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だいたいこんな感じ、な日常

 どうも、生きてましたえんとつそうじです。最近まったく小説を書いて折らず、リハビリを兼ねてこんな小説を書いてみました。

 どうぞよろしくお願いします。

 閑静な住宅街。すっかり日も暮れ、夜のとばりになずむ家々の窓からポツポツと黄色い明かりが漏れ始める時間。

 その一角に、平凡な2階建ての家がある。赤い屋根に白い壁色のありふれた彩色、洗濯干し場があるだけの面白みのない狭い庭、玄関横の車置き場には少し型の古い野暮ったい銀色のバンが一台くたびれて眠っている。この住宅街の番地を埋めるためだけに建っているのではないかと思うほど、この家は平凡だった。

 この家の非凡なところを探すと、唯一、玄関にかけられた表札に目が止まる。

 その表札に書かれた家主の名は『超光』。『こしみつ』と読めた。

 この超光さんちには六人の男兄弟がいて、近所ではちょっと名の知れたこの住宅街の名物といえた。


 これは、そんな六兄弟のありふれた日常のお話。


 

コツ、コツと時計の針の音だけが妙に大きく響くリビング。その真ん中で四本足をカーペットに食い込ませて起立するちゃぶ台を、四人の若い男子が囲んでいる。この四人はただ顔をつきあわせて席を共にしているというワケではなく、何かしら思い思いのモノを携えて座布団に腰掛けている。

 分厚い学術書のページをほぼ無表情で熟読しているのは、この超光家6兄弟の二男、超光ハジメだ。彼の表情にほぼ、とつけたのは、ときおりその本の内容に驚いたように目を見開いたり、アゴに手を当てて考え込むような仕草をするからだ。目の前のちゃぶ台にはコンタクトケースと彼自身が淹れた香り立つコーヒーが置かれ、口を付けたところから焦げ茶色の雫がつたって、白いカップに一筋の痕を付けている。

 黒い髪を短くなりすぎないように整え、おろしたての青々しいジーンズと白いTシャツを身につけてリラックスしている姿は落ち着きがあり、自然体なのにどこか頼もしくさえあった。

 その左隣で、カタカタとミニノートパソコンのキーボードを叩いている赤いフレームの眼鏡の青年が、三男の超光ナツである。来週提出のレポートに取りかかっているためか、その表情は神妙としており、退屈であると顔のパーツ一つ一つを使って現在の心境を物語っているかのようだ。レポート制作の供として、500ミリパックのオレンジジュースと、レポートのためのメモでびっしりと行を埋められたルーズリーフとペンが、パソコンを挟むように置かれている。

 兄のハジメと同じ黒髪だが、ナツの髪は兄より長く、銀色のゴム紐でポニーテールのように纏めている。身につける灰色のタイトなジャージの上下は、一見窮屈に見えるが、本人は自然体で楽にしていた。

 ナツの隣に正座して、ちゃぶ台にノートと教科書を広げて今日習ったところの復習をしている少年の名は超光シンイチ。超光6兄弟の四番目の弟になる。一つ上の兄とは違い、宿題にはげむその表情は真剣そのものだ。ノートと教科書の他に、冷蔵庫から麦茶とミニチョコレートを出して小皿に盛ってちゃぶ台に置いた。ハジメやナツが確保しているスペースにチョコレートの包み紙が広げられているのは、このためだ。

 着替えるのが面倒くさいのか、シンイチは学校から帰ってしばらくたつのに、未だに名札の付いたシャツとチェックのスラックスの制服を着たままだ。彼の後ろで、綺麗に畳まれたブレザーが持ち主の背中を見上げている。母親譲りの髪はブラウンで前髪が顔にかかっている、上の兄達とは髪の色が若干異なる。

 ハジメとシンイチに挟まれる形で座る最後の一人が、超光家五男、超光エイス。彼は、ヘッドフォンをつけて外に音が漏れないようにしながら、ちゃぶ台に肘を突いて携帯ゲーム機で遊んでいた。そのそばには兄が持ってきたチョコレートの包み紙の山と麦茶、今遊んでいるソフトのパッケージが置かれている。タイトルを見ると、『大切断! リズムでポン刀♪』とある。

 上の兄達と同じ黒髪だが、エイスのものは少し紫がかっている。校則に引っかからない程度に髪を長く伸ばし、前髪を中ワケにしているあたりに、彼のこだわりが見て取れる。その格好は、タンクトップとボクサーパンツ一丁という四人の中で最もラフなモノで、シンイチとは対照的に彼の背後には脱ぎ散らかされた学ランとシャツとスラックスが、脱ぎ散らかされた後、団子状に丸められたままの状態で寂しそうに持ち主を見つめている。

 超光家6兄弟のうち、四人がここに会するのには、ある理由があった。そしてその理由は、残る二人の兄弟、長男と末の弟がこの場にいないことと関係している。


「……遅い」

 パタン、とミニノートパソコンを閉じながら絞り出すようにナツがつぶやいた。その一言で、他の兄弟達の手の動きがぴたりと止る。ナツの言葉は、ここにいる兄弟全員が共有する認識だった。

「ふむ……もう一時間経つのか」

 学術書にしおりをはさんで、ハジメは壁の時計に目を移して、ため息をついた。

「やはり私が行くべきだったかな」 

「いやいや、あの人だってもう子供じゃないんだから……ってフォローできないんだよなぁ」

「まぁそう言うな。もうすぐ帰ってくるさ」

 うなだれる弟の肩を、ハジメはなだめるようにポンポンと叩いた。

 すると

 

 グクゥ~

 

 計らずしてナツの腹の虫が怪獣のような雄叫びを上げる。それを鎮めるために、ナツは弟が用意したチョコレートをヒョイと口に含んで、粘りのある甘味を舌で転がして気を紛らわせる。

 彼らがここに集まる理由。それは、夕飯の買い出しに出かけた超光家長男と六男を待っているのだ。いつもなら忙しさの合間を縫って彼らの母が夕飯を作ってくれているのだが、今日はどうにも仕事から手を離せないようで、二男のハジメが家に帰ったとき、ちゃぶ台の上に夕飯を作れないお詫びの手紙と六兄弟の夕飯代として、三千円が用意されていた。それで、ピザをとるなり、出前を頼むなりしろということらしい。

 そういうわけで、超光六兄弟は最後に帰ってきた長男を迎えて晩ご飯を何にするか相談することとなった。その結果、長男が近所のスーパーに弁当を買い出しに行くという事で決定した。六男がついて行ったのは家では弁当を決めきれず、直接見て決めたいと言ったからだ。

 今の時刻は20時30分。ちなみに、これは一時間半前の話である。さらに言えば、近所のスーパーは超光家から歩いて10分ほどの距離だ。

「シンイチ、エイスお腹すいてないか?」

「う、うん。大丈夫」

「かなりすいてる~」

 対照的な弟たちの反応に、ハジメは小さくうなずいた。高校生と中学生という育ち盛りの二人に、こんな時間まで何も食べさせないのは忍びない。事実、シンイチもエイスも、さっきからナツ以上に腹の虫を騒がせているのだ。

「しかたない、兄さんには悪いが先に何か食べておくか。ラーメンくらいはあっただろ?」

 と、ハジメが膝に手をついて立ち上がろうとしたときだった。

「た、ただいま~……!」

 玄関が開く音がし、妙に疲れている声が響いた。ハジメとナツは顔を見合わせ、立ち上がって帰宅した長兄と末弟の出迎えに行った。空腹のまま待たされ続けたシンイチとハジメは、和室から顔だけ出して兄達の姿を見守る。

ハジメとナツが玄関に向かうと、末の弟に背中を揺すられながらグッタリとうつぶせに横たわるスーツ姿の長男がいた。

 取引先に軽く見られないよう、また失礼の無いようにとセットさていた黒髪はなぜかグシャグシャなっており、先月の給料で新調したスーツはクシャクシャにくたびれていて、憐れみさえ感じさせるほどだ。

「ど、どうしたんです兄さん?」

「え? あ、いや……んはははは! いやなに、夕飯前に腹を空かせようと思ってちょっと運動をだな」「おろしたてのスーツでですか?」

「うッ……ま、まぁな。新しいスーツはノリが張っていて硬いからな。それで遅くなったんだふう、コタロウありがとう。楽になったよ」 

「う、うん」

 一番上の兄の背をさすり続けていたコタロウという少年、彼が超光兄弟最後の弟だ。父が海外出張から彼に買ってきた二本の角が付いた帽子から、フワフワと少しカールした焦げ茶の髪がもれる愛らしい少年で、近所の小学校に通っている。

 笑うと天使のように可愛らしいのだが、兄の背に手を置くその顔は、変に曇っていた。

「どうしたコタロウ?」

「う、ううん、なんでも、なんでも……」

 ナツがその異変に気付いて声をかけると、コタロウはそのくりくりと大きい双眸を一番上の兄と三番目の兄との間を行き来させるだけで、言葉を出さない。

「? 変な奴だな。まあいい、おそくなったけど晩ご飯にありつくとしますか。兄さん、コタロウお疲れ様」

 妙にそわそわしている長男と末弟に首をかしげながら、ナツは弁当でパンパンになっているビニール袋に手をかけた。

「あ!」

「あ?……ん? あ」

 その瞬間、長男の口から短い声が漏れる。その声と、手に持つビニール袋の違和感に気付いて中をのぞき込んだナツが、同じ言葉を発した。

「どうしたナツ?……あ」

 ビニール袋の中をのぞき込んで固まる三男を不思議に思い、ハジメもビニール袋の中をのぞき込み、そして同じように固まってしまった。シンイチとエイスは固まった兄達を見て互いに顔を見合わせ、コタロウは変わらずオロオロし、長男はまるで祈りを捧げるように頭の上で手を組んでいた。

 ビニール袋の中身。そこには、ハジメが頼んだハヤシライスも、シンイチのノリ弁当も入っていなかった。代わりに、コーンフレークの箱が三つ並んでビニール袋を四角く膨らませていた。

「……兄さん、これは」

「い、いやその、それはだな」

「言い訳は結構。なんでこうなったのかだけ教えて下さい」

「……はい」

 一番歳の近い弟に問い詰められ、超光家の長男は観念したようにその場に正座になった。その姿には、長男たる威厳もクソもない。

「いやな、最初はちゃんとみんなの分のお弁当をカゴに入れたんだ。でも、ほらあそこのスーパーって七時半から惣菜とお弁当を半額にするだろ? それで余ったお金でアイスでも買って帰ろうと思って、カゴのお弁当を棚に戻して、それで……」

「近所の学生や奥様方との取り合いになって、惨敗した……ですね」

「な、なんでわかった!?」

「何でって、あのスーパーの近くにはうちの大学の寮がありますからね。あの時間帯は食料戦争になる事で有名じゃないですか。七時半以降のあのスーパーは異次元ですよ」

「うん……それでなんとかお弁当を取り返そうとしたんだけど、全部学生やら奥様方やらに持ってかれて、惣菜も残ってなくて……オマケにもみくちゃにされたときお金も落としちゃって千円しか残ってなくて……」

「それで、唯一買えたのがコレ……と」

「……はい。携帯も財布も家に置いてたから連絡も取れず……スマンかった」

 言い切ると、長男は次男にぺこりと頭を下げた。それに合わせて、末弟コタロウも頭を下げる。その幼い瞳で、もみくちゃにされる兄の姿を見てきたせいか、どうか長男を許してやって欲しいという想いがその瞳の輝きに込められていた。

 それを見て、ハジメとナツは互いに顔を見合わせて、諦めるようなため息と苦笑を浮かべた。

「ハァ。まったく、今度そんな事があったら帰ってくるなりして相談して下さいね。幸い牛乳はありますから、早く晩ご飯にしましょう」

「そうだね。でもこれだけじゃ足りないから、やっぱりラーメンも作ろうよ。俺が作るからさ」

「お、弟たちよ……!」

 二男と三男の優しさに心打たれ、長男は感激のあまりその目に涙を浮かべた。結果はさんざんだが、長男は長男なりに弟たちのために頑張ったのだ。口にこそしないが、ハジメもナツもその事をちゃんと理解していた。

 その夜、超光家の遅めの夕餉はなんとも珍妙な組み合わせとなった。諦めて黙ってラーメンを啜る二男と三男、兄の不甲斐なさに文句を言いながら2杯目のラーメンを作りにキッチンに向かう四男と五男、そして申し訳なさそうに細々とコーンフレークを食べる長男。そんな兄達をよそに、黙々とコーンフレークを書き込む六男。

 こうして、超光家の夜は更けていった。

 読んでくださった方、本当にありがとうございました。

お気づきの方はもうお気づきでしょうが、この6兄弟にはそれぞれモデルがいます。僕が心から愛し、尊敬する人達?です。

 分かった人、あなたと私はきっと仲良くなれます。


 では、また次の後書きで。

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