壁が立ちはだかったら殴って進めと教わりました
壁が立ちはだかったら殴って進めと教わりました
ハンターギルド
この世界では、基本的に害獣である魔獣や人類の敵である魔物を狩るものが所属する場所である
「中世の酒場スタイルと、昨今新たなトレンドになりつつある役所みたいな静かなスタイルどっちだとおもう?」
「私としては中世スタイルがいいです、ランク飛ばすためのイベント起こしやすそうですし」
「うちの相棒がこの世界に来てから好戦的すぎるんですが…」
おかしい、こんな子ではなかったはずだ、どこで教育を間違えたんだ…!
「力こそ正義、たいていのことは力押しでなんとかなるんだよ! と私に教えてくれた人がいたので」
あかん、俺のせいや…
「まぁ、たしかにあの鳥と戦った後に今更ゴブリンとゴブゴブするのも確かに面倒といえば面倒だが…」
殺しに対する罪悪感だとか、そういったものはスキル≪冷静沈着≫によって抑えられているみたいだし
戦闘スキルが大量にあるおかげで力だけ強くて使いこなせないっていうこともなかったしなぁ
「そうなると確かにできることなら上位のランクに最初からいきたいところだね」
「お金を早く貯めれば、権力者などに目を付けられる前に隠居もできますし、いいことばかりですね」
今、何かフラグのスイッチが入ったような音が聞こえた気がする…
そんなことを話しながらおよそ、30分ほど歩くとハンターギルドに到着した
「見た目は完全に中世タイプだな…」
「でも、あまり人の気配はしませんね」
風はスキル≪気配探知≫を使ったようだ
確かにあまり内部の人の数は多くなさそうだが、よく考えると今は半端な時間なのかもしれない
こういう依頼を受けるなら朝早くに受けるだろうし、討伐だとかで町の外にでるならなおさら早くでて暗くなる前に帰ってきたいだろう
そう考えると、恐らく、昼を少し超えたくらいのこの時間は非常に微妙なのかもしれない
「まぁ、人が少ないということは面倒も起きにくいと言うことだし悪くないな」
風を伴いギルドの扉を開ける
スキルで調べたとおり中の人はそれほど多くない
カウンターには3名ほどの職員が座っており、書類仕事をしている、また隣には冒険者が打ち上げなどを行うためだろうか大き目の酒場が併設されていた
その酒場にいるのは10名ほどのごついおっさん達
入ってきた俺達に一度視線を向けると、口笛を吹きながら風のことをジロジロと見てくる
まさか宿屋で立てたフラグは美味しく回収されてしまうんだろうか…
そんなことを考えながら、一人の職員の前に立つ
3人のうち2人は女性職員で、唯一この職員だけが男だったからだ
女性職員フラグとかはいらないので、あえて男の元へと向かう
「珍しいな、大体女性職員のもとに向かうんだけどな、目の保養とか言って」
「隣に保養先があるからな、外でまで女性を追いかけたりせんよ」
職員の軽口に、こちらも軽口を返しながら、椅子に座る
隣の風は少しだけ嬉しそうにしながら、もうマスター、不意打ちはやめてくださいなどと言いながら後ろに立ったままだ
「登録したいんだが、田舎から出てきててな色々聞きたいんだがいいか?」
「構わんよ、今は暇だしな、ところで後ろのお嬢さんは座らないのか?」
「マスターの許可なく椅子に座るなどできませんので」
俺もなぜ座らないのかと思っていたらそういう理由らしい、できればそういうことはもっと早くいってほしかった、これではまるで俺のせいで座れなかったようではないか!
「俺の許可なんて取ったことないじゃん…」
さっきの宿屋だって俺が何言ったって譲ってくれなかったじゃないか!
「ちゃんとベットは二つの部屋にしましたよ?」
やめてください、周りからの視線が刺さって死んでしまいます
「へいへい、ご馳走様、それで何が聞きたいんだ」
付き合ってられんと言った表情で職員さんが話を先に進めてくれる
ありがとう、大事なことなので2回いうよ! ありがとう!
「ハンターギルドというのはランク制度なのか? もしそうならランクをある程度上のほうからスタートというのはできるのかな? 一応実力にはある程度自信があるんだけど」
俺の言葉にこちらをにらんでいたハンターたちが噴き出す
まぁ、確かに俺も風も見た目は強そうに見えないし、宿屋で着替えた服装も一般人が来ている服に似せたものを選んできたし
ちなみにこの服を着替える時にまた風とひと悶着あったりしたが割愛させていただく
「あー、一応ランクはEからSまであってな、基本的には入ったばかりの新人はEランクから初めて雑用などをしてもらう、これは町の人に顔を覚えてもらったりハンター同志でのつながりを作るためだな」
なるほど、確かに冒険者なんてヤクザな仕事だし、町の人から嫌われないためにも、雑用をして町に受け入れてもらうのか
つながりは…まぁ、どうでもいいな
「そういうことで基本的にはEランクから初めてもらう、言いたくないが、村では強かったっていう奴ほど死傷率が高くてな…」
ギルドとしても安易に人死には出したくなくてな、と言葉を続ける
確かに、実力も示してないのに、俺強いですし、とか言われてもビックマウスにしか聞こえないか
「Eランクは雑用メインか、どのくらいの期間Eランクでいればいいんだ?」
問題はそこである、依頼数回とかならいいが
「ハンター教会で期間は決められていてな、お前さんなら成人したばかりだろうし、半年だな」
「いや、ちょっと待て、俺今年で28だぞ、それはおかしい」
こういう死傷率が高そうな世界では大体、成人の年齢が低いのがお約束だし、そうじゃなくても20以上ってことはないだろう
俺がそういうと受付の兄ちゃんは、はっ? といい、こちらの顔を覗き込んでくる
確かに外人さんに比べると童顔に見えるらしいがさすがにそこまで子供には見えないはずだが
「申し訳ないが年齢を証明する手段がないと見た目で判断になってしまうんだが、見た目には完全に子供顔だから、ちょっと無理だな」
これは予想外だ、老け顔とまでは言わないが、元の世界での顔は年齢通りに見えるはずだが…
あ、あれ、そういえばもしかして俺の顔ってゲームの顔になっているんじゃないだろうか
だとしたら、若干見た目を若く設定したような
黙り込んだ俺に後ろから酔っ払いどものヤジが飛んでくる
「お姉ちゃんの前でいい恰好したいのか知らんがいい加減に諦めな」
「しかたないだろ、ぼっちゃんは強いんだから、Eランクなんてやってらんねえんだよ」
「村では最強だったってか!」
ギャハハと品のない笑い声がこだまする
いや、別にいいんだけどね、それにしてもぼっちゃんと呼ばれるほどに品のいい顔にしてただろうか…
「黙れ雑魚共」
風さんご乱心でござる
「マスター、この世にも珍しい人語を喋る熊を倒せばマスターの強さの証明になるのでは?」
あかん、確かに、そういうイベントのフラグは散々立てた、立てたが、しかしだ
「おいおい、姉ちゃんあんまり調子に乗るものじゃないぜ?」
「そうそう俺達が優しいからいいようなものの他の奴らだったら今頃路地裏でひどい目に合ってるぜ?」
「それともそういうのがお好みで喧嘩売ってるのかよ?」
ニヤニヤと風の体をなめるように眺めてくるおっさん共
…これはギルティですわ
「じゃあ、そこにいる熊を全員まとめてぶちのめすのでそれで証明ってことで! 大丈夫Sランクにしろとかは言わないせいぜいCランクがいいところでしょ、あいつらまとめて倒しても?」
俺の挑発にガタリと椅子を倒して立ち上がる熊たち
これであの下種な視線は風から俺に移ったな
「なめてんのか?ああん」
「怪我したくなきゃさっさとそこに頭をつけて謝るんだな、今ならそれで俺は許してやるぜ俺はな」
「お前は優しいやつだな、俺は子供とは言え教育しないと許せねえ」
職員さんが立ち上がり止めようとするがそれを俺は手で制する
実際鑑定こそしてないものの実力はある程度わかる
あいつら程度なら、1000人いても負ける気がしない
俺とおっさん達がにらみ合いをしていると
「それなら僕が立会人をしよう」
ギルドの入り口からそんな声がかかる
気づいていなかったようでおっさん達は怒りを隠さずに入口のほうへと振り向く
俺は気づいてましたけどね、ついでに言えば新しく来た人が、この中では俺と風の次に強いっていうのも
「ギルド本部所属Sランクハンター、レイオスだ、僕には地方支部のギルドマスター程度の権限を与えられてるから君にCランクを与えるくらいのことはできるよ」
そういってレイオスさんがイケメンスマイルをこちらに向ける
絵にかいたような金髪のイケメンさんである
元の世界でであったなら、混乱して、アイドントスピークイングリッシュとか言って逃げただろう
「それじゃあ、外にいこうか、さすがにこの中では暴れられないしね」
一足先に外に出るイケメンさんに主導権を握られながら俺たちは続いて外に向かうのだった
気配探知
範囲は狭いが高性能レーダー
天眼と状況に応じて使い分けるスキル