか。そんな甘えたい子犬の様にしてもダメです。
でも私はそんなあの子が好きになったのです。自分を偽らず、ありのままに生きているからこそ私はあの子に惹かれました。
ある日、あの子は自分を偽って生きていると言ってましたが私もそうですし、特に貴族は偽って生きるのが当たり前であり、弱みを隠し、相手を貶め、自分の利益にする。それを学ぶ為に貴族は学園に入る。貴族であるが為に既に教養は済ませないといけないはずなのですが最近の傾向では教育の出来ていない貴族が多いようです。中途半端に貴族をしている者が多くて、平民は勿論、下級貴族まで酷い目に遭う事実、この国が衰退していっているのを感じます。この者達がいずれ、国を担う者になると思うと先が怖く、現実逃避をしたくなる思いです。
『アリア様の側に居ると私は私で居られるのです!私はアリア様と一緒に過ごす時間が幸せで一生続けば良いのにと日々感じてます』
『アリア様はいずれ、王妃になり私と会えなくなりますがそれでも私はアリア様を支える為にこの学園で学んだ事、アリア様の夢を引き継いで国に貢献します!そしたら、離れていてもアリア様の為になりますし気持ちはいつも一緒ですね!』
私はいつの間にかこの子を心から許せる友になっていました。あの子は私には偽らない。私の不利益にはならない。一緒に居て居心地が良くてあの子が側に居るだけで辛い事、悲しい事が薄らぎ、楽しい、嬉しい、そんな幸せを感じます。
いつの間にか王妃になる予定の私には友と呼べる者が居なくなった代わりに側には私に集まる利益を欲する者達が私の寵愛を求め、蹴落としあっています。あの子から見たら私の一番の友になりたい為に皆が微笑ましく取り合っている様に見える様なのですが貴族目線から見ると醜悪に見えて仕方ありません。しかし、そうやって他者を蹴り落とし、私の側に取り入れる者で無ければ、側に居る事は務まりません。何故なら、私の側に居ると言う事は常に貶められ、利用される場なのですから。
いつからか私は達観して物事を見る様になり、人の気持ちを理解出来ない人間になったのか分かりません。だからでしょう。初めて彼女の存在を知った時、尋ねに行きました。名前も似ていたからとそんな理由であの子とお話を重ねる様になり、気がついたらあの子無しの生活を考えられなくなる程あの子に依存し、大好きになりました。
あの子といる事で私は以前の私の想いを思い出せたのです。
『アリア様、殿下に不穏な動きがあります』
そんな中、ヨハンからの情報を聞いて、カイル様が何をしようとしているか不安になり、探りをいれました。
何故なら王族には後5人後継者が居たのですが5人共お亡くなりになっております。
公爵家の独自の情報網からカイル様の関与を確認しました。陛下も後継者争いをする事を望んでいた様でこの件は貴族内では黙殺されております。北の帝国とよく戦争を仕掛けられる我が国に帝国相手に停戦まで取り付けた陛下の手腕は見事であり、カリスマ的な支配で貴族は忠義ではなく、陛下に畏怖で従えているのが現状です。
カイル様は見た目こそ利発で優しく見えますが中に恐ろしい怪物を飼っているのです。
……いえ、私が創り出したと言っても違いませんね。
幼い頃の私は家族以外で初めて好きになったのがカイル様です。それが一目惚れと気付いたのはもう少し経ってからです。浅はかですが幼い頃の私は彼の為にと誓いをたてましたが結果として、ただ彼を歪ませてしまいました。
幼い頃のカイル様は優秀な兄と比べられ、塞ぎがちになっていたので私は少しでも楽になって頂きたかっただけです。しかし、いつの間にか避けられる様になってからはと言いますとすれ違い、婚約者と言う肩書きだけの関係です。
学園に入ってからも周りには仲良く見せても互いに歩み寄りはなく、不安定な仲です。
今の私にとって殿下は邪魔な女でしょう。
直接的に私に何かしようとするのであれば公爵家に手を出すという事ですから殿下もそこまで馬鹿ではありません。
優秀な者である私を排除したいけどできないのが現状です。
私も王妃になるまでのやり取りだと考えていました。王妃になってしまえばカイル様は嫌でも公爵家の私を利用して貴族を纏め上げ国力を上げる為に必要だと理解し、私との仲もまともになるでしょう。
王妃候補から離脱してしまえば、カイル様は自分より優秀だと感じている私に対し今後、何をするか分かりません。ですが、このタイミングで行動して来るとは思いもしませんでした。
『殿下はアーシア令嬢との接触、アリア様の貶めの計画あり』
……やはりと私は思いましたが事態は更に最悪となっていました。あの子を取り巻きの友とカイル様に紹介はしましたが私の友とは知らないはずです。様子を見るしかありません。
『アリア様がアーシア令嬢を目に余るやり方で虐げているとの情報が出回っており、殿下とアーシア令嬢との関係は深まっております。他の令嬢からの情報で殿下との仲を取り繕う為にアーシア令嬢がアリア様を貶めていると情報も出回っております』
私はこの情報を聞いた時、してやられたと思いました。
カイル様は私とあの子との関係を知っての行動だと考えるのが妥当でしょう。
私がこの噂を否定をすれば、あの子が公爵家を貶めたと貴族としての面子の為に学園では権力を使わないのがルールですが見せしめの為に権威を見せないといけません。しかし、あの子の噂を肯定したら私は恰好の餌食になります。想像するだけで恐ろしいです。
しかし、私は学園でカイル様とあの子が微笑み合っている姿を見て、私には一度も微笑みを頂けていないのにと浅ましい想いを抱いていました。私は幼い頃からすれ違ってましたがそれなりにお慕いしていましたのにカイル様は一度も私に振り向いてくれませんでした。徐々に私はあの子へ嫉妬が膨らみ、心の何処かであの子がどうなろうと構わないなんて思いを抱く様になっていたのに気がつき、私は自分の愚かさを嘆きました。
私は自分の黒い感情と向き合えず、何がしたいのか分からず、日々、黒い噂が流れ、あの子とも互いにすれ違い、何も出来ない私は自分の脆さに気づきました。
『アリア様、周りの下級貴族はアリア様ではなく、殿下の庇護にあるアーシア令嬢につく方が利益になると思われております。様々な情報を掴み、こちらの不利にならない様に証言も確保しました。これだけの冤罪を暴かれたアーシア令嬢は実家の方にも影響がありますね彼女の未来はコレではおしまいですね』
私は影の報告を聞いて惚けてしまいました。
……情けないです。私は何を考えていたのでしょう。私は公爵家であの子は子爵家である事を分かっていたのに嫉妬に自分を惑わされ、本当に大事なモノを見えていなかった。影の報告を聞いて、やっと私の心の気持ちに気付いたのです。
『アリア様!やっと週末ですね!私、この時を日々、待ち遠しくですね仕方がないのです!あっ!今笑いましたね?私もアリア様の笑顔を見たらつられて笑っちゃいます!』
『どうしたのですか?アリア様、笑顔が少ないですよ?私が笑顔になるとお話があるのです!アリア様も可笑しくて笑ってしまいますよ!』
あの子はいつも私を想っていてくれました。
貴族として作る笑顔の下に隠している私の気持ちを誰もが見抜けないのに作った笑顔の下に気づき本当の私を見てくれる、そして、笑顔にしてくれました。
私にとってもあの子との週末があるからこそ、私は私でいられたのです。
今からでは遅いでしょう。いや、あの子との関係性を知られた時点で手遅れだったのです。
ですが考えます。友を守れなかった私は何がしたいのでしょう?
あの子をただこの騒動から救いたいと言うのはもう難しいでしょう。この出来事の結末をどう付けるか考える必要があります。
『アリア⁉︎何故ですか!たかが子爵令嬢の所為で公爵家に泥を塗る気ですか!アリアがそこまでするのは何故ですか?弱味でも握られているのですか?』
私は考えた末に影に命じました。今後の噂に信憑性をつける事とカイル様とあの子の情報です。
私はまだ身を守るだけの力はありますがあの子にはありません。既に私かあの子をどちらかを選ばないといけない状況なのです。
カイル様があの子に近づいた時点で私とあの子は騒動に巻き込まれるのは確定しました。しかし、ここまでの状況になるとは誰が予想しましょう。
あの子があの様な噂を流すはずがないのに流れているとなると第三者の介入を考えて良いでしょう。そして、私が予想する最大の悪い事は王族である陛下の関与です。
陛下は女狂いと陰で呼ばれています。陛下にお会いした時、私を見る眼が違ったのを覚えています。
それが私にとって不安を抱かせる原因です。
それがあるからお父様への報告はしない様に命じます。しかし、悪い事は何故当たるのでしょう。
『アリア様の言った通り、陛下の関与を確認しました。これは旦那様へ報告をした方が宜しいと思います。これ以上はアリア様の身の危険になります。それと殿下の件ですが純粋にアーシア令嬢に好意を持っている様です。それを今回、陛下が利用したと見て良いです』
私は影にこの件は大事にしない為にお父様への報告はするなと命じます。
お父様の事ですから陛下への謁見後、争いに発展するはずです。陛下が私と殿下を婚約させたのも民よりの公爵家を国に取り入る為です。お父様も国をもっと政治的に扱いやすい様にする為にと互いの利用価値のある婚約でしたがこの件がお父様に露見するとお父様の大義名分を与える結果になるのです。
公爵家の兵力はまだ王都を征圧出来るほど整ってませんが大義名分を掲げ、陛下に不満を持つ近隣の貴族と共に共闘できましたら分かりません。
それに今のタイミングで内戦をするのはまずいのです。停戦しているからと言って小競り合いがあるのは事実、国力が低下するとまた戦争になる可能性も考えなければなりません。
救いがあるとするならカイル様があの子に対して裏が無かった事でしょう。
ならば私がやる事は決まりました。私の至らなさであの子が巻き込まれたのです。
このまま、あの子を見捨てて王妃になる?それは絶対にありえません。
その様な事は他の誰かが許しても私が許しません。
その行為こそが私が私を裏切る行為なのですから。
私は私である為にあの子を守る。それが理由で良い。綺麗事を並べても人は自分が大事で自分に我儘なのです。だから、あの子を助ける。
……私の事情に巻き込んでいて助けるとは傲慢な考えですね。
ですが、あの子はこの様な状況でも私を慕ってます。私が冷たい態度でもいつもと変わらない笑顔を向けてくれます。私が貴方の未来を知らずに壊したのに私はこの事情をあの子に知られるのが怖い。嫌われたくない。
一緒にいたい。だけど、私はもうあの子と関わるのを辞めなければなりません。
だから、私はあの子を呼び出し、あの子に対して心無い言葉で罵り、傷つけ、あの子を泣かせた。
帰り際にあの子が無表情で涙を流していたのが心に残ってしまいます。
私はきっとロクな死に方はしないでしょう。ですが、貴族として生まれた以上は名誉の為に死ぬ覚悟もあります。覚悟があっても怖いものは怖いのです。
『アリア様、貴方は以前、私に言いました!民を導く王妃になり、国を豊かにする。あの言葉は嘘だったのですか?あの様な小娘の為にアリア様は夢を理想を捨てるのですか⁉︎』
ヨハンは私が影を使って、この騒動の介入に気がついた様です。悲痛な顔をさせてしまいました。
『ヨハン、それは違いますわ。私は私の為に王妃候補を降りるのです。アーシアの為じゃないわ。あと小娘ではないですわ。アーシアは私の親友よ。……いや、私から裏切ったから、もう元親友ね。ですが、私が認めたあの子なら私の代わりに私の夢を実現させてくれるはずよ。私ではもう叶えられないわ。陛下が出てきた以上、公爵家の権威を使って今回の出来事を退けても今後ないとは言い切れないわ。いや、今後もあると見て良いわ。私はもう詰んだのです。これだけの事を大胆にやっていて、周りが気づかないはずが無いわ。いや、気が付いても介入がないのを見ると公爵家の弱体化を狙っていると見られた政治的介入だと周りが思っているでしょう。でもね、私はそうじゃないと思ってます。陛下は私を欲している。カイル様は噂や情報から考えると私を死刑にしたいようですが陛下の方がやはり上手ですね。そして、私が一番この騒動の終着点で収まると理解しているのです』
ヨハンは泣きそうな表情を作ってくれるのは彼もここに来る前に国の陰謀を体験していたからこそ、ヨハンも引き退ってくれました。
だから、ヨハンには伝えます。あの子には私が居なくなっても今回の出来事の本質を知らせないで欲しいと、あの子が知ってしまうと王族から真実を知ったとして処分をされる恐れがあります。そして、私の書いた手紙を持たせます。
私はズルいです。
私の所為で王族の出来事に巻き込まれたあの子に私は勝手に縁を切り、勝手に後の事を頼んで、こんな無責任な事をあの子には知られたくない。だから、この出来事の最後にあの子に渡す様にヨハンにお願いしました。私は言い訳を並べた手紙を書いてまで、どうしてもあの子に嫌われたくないようです。私はそんな酷い仕打ちをしているのにあの子をいまだに友と思ってます。
私はその後、大勢の人の前で満足そうなカイル様に婚約破棄をされ、城へ連れてかれました。牢に閉じ込められたかと思うと内密裏に陛下に呼び出されました。
『試したとは言え、其方はやはり優秀だ。余が思った通りの展開をする手腕は見事だ。あの現状で幾つもの選択を与えたと言うのにこの選択を選んだの何故だ?其方の考えも聞いておこう』
陛下はニヤニヤとしながら私に尋ねてくる。
『陛下、貴方が選べと言うのはユグベルト子爵の没落でしょうか?国力の低下でしょうか?その様なモノを選べと言うのは悪趣味ですわ』
……趣味が悪い。
親友を見捨てるか、国民を消費するかなど私は選べない。
既に私が選ぶ道は死刑宣告されたのを陛下に情けをかけられ公式には出せない妾として、命を救われた令嬢です。
仮に他の選択を選んでも王族に結婚破棄された、もしくは結婚破棄した令嬢を取り入れる貴族は少ない。あると言っても既に貰い手が居るのだから、私はいき遅れてしまいます。それを陛下が娶るとも言い出さないとも限らないのです。そうなるとまた違う騒動が起こるでしょう。
『余は優秀な女は好きだ。今回は確かに其方が欲しかったのもあるが其方を試したのだ。子爵令嬢に入れ込んでいると聞いていたのでどう出るか楽しみだったが些か期待ハズレでもある』
試される眼、見下す眼、陛下はころころと私に様々な表情を見せる。今回の騒動は陛下にとっては遊びだったのかもしれません。
『余は優秀な其方だからこそ欲しいと思ったのだが、子爵令嬢に深入りして、日和った其方を抱いてもつまらん。まるで出来損ないを見ているようだ。そう言えば、アレも子爵令嬢に盛っていたな。子爵令嬢もそう言う点で言えば優秀と言えよう。将来、其方と一緒に寝てやる事も考えてやろうか』
そう陛下は大声で笑う。私は尋ます。殿下の新しい婚約者ではないのですかと。
『其方は何を言っておる。あの様な出来損ないを王にしたら、余が安心して老後が過ごせないだろう?だから、新しい世継ぎが欲しいのだ。其方なら良いモノが出来そうだから欲したのだ。あの出来損ないも兄弟を殺せる度胸はある様だが知力や人を使う能力が余りにも低い。早く世継ぎを作り、そろそろ見切らねばならない。世継ぎが居ない現状で出来損ないを処分しては体裁に響くからな。全く、王族とは不便だ』
陛下は不便だと言う割にはニヤニヤと笑い続けている。
この会話を聞いて、私は少し納得した。カイル様の歪みは私ではなく陛下であるのだと。陛下とは余り会話をしたことが無かったが今回の件で理解した。
敵に回したら一番厄介だ。
『無能なアレが其方と結婚するのであれば余も安心出来たのだがアレは其方を敵視している節がある。なら其方を余が貰っても構わぬだろう?アレは目先の事しか見えていないから子爵令嬢如きに惚れたのだ。いや、自分より劣等感がある女が居心地が良かったのだろう』
私はその言葉に否定をいれます。
『陛下、一つ訂正があります。私がこの選択をしたのもあの子爵令嬢が私の代わりに王妃になるからと判断したのです。陛下、殿下は確かに陛下と比べますと優秀とは言えません。ですが、ユグベルト子爵令嬢の本質を見抜いた殿下は慧眼であります。陛下、その様な評価だといずれ、王妃になったユグベルト子爵令嬢に足を掬われる日が来ますわ』
陛下はくだらんと一蹴して、私を牢へ返しました。陛下は最後にまた後日、私の処分を言い渡すと言われました。今回の会話で陛下の私への評価が下がったのは間違いありません。優秀ではないと評価はされないでしょうが愚かと評価されていると思います。
ですが私はもう良いのです。
私は私である為に最後の瞬間まで公爵家令嬢としての面子を見せつけるだけです。
牢と言っても貴族である私を無下に出来ないので食事もちゃんとしてますし、着替えや水浴びも出来ます。一つ問題があるとしましたら付き人が私への扱いが悪い位です。ですが、態度が悪いと言うより行動にも隙があります。陛下に呼ばれるその日にナイフを隠す位出来るくらいです。普通なら無くなったらすぐに問題にするはずですが食事の片付けも碌にしないのですからこの付き人を選んだのは陛下のミスです。いや、敢えてこの付き人を私に付けたのかも知れません。
ここまでの長い前置きが私の今までの出来事であり、あの子に対しての言い訳であり、私の後悔です。
現在、兵士に囲まれて謁見の間に連れて行かれております。
そして、ここからが正念場であり私が私である為に凛と進みます。もう友と名乗るのは許されないでしょうが私はアーシアの友として行動します。
虫のいい話なのは分かってます。
『アリア様にそういって下さるとは思いませんでした!私も心から許せるお方だとお慕いしてました。アリア様が私を友と呼んで頂けるのでしたら私もアリア様を親友とお呼びしても良いでしょうか?』
アーシアと友と呼び合う中で私は満たされる日々を過ごせました。なのに私はと言いますとアーシアには何もしてあげてません。それどころかアーシアを傷つけ悲しませました。
私はまだアーシアに傷つけた事を謝ってません。
そして、アーシアとはもう会えない私は謝る事すらもう許されないのです。
だから、私がこれから行う事が私から出来るアーシアへの罪滅ぼしです。
謁見の間の中に入ると陛下と王妃、カイル様まで居ます。周りを見渡すと陛下の腹心で纏められているのが分かります。私は中央に立ち止まり、陛下を睨みます。周りも私が礼をせずに睨んだのには一瞬、唖然としたが無礼者など野次が飛んできます。それを陛下はニヤニヤと腕を上げ、辞めさせます。
「其方は何故余を睨む?其方の立場を忘れたか?」
罪人と言わせたいのでしょう。ですが、私はのりません。
「私は公爵家長女アリア・ユクストファですわ。私に非が無いのであれば何故媚びる必要があるのでしょう?」
陛下と視線がぶつかります。
何も恥じる事はない。冤罪でこの場に居るのだから毅然とするだけです。
「ククク、良い眼だ。合格だ。死罪と言われた其方を余の権限で無しにしよう。だが、其方から流れた醜悪は余でも無しには出来ぬ。なら、余が囲ってやろう」
陛下は満足げに笑う。だが、何も聞かされていないのでしょう。王妃は複雑な表情を見せたがカイル様は更に嫌悪感を出し、陛下に抗議する。しかし、陛下に睨まれたカイル様は怯え、口を閉じた。
私が陛下の子供を産めば、カイル様もアーシアも処分されるのでしょう。
だから、私は選びました。
私は胸元に手に手を当て、懐に潜めたナイフを取り出し、陛下へ向かう。
だが、どんなに素早く動こうとも私は女性です。周りの兵士に動きに勝るわけがありません。
だから、身体に複数の剣が刺さるのも分かりきった事です。
意識が飛びそうになるのを下を噛み、気持ちだけで保たせます。急所は外れているようですが刺さった剣の数が数です。助からないでしょう。だけど私にはやるべき事があります。
「……おどきなさい!」
今までに自分でも聞いた事のない低い声が出ました。兵士も私の気迫に怖気付いたように見えます。
私は一歩踏み込み、兵士へ睨みを利かせます。その姿を見た陛下は高らかに笑った。
「ハハハ!兵よ、退がれ!南の国の魔女共ではないのだから余は殺されん!それより皆の者見たか!この気迫!この執念!女であるのが惜しい!いや、その逆だ!良い女ではないか!其方をそうまでさせるモノを教えよ」
私は陛下を前に堂々と言います。
「……私を思い通りに出来る者は私だけです。陛下へ忠誠を誓っていても私が誓いたいから誓ったのです。私は私の意志で決めます。陛下の良いなりにはなりません」
「其方をそうさせるモノは自身であったか!それならあの娘を庇った理由もそこにあるのか。其方は余を楽しませてくれる。愉快だ!ならば最後に褒美をくれようぞ?望みを言うが良い」
「私はアリア・ユクストファ公爵家長女です。逃げも隠れもしません!私は公爵家として正しい事をするまでです。貴方の思い通りにはさせません。カイル様を殺さずに王位についてもらいます」
私の言葉に流石の家臣達もざわつきます。一番びっくりしているのは言われた本人だ。
今、気を失えば私は死ぬでしょう。まだ死ぬわけにはいきません。舌は回りますが時間の問題であり、気力を保たせます。カイル様は陛下へ怯えた表情で見ていますが陛下は一瞥し興味のないモノを見ているようだ。
「……ほう、あくまでアレの王位と来るか。良かろう。其方が先日言っていた事が戯言かどうか見届けてやろうではないか!安心するが良い。余が其方の代わりに庇護してやろう」
「父上!ど、どう言うことですか⁉︎まるで私が……」
「誰が口を開いて良いと言った?言葉の通りだ。それが事実でありそれが真実だ。貴様はその女に生かされたのだ。今回の事柄で貴様には失望した。自分の都合の良い事ばかりしか見えておらず、貴様は自分の都合の良い物事しか解釈していない。本質を理解していたのはこの女だけだ。そして貴族として王族を守る為に其方の虚偽の噂を受け入れ、この場で余に抗議している。これだけ言えば解ろう?こんな事も理解出来ん無能か?」
陛下は自分の都合の悪い事は上手く隠したまま話をしてます。私がここで抗議して本当の事を言わない理由はアーシアの事を見届けてやると言われたからです。私が求めている事を叶える代わりに私は真実を言わない。アーシアは陛下の庇護を得たと考えて良いはずです。
そして、私に生かされた事実を突きつけられ恨めしそうに睨んでいるカイル様に後は復讐するだけです。
「国王として証言する!其方はアレの冤罪を受け入れただけであり、身は潔白である!しかし、それを証言した所で国を分割してしまうが其方はそれを嫌うであろう?この証言は其方は国の為にこの証言を黙殺するのを望むであろう?あの小娘の為にも?」
私は力なく頷きます。
「皆の者よ!この場の出来事を漏らしたら連帯責任で全て処刑する。良いな?他所には喋るでないぞ?だが、帝国にこの国をくれてやりたいのなら喋るが良い」
意地悪く陛下は笑います。
「さて、皆が忠義に厚くて良かったぞ。そして、アリアよ。国王として其方に贈る言葉がある。其方は国を想い、貴族として最後まで生き抜いた。其方は立派であり、ここで死ぬのが勿体無い程の人材だ。其方を失った事を余は本当に残念に思う。其方の忠義、しかと見届けた。安心して安らかに眠るが良い」
王家に使える貴族ならその言葉を頂けるのは最高の褒美だ。そして、カイル様への復讐にもなります。カイル様は一度も陛下に褒められた事もないのですから。カイル様は陛下に罪人に王家の褒美の言葉をやるのはおかしいなど悔しそうに抗議している。陛下も呆れて何も言葉が出てこない様です。
「最後の手向けだ。このまま、剣を串刺しにしたまま、苦しみながら死ぬより一思いに殺してやろう。カイルよ、元婚約者として、其方の所為で死ぬ事になったアリアを一思いに殺せ」
その命令をカイル様はどう受け取ったのでしょう?また都合の良い方に解釈したのでしょうか?ニヤついた顔を見ているとどう受け取ったか分かります。陛下でなくてもカイル様の残念さに呆れてしまいます。カイル様は私にバカにされたと思ったのでしょう。カイル様への失望を顔に出してましたので。
「一思いに殺してやる。感謝しろ」
そう言い、私の胸に突き刺します。私はカイル様を抱きしめ、カイル様に私の最後の言葉を伝えます。
「……貴方は、最後まで道化でした。アーシアを一番に愛していたのは私ですよ。だって、貴方は全て私より劣ってますもの。私ならこの先アーシアを幸せに出来ますわ。貴方の偽り……紛い物の愛で私の愛が勝てるのかしら?」
カイル様は凄い醜い表情で私を何度も刺します。周りが止めに入る姿が何も見えなくなりました。
これは今から死ぬ私からこの先生きて行くカイル様への復讐です。私の言葉が呪いとなり、カイル様を苦しめる事を望んでます。そして、アーシアが幸せに生を過ごせる事を願ってます。
本当はまだ生きたかった。アーシアと一緒の時を歩み、生きたかったのです。そして、互いの子供を見せあって、お話が出来たらどんなに素晴らしい事でしょう。
しかし、周りが許さなかった。
私は貴方を想う故に貴方を裏切りました。
貴方に許されるのなら、また私を親友と呼んで欲しい。
『アリア様……もう一度!もう一度お願いします!』
『……なんですの?もう言わないですよ。私と貴方はもう親友ですわ。貴方が言った基準ですとね。……何をニヤニヤしているのですか?』
『申し訳ありません。この顔は暫く治りません。アリア様の一番のお友達になれるなんて思っていませんでした!アリア様とは私から見たら雲の上のお方なのです』
『大袈裟ね。でも私は貴方の事が気に入ってますわ。貴方が何かあった時は私が親友として、どんな手を使っても助けてあげますわ!』
『アリア様が言いますと真実味ある言葉ですね。でしたら、私もアリア様の為なら何でもしますよ!……私に出来る範囲ですけど』
『……言葉の後半自信なさ気ですが大丈夫ですの?ですが、アーシアに助けられるようなヘマはしませんわ』
『あー!アリア様は私を疑ってますね!私はやる時はやるのですよ!アリア様に認められる令嬢に私はなる!』
『……ふふ、うふふ、ご、ごめんなさい。余りにも貴方が可愛かったからついね?でも期待しているわ。私の親友さん』