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後編:少女の祈り《上》


店へと戻り、服や顔の汚れを取って温かいものも振舞ってもらい、トウカも次第にいつもの調子に戻っていった。楽しい時間はあっという間に過ぎて、気が付くと時計は午後9時。「大丈夫。」っと言うトウカを二人がかりで納得させて、陽介が家の近くまで送っていくことになり、二人は店を後にする。


トウカの歩幅に合わせて自然にゆっくりとしたペースで進む。

街灯が必要ないほどの月明かりが歩道を照らし、うっすらと二人の影を映し出す。

大通りへと続くその道には桃の木が連なっていて、ぽつりぽつり小さな蕾が膨らんでいた。


「う~っ寒いねー。早く温かくならないかなぁ。」

「そうですね。」

「あ、ここの並木道の満開ってみたことある?ピンクや白、赤もあったかな。色とりどりで凄く綺麗なんだよ。花の香りも、ぶわーっと広がってさぁ。」

「そっ・・・そうなんですか?それは見てみたいですね。ところで、」


それまでニコニコと話を聞いていたトウカの視線が一瞬ぶれる。

陽介はその一瞬を見逃さず、スッと目を細めて問いかけた。


「ねぇ。君は、あの時の子だよね。トウカちゃん」

「あの・・・時?」

「しらばっくれるつもりなら、それでも構わないよ。」

二人の影が止まり、一番大きな桃の木の下で向かい合う。

普段の彼からは想像もつかないほど冷たく淡々とした声色と射るような視線を受け、頬を冷や汗が伝って行く。


「(でも、それでも私は・・・!)」


今にも震え出しそうな身体に渇を入れる。

大きく息を吸い、陽介の厳しい視線へと向き合った。

「覚えて、いらっしゃったんですね。」

「記憶力だけはいいんだ。あと、君みたいな子を見つけるのもね。」

「お願いします。店主さんに私の事は…」

なおも冷たい視線が突き刺さる。

だけど、ここで引くわけにはいかない。

トウカは、拳をぎゅっと握りそれに耐える。


「言わないよ。」

「ほっ・・・本当ですか!?」

てっきり、もっと阻まれると思った。

私の様な存在を確認できるというなら、多かれ少なかれその危険性も知っているはず。

それに、さっきの氷の様な視線。

すでに陽介の顔には普段の人懐っこさが戻っていたが、喉元に刃を突き付けられた様な感覚が今も抜けず、トウカの身体は今でも強張ったままであった。


「どうしてですか?あの日も、あなたは私の姿を見ていたはずじゃ。」

「君が悪意から動いて無いって事は大体解ったしね。ただ、もしも16年前みたいな事態になったら・・・」

「しません!絶対に!!」

トウカが精いっぱい、力強く言い切る。

「絶対に?」

「はい。」

「解った。」

陽介はトウカの言葉を受けとると、そっと手を動かした。

その動きにビクッと肩をすくませたが、その手は、まるで包み込むようにトウカの固く握られていた手に触れた。それがとても温かく優しいものだったので、視線を恐る恐る陽介へと戻すと、そこにはいつもの穏やかさとも、さっきまでの冷たさとも違う顔があった。

何かを懺悔するような、そして祈るようなその顔を、私は知っている。


「僕も、ずっと君に謝りたかったんだ。ごめんね・・・トウカちゃん。」

トウカはふるふると何度も首を横に振る。

「陽介さんは一つも悪くないです!それに、貴方が見つけてくれたお陰で、私は彼と出会えたんです。」

「そう・・・。そうだね、君はそういう子だね。」

小さな手を包み込む両手に、少し力が入る。

その両手に、そっと触れる。

「ありがとう。」

そう言って、トウカの頭を一撫(ひとな)ですると、また夜の並木道を歩き始めた。


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