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君が居た日々  作者: 紗羅
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【雨が降り注ぐ日】

 君が居た日々は、永遠を感じることが出来た時。

 太陽の様に、明るく笑う君が……大好きだった。

 君と居れば居るほど、永遠を感じることが出来た。私は此処に居ていいんだと、感じることが出来た。

 ――でも……救われて居たのは、私だけだったんだね。



「過去は永遠だよ」

 賢そうに黒ぶちの眼鏡を中指で押し上げながら、君に似た彼は冷たく言い放つ。

 私は、項垂れながら黙って窓を見つめる。

「いい加減に、周りを見ろよ。……あの日のまま、止まっているのはお前だけだぞ」

 彼はそう言って、黙って私を見つめていた。

「そんな事、言わないで。……潤に似た、顔で……忘れろなんて言わないでよ!」

 私はそう叫んでしまって、ハッとした。梁の顔が、少し曇ったのが分かったから。

「ごめん」

 俯いて、私は呟くように謝った私を見て、梁は「別に良いよ」と言って立ち上がり、窓を開けながら溜息を付く。

「忘れろなんて、言ってない。でも……そのまま止まってても、何も始まらないって言ってるだけ」

 ――そんな事、分かってる。……でも、納得出来ないんだ。


 どうして、潤は私に何の相談もなしに自殺してしまったんだろう? 

 あの時の私達は、何でも分かり合えていた。……はずだった。


 君が居なくなった現在を、私は生きていきます。

 ――冷たい涙を、頬に伝わせながら。






 冷たい雨が、窓ガラスを濡らす。湿った空気に包まれている部屋に入り、私はいつものソファーに座る。

 窓の外は、ザーザーと我が物顔で容赦なく降り続いている雨。面倒臭そうに傘を差して、早足で歩いている人が目に映った。

 大学は休みだから……今日は、のんびりと過ごすことが出来る。


『今日は、恵みの雨の日だな』

 潤がもしこの世に生きているとしたら、そう言って笑っているだろうな、と考える。

 水蒸気の固まりに過ぎない雨を、潤は『恵みの雨』と言って愛していた。


 まだ、潤の温もりが残っている部屋を見回して……私は溜息を付く。

 ――どうして、潤は……死んでしまったの?

 

 みんなは、潤が死んでしまったことを受け止めて現在を生きているというのに。

 突然、電話が鳴った。

「はい」

『あー、俺。今、家に向かってるから』

 それだけを言って、電話が切れた。しばらくすると、チャイムが鳴った。

 ドアを開けると、びしょ濡れの梁が入ってきた。

 梁は潤の一つ下の弟で、潤に似た顔立ちの十九の少年だ。

「何で、そんなに濡れてるの?」

 玄関でコンビニのビニール袋を手に提げて、彼は呟く。

「お天気のお姉さん、雨降らないって言った」

 それだけを言って、タオルを取りに浴室へ彼は向かった。


「タオルと、風呂……借りた」

 それだけを言って、自分の家の様に寛いでいる彼を見る。

「何しに来たの?」

「――あぁ! そう」

 コンビニ袋をあさりだして、彼は「土産」と呟いてまた……寝転ぶ。

「何がしたいの?」

「別に」

 テレビをみて、寛いでいる彼の頭をリモコンでコツンと叩く。

「眼鏡じゃなくなったんだね」

「――眼鏡じゃない方が、兄貴に似てるだろ?」

 潤の話題を出された瞬間、私は全身が凍りつくのが分かった。

「どうして、潤に似てるって言うの? どうして、似ようとするの?」

 涙腺が緩んでくるのが、分かった。

「好きだから。鈴が好きだから」

 ――そんなことを言わないで。……お願いだから。

 私は、梁と目をあわさないようにテレビに目をやったまま……冷静を装う。

「愛してる。兄貴よりも、絶対に幸せにするから」

 彼は私を抱きしめる。私を抱きしめている、手は少し震えていた。

 ――潤に似た声で、潤に似た顔で……そんな事、言わないで。

「重ねてみない自信が無い」

 梁の腕を振り払う力は、私には残っていない。……私は、酷いことを言う。

「…………それでも、いいよ。最後に、俺のことを見てくれれば。……今、コンタクトじゃない。眼鏡だったけど、落としたら割れたから、視界が悪い」

 彼の腕から伝わる、温もりが……私の涙腺を緩ませていく。

「俺が、お前を支えるから」


 愛する恋人を失って、二年……。私は、新しい恋をしてもいいのでしょうか?


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