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phantom&fake  作者: 磨騎 蛇朔
4/8

〈先の世界は〉

「森?」


「森だぁ!」


 扉を出た先。ボクらが出たのは木が生い茂る不気味な森の中だった。


「あれ?」


「どうしたアンナ」


 アンナが振り返り声を発した。ボクも振り返ってみるとそこにあるはずのものが無くなっていた。


「扉が・・・ない・・・」


「本格的にアリスみたいになってきたね!」


 アンナは驚くどころか目をキラキラさせてボクを見た。


「行こうアンリ!冒険の始まりだ!」


 アンナはボクに笑顔を向け前を歩きだした。


「待ってよアンナ!」


 ボクは歩きだすアンナの手を取った。一人でどこか行ってしまうような気がしたからだ。


「大丈夫だよアンリ!」


 アンナはボクに笑顔を見せた。そして、ボクはアンナの手をギュッと握りしめた。

しばらく歩いているとアンナがまた声を上げた。


「アンリ!アンリ!なんか光ってるよ!」


 アンナは森の奥の方に光っている何かを見つけた。


「何かなぁ何かなぁ?」

 

「光があるってことは人がいるってことだよな・・・」


「きっとこの森の住人なんだよ!行ってみよう!」


 アンナの言葉にボクは頷き光のある方へ歩いて行った。

ボクら歩いていった先にあったのは木の囲いに囲まれた何かの空間。長テーブルと沢山のイスが置かれていた。

囲いには張り紙があり、その紙には朝、昼、晩これらは交わらない。ここに来るなら一つ選ばなきゃ。そう書かれていた。


「なんだろ、コレ?」


「アンリ、アンリ!何かいる!」


 アンナが指さした先。テーブルの奥に誰かがいた。


「ズズズ午後の紅茶やはりレモンティーに限る」


「午前の紅茶はミルクティーだね!」


「ウチュ。ストレートティーが夜の紅茶には一番だねぇ。ふぁあそれじゃぁおやすみ~」


 イカレ帽子屋、三月ウサギ、眠りネズミがお茶会をしていたのだ。


「アンリ!アンリ!アリスの世界だよ!」


『ん?』


 三人がボクらを見た。そして三月ウサギはガタガタと、眠りネズミはトコトコと、イカレ帽子屋はふわっとボクらの前に立った。


「こんにちは子供たち、午後の紅茶でもどうだい?」


「おはよう!ミルクティーはいかが?」


「こんばんは~ストレートティーは飲む~?」


 アベコベな挨拶。


「初めまして!ウサギさん、ネズミさん、帽子屋さん!」 


 アンナが三人に挨拶する。会話は成り立っていない。だが不思議なことに会話が成立している様だった。


「アンリ、アンリ!何飲む?何飲む?」


「アンナ・・・」


 アンナが目を輝かせている時は何を言っても仕方がない。

というより勝手に自分で進めてしまう。今もボクの言葉なんてきいてないのかミルクティーをボクに選んだ。


「や、アンナ、ボクはまだ・・・」


「そうかいそうかい!ま、座りなよ!」


 三月ウサギに席を勧められボクは席についた。


「アンナはどうするんだ?」


「ん~・・・よし決めた!全部飲む!」


「欲張り」


 アンナの答えにボクは席からつっこんだ。

アンナ曰くどの紅茶もおいしそうなんだと文句を言っている。

それを聞いた三月ウサギ、イカレ帽子屋、眠りネズミは怒りの目をアンナに向けた。


「全部?何を言っているんだい?」


「全てを選ぶなんて、何を考えている」


「ウチュ・・・・。バカな子がきたわね」


―選べる時間は一つだけ。全てなんて無理に決まってるだろう?―


 長いテーブルの上。しかもボクがちょうど座っている所に子の言葉が浮かび上がってきた。

文字が記しているのは時間。その文字を見て彼らが言っていたことを思い出した。

「午前の紅茶」「午後の紅茶」「夜の紅茶」午前、午後、夜。過ごせる時間は一つだけ。


『君はダメな子だ』


 ぬっと3人の手がアンナに向けられる。

ボクは席から立ち上がりアンナの元へ駆けだした。


―欲張りな子は消えちゃえ消えちゃえ消えちゃえ消えちゃえ―


 ボクが走るたびに文字が浮かぶ。近づきたいのに近づけない。どんどん遠くに行ってしまう気がした。


「アンナァ!!」


「・・・うるさいなぁ・・・」


 アンナはイスを掴み迫りくる三人をなぎ払った。


「アンリ!やばそうだ!逃げよう!」


 アンナはボクのもとへ走ってきた。今まで遠く感じていたのが嘘のようだ。


「やばくしたのはアンナだよ!!」


 ボクはアンナの手を握り3人がいない方へ走り出した。


―痛い。痛いなぁ。頭を木にぶつけたじゃない―

―石にぶつかってしまったよ―

―イスをもろに当たっちゃった―


走るボクらの視界に言葉が現れる。どこかあの3人の口振りに似ていてそっと後ろを見たが何も来ていない。


―ああ。痛い。痛いよ。この枝を抜いておくれ。君が刺したようなものだろう?―


 この言葉が現れると後ろからガタガタと音をたて三月ウサギが迫ってきた。彼の左目には太い木の枝が刺さっており、その周りは真っ赤に染まっていた。


―あぁ、せっかくの帽子が台無しだ。ほら、真っ赤に染まってしまったよ―


 次の言葉が現れた時音もなくふわっとイカレ帽子屋が姿を現した。彼はぐちゃぐちゃになった右半分の顔を見せた。


―あぁ痛い。あばらが何本か折れちゃった。まったくヒドイわ。おかげで穴が開いちゃったもの―


 トコトコと眠りネズミが机の上を歩いてきた。彼女はイスでなぎ払われたとは思えないほど大きな穴を左半身に開けていた。


『ボクらを壊した分。君らも壊れなきゃ』


 机には眠りネズミ、前にはイカレ帽子屋、横には三月ウサギがいてボクらの行く手を阻んだ。ボクはアンナのことを守るように両手を広げた。


「アンリ・・あ!」


 アンナは何かに気付いたのか声を上げ、テーブルに上がりティーカップを持ち上げた。さっきまでたくさんあったティーカップはどこにもなくあるのは3つだけだった。3つのカップはそれぞれ彼らが使っていた物。それをみた彼らは驚きじりじりと近づいた。


『返せボクらの大切なモノ!!』


「・・・そっか。バイバイ」


 アンナは持ち上げたそれぞれのカップを高い位置から落とした。彼らはそれを懸命に拾おうとカップに手を伸ばした。しかし、カップは彼らの手に収まることなく地面に粉々になって砕けた。

彼らは悲痛な叫び声を上げると、カップ同じ様に粉々に砕けた。


「・・・た、助かった・・・?」


「う~ん。けっこうグロテスクだったねぇ~」


「とにかく、ここから出ようアンナ」


「そうだねアンリ」


 ボクらはこの場を後にしてまた歩きだす。

アンナがさっきなんであんな行動をしたのか分からない。でもアンナは今までもそうだった。ボクが思い付かないこと、気付かないことに気付く。ボクにない勇気がある。強さがある。本当、憧れる。


「アンリ、アンリ!」


 服を引っ張られボクはアンナが指さした方をみる。そこには可愛らしい小さな家が建っていた。


「アンリ!行ってみよう!」


 うきうきしながらアンナはその家に近づいた。


「待ってアンナ!」


「行くのかい?」


 ボクが振り返るとそこには白銀の髪に赤い瞳を持った少年がいた。


「誰だお前!!」


「・・・。ボクは白ウサギ。ほら、アンナが行ってしまうよ?」 


「・・・白ウサギ・・・?」


 垂れ耳ウサギのフードをかぶった少年を見てボクは疑うも、遠くに行ってしまうアンナを追うためボクは少年を横目に走り出した。

少年はくすりと笑うと何かが少年の隣りに現れた気がした。





「行っちゃったね。どうするのアンヌ」


「どうもこうも、ボクは交代してもらうだけだよアンク」


 少年の隣りにいる紫の猫耳をした青年は少しかがみながら声を掛ける。少年はあの【白ウサギ】を捕まえてチラリとそれを見ていた。


「あぁ、そういう事・・・。【白ウサギ】さん。大人しく交代した方が身のためだよ~?この子、垂れ耳ウサギの帽子かぶってるけど、実際は凶暴だから~・・・君、殺されちゃうかもよ?」


 紫の猫の言葉に【白ウサギ】は酷く怯え、交代すると言い、さっさと逃げて行った。


「これでいいんでしょ?【白ウサギ】」


「問題ない。さぁ、家に戻ろうじゃないか」


 そう言うと白ウサギは消えてしまった。 

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