3話 ウィクトルナンバー
~ミティオライト高校1A教室~
5月の上旬である今、1年の生徒たちは5月中旬にある小テストへ向けて、勉強一杯なのであった。
でも能力者である生徒たちは、テストを受ける必要はないし、毎朝出席だけしておけば進学などには全く影響がないのだ。
この物語の主人公バレットも、先週能力を発現したおかげでテスト地獄から開放された……かのように思われたが。
母に上記の説明をしたところ「勉強してないと将来大変になるでしょ、そんな家事の役にも立たない能力だとかに甘えちゃダメよ」と叱られた。
余計なことに「火だから、火事にはできるね……ははは」と返したところ、容赦なく殴られたので、真面目に勉強する道を貫くことにしたのである。
バレット「あれ、こんな難しいの習ったっけ……?
え? なにこの単語、読み方わかんないぞ? 習った?」
休み時間である今も健気に勉強に励むバレットであったが、最近の授業は酷く難しく感じる。
度々ある授業中の快眠が原因だと踏んだが、あまり考えると頭痛が痛くなるのでやめておいた。
「習いましたよ、教えてあげましょうか?」
そんな親切な声をかけてくれたのは、黒髪で大きな瞳の女の子だ。
彼女はバレットの中学からの友人であり、勉強に関しては幾度もお世話になっている。
バレット「おぉ! これは良いところに来た! キョシ先生!」
キョシ「先生じゃないですよ!? 歳一緒でしょ!
もう、ちょっと見せてくださいよ……ってこの範囲、一昨日習ったばっかりじゃ……」
バレット「え、でも覚えがないぞ……」
どうせ授業中居眠りしてたからでしょ! とつっこみたかったがキョシは堪えつつ、バレットの言う難解な範囲の解き方を
親切丁寧に解説してくれた、彼女は教師の素質がある、絶対ある、バレットはそう思った。
なんてことを考えていると、キョシが少しだけ顔を険しくして話を振った。
キョシ「ところでエリスさんは、大丈夫ですか……?」
エリスが入院してることを心配しているようだ。
バレットとデフラグが対決したあの日、それはつい先週の出来事なのだ、エリスは今も入院し心と体の傷を癒している……。
そして体の傷より心の傷が幾倍も大きく、今現在は家族以外と会う事を断固拒否している。
バレット「多分大丈夫だろ、エリスはなんだかんだ言って強い奴だしな」
キョシ「今度エリスさんが楽になったときに、二人でお見舞いに行きましょうか!」
バレット「おう! そうするか!」
そんなにこやかに話してる中、バレットに向かって話しかけてくる数人の男子生徒が来た。
制服の刺繍の色が違う、どうやら上級生みたいだ。
「おぉ、お前バレットだろ? あのデフラグを倒したんだってな!」
「すげぇなおい、どんな能力使ったんだよ?」
少しガラの悪い風貌の3人はどうやら、バレットがあの【勝者録】の第一位、デフラグ・ブルーバックを殴り倒したとの噂を聞いてやってきたようだ。
バレット「いや、大したこと無いっすよ」
「そういや、なんで一位を倒したっていうのに、お前【勝者録】にランク入りしねーの?」
「もったいねーよ、こちとらあの暴君気取りのデフラグが一位ヅラして学校歩いてんのは気にくわねーんだ」
バレット「興味ないんで断りました、めんどくさそうだし」
……どうやらデフラグをよく思っていない人間も居るようだ。
そして【勝者録】に入ることをランク入り、と言うらしい。
ランク入りに関しては先週の戦いの後、教師にも言われていた、デフラグを倒したからいきなり一位になれるけどどうする? 的な質問をされたのだ。
だがめんどくさそうだし断っておいた、よく考えるとカースト争い的なものに参入したら、毎日殺伐とした日常を過ごすことになるかもしれない。
「お前、せっかく能力があんのに役立てねぇでどうすんだよ!」
キョシ「……ま、まぁバレットさんが興味ないっていうならそれまでですよ」
「……デフラグが一位じゃ相性が悪いんだよなぁ」
バレット「ん? なんか言いました?」
「あいや、なんでもねえや、まあいいかそろそろ授業始まるし行こうぜ!」
ガラの悪い3人組の1人がなにかポツリと言ったのが気になったが、そそくさと三人とも帰っていった。
少しの間気まずい空気になったが、キョシがまた話を振る
キョシ「でも最近変わりましたよね、バレットさん」
バレット「え? そうか?」
キョシ「覚えてます? 私が中3のとき、不良さん達に絡まれて泣いちゃったことあるじゃないですか
あの後すぐに事を説明したら、バレットさんすっごい怒って不良さん達追いかけて全員私の前で謝らせてくれたじゃないですか」
笑い混じりに話すキョシに釣られ、バレットもあーあったなそういえばと懐かしんでついほくそえんだ。
キョシ「エリスさんを虐めたのって、デフラグ……とかいう人なんですよね
私てっきり、先週の件もめちゃくちゃ怒ってるかと不安でしたよ」
バレット「まぁ許せないけどな、今はエリスが元気になるのが先決だし
今度そのデフラグとかいう奴にも謝らせるわ」
キョシ「そうですね」
相変わらずなセリフを言うバレットに安心しつつ微笑む。
そんな休み時間もチャイムの音とともに終わりを告げ、また授業が始まった。
そして時は淡々と過ぎ放課後になった。
バレットは今日帰りに寄るところがある、エリスの病院である。
多分今日も会うことも話すことも出来ないが、微かな期待を持ち足を運ぶことを考えた。
バレット「しっかしここらへんは人通り少なくてちょっと怖いな……」
病院への近道であるこの道は、街灯も商店も少ない狭い道なのである。
幽霊とか怨霊だとかいう類いのものに酷く弱いバレットは、若干身震いをしながら足早に歩いていった。
そんな彼の背後から何かが走ってくる、エンジンの音……バイクか? と思いバレットが振り返った瞬間、持っていた鞄を取られた。
なんと引ったくりである、相手はヘルメットをしていて顔は見えないし、何しろ相手がバイクじゃ追いつけない。
バレット「ばっ……お前こら泥棒! っていうか、引ったくり!」
慌てて追いかけるがとても追いつかない、するとバイクの前方に居た人間がこちらの事情に気づいたのか、引ったくりバイクの前に立ち塞がった。
「邪魔だクソガキぃ! 死にてーのか!」
引ったくりの口汚い威嚇にビクともせず柔道のような構えでバイクの前から動かない。
バイクは減速すらしないまま彼にぶつかった、轟音が鳴るがバイクを受け止めた彼はびくともしていない。
どころか、バイクは音を立ててまるで押しつぶされるかのように壊れていった。
そして裏拳で引ったくりの頭部を殴り吹っ飛ばし、落ちた鞄を拾った、バレットはしばし呆気に取られていたがすぐに彼へと駆け寄った。
バレット「あ、ありがとう、助かった……ってその制服、俺と同じ……」
「おう! ケガは無いか? 取り返したぞ!」
バレットは彼の制服を見てハッとした、彼は先輩だった、一瞬タメ口で喋ってしまった。
バレット「どうも……俺はバレットって言います、名前はなんですか?」
「俺か? 俺はランテ、ランテ・ビオジネスだ、この道は危ないから今度から通るなよ!」
彼はランテというらしい、体格の良い男子生徒だ、正義感溢れる彼にバレットは若干惹かれた。
バレット「ところで、今のは能力を使ったんですか」
ランテ「あぁそうだ、俺の重力操作能力を使ったんだ
ところでバレット、この道を歩いてるってことは病院に用があるのか?」
バレット「あ、はい友達が入院してて……会えるかは分からないですけど」
ランテ「……そうか、俺も妹が入院してるんだ、誰にやられたかは分からんが脚をケガしてな
これから一緒に行かないか?」
目的地が二人とも同じというのもあって、一緒に行くことにした。
病院に着くと、車椅子の可愛い女の子がランテに向かってきた。
ランテ「ユキホー! お兄ちゃん来たぞぉぉぉお!」
ユキホ「お兄ちゃぁぁぁあああん!」
微笑ましくて熱い兄妹だ、バレットにも笑みが浮かぶ、2人の邪魔をしちゃ悪いというわけで適当に別れを告げて、とりあえずエリスに会いに行く事にした。
……まあ分かっていたことだが、今日も会えなかった。
お見舞いの品だけ看護婦さんに渡して、今日はもう家に帰り、すぐ寝た。
~翌日・朝~
バレット「ん? 着信?」
朝起きて、ふと鞄から取り出した携帯を見ると、着信が4件も入っていた。
昨日あのとき、引ったくりが鞄を落とした拍子に、携帯がマナーモードになっており気が付かなかったのだ。
バレット「全部非通知かよ、一体誰だ?」
その番号にかけ直す、するとすぐに相手は電話に出た。
「……けて……バレット……」
聞き覚えのある声……いや、昨日も聞いた声
これはキョシの声だ、だが様子がおかしい、声が震えている。
バレット「おい! キョシか? なんかあったのか!?」
キョシ「助けてください……バレットさん……私今……」
「おぉっとここまでぇ! ようバレット、おはようさぁん」
バレット「誰だお前! キョシになんかしたのか!」
相手はボイスチェンジャーかなにかで声質を変えている、とりあえずキョシが今普通ではない状況に居るのが分かった。
声を張り上げ必死にキョシに呼びかけるも、今電話を握っているのは謎の人物だ。
「今てめーの彼女を誘拐しました、返して欲しかったら【勝者録】の一位に成り上がってくれやさっさとよぉ
はやくしねーとデフラグの馬鹿がまた復帰する流れになるんだよ、早くしろや」
バレット「なんで今【勝者録】の話が出てくるんだ? お前まさか昨日の……あれ? おい!」
電話はもう切れていた、バレットはすぐに学校に向かう。
昨日のガラの悪い3人組、あいつらが怪しいと踏んだバレットであったが、下手に動くとキョシの身が危ない。
いまは素直に奴の指示に従うしかない【勝者録】に一位としてランク入りさせて貰うため為、能力に関しての情報処理や管理をしている教師の居る生徒会室に向かう。
息を切らしてたどり着くと、教師の他に生徒が立っていた、髪を銀に染めているので指導でもされてるのか? と顔をのぞくと、奴だった。
デフラグ・ブルーバックであった、バレットを見て一瞬驚いてはいたがすぐにニヤリと笑い……
その瞬間、バレットの時間が一瞬止まった。