あと3日
-世界が終わるまであと3日-
『テレビの前の皆様!冷静にお聞きください!
我々の住むこの地球は、あと3日で崩壊します!』
「ふーん。」
朝一番のニュースにしては、なんとも物騒すぎる話題だ。
かなり真に迫った演技ではあるが、生憎新しいドラマの情報は間に合っている。いやもしかしたら映画かもしれないけど。
残念ながら今私が知りたいのは、今日の天気と今日のワンコだけだ。だと言うのにいつもならこのチャンネルで事が済むところを、今日に限って『世界が終わる』の一点張りだ。いいから仕事をしてくれテレビ局。学生や社会人の朝は短いのよ。
仕方なく今日のワンコは諦めてリモコンに手を掛けた。とりあえず他局でいいから今日の天気だけでも知りたい。
ピッ 『あと3日で私たちの世界が終わってしま』ピッ 『ノストラザマスはこの世界崩壊を未来に伝えようと』ピッ 『世界が終わるよ!全員集合!』ピッ ブツンッ
リモコンを投げ付けたい衝動を抑え、代わりに抉るように電源ボタンを押し込んだ。エコだエコ、テレビを消すのが一番の節電。どいつもこいつも今日の天気より新たな番組のほうが大切ですかそうですか。
こちとら今日は朝一で大学の授業が入ってるもんだからベッドから出た瞬間からブルーな気分だというのに、なんたる不運だろう。
時計を睨み付けると予想より時間が経ってしまっていた。
これは不味い、見えない敵と戦ってる場合じゃない。電車に乗り遅れたらシャレにならない。
妥協案として気休めに折り畳み傘をバッグの隙間に押し込んで慌ただしくアパートを出た。
思いっきり扉を閉めたら扉の向こうからガラガラと悲惨な音が聞こえた。どうやら見えない敵ではなく傘立てをKOしてしまったらしいが直してる時間はない。
立て、立つんだ傘立て。真っ白になるにはまだ早い。
階段をつんのめりながら駆け下りると、天気は初秋らしい涼しげな風を纏う澄んだ高い青空だった。あぁなんて清々しいんだろう!テレビ局周辺だけ女子アナのメイクが剥げんばかりの集中的豪雨が降りますように!
わたしは全てに目を反らし、早足で歩き出した。
忙しく駅に向かう中、誰にもすれ違わないことに気付いた。今のところ、出発してからひとりも。
多少遅れてしまっているとはいえ、このくらいの時間であれば愛犬ジェシカ(ゴールデンレトリーバー、メス)と優雅に散歩するおじいさんや、同じく愛犬ゴンザレス(バーニーズマウンテン、メス)とジョギングする野球少年と会うはずだ。もちろんその他諸々の全く知らない人達だっているはず。
商店街からは離れているものの、住宅街なのにひとりも人がいないなんてそうそう有り得るものだろうか。物音も話し声も聞こえてこないし、なんとも薄気味悪い。
不気味さに急かされた分もあり電車の時間には充分な時間に駅へたどり着けたものの、結局道中で出会えた生き物といえばトラ次郎(雑種ネコ、オス)だけだった。クールなあいつもいつもより少し早足で、しかしいつも通りこちらには一瞥もしなかったが。