1話 ウィクトルナンバー
※更に、訂正しました
登場人物の名前などを和名に変更しました。
ありがちな”能力バトル学園モノ”という題材で書いてみました
小説を書き始めて日も浅いので厳しい意見やご感想など大歓迎です
この世界はここ数年でガラリと変わった、何故か
簡単に説明すると、特殊能力というものが人間の体に宿るようになったからだ
要は、怪光線や電撃を撃ち放ったり、高速移動やテレポートをできたり
そういう人間が世界各地で増えているみたいで、世界的に知れ渡っている
能力を持つ人間は”新たなる新人類”として称えられる存在であり
一般人よりもランクの高い待遇を受けられるようだ
そしてこの物語は、そんな世界の中で起こる、能力者達による戦いのお話である
~流星天高等学校~
時は4月の中旬、今はお昼休みだ
生徒たちは入学式も終え新しい校舎、学級にも多少は慣れを覚えつつある頃だろう
そんな中、休み時間を無意義に机に突っ伏して過ごしている、逆立った髪型の男子生徒が1人
名を桐山修司
「はぁ……こりゃあもう終わったな……終わりきってるわ……」
彼は机に散乱したプリントや教科書に眠そうな視線を送りながらため息をつく
そのプリント達は解答欄が驚くほど真っ白だ、彼は勉強が出来ないのであろう
そんな修司に嬉しそうに近づく女の子が1人、金髪の長髪をなびかせている元気な女の子だ
彼女の名は兎凪矢炒
修司とは幼馴染であり、幼稚園からの長い長い付き合いだ
「こらぁ修司! お昼休みなんだから外行こ! 外!」
「そんな時間は無ぇよ、見ろよこの課題の数」
「ただの宿題じゃん!家でやればいいんじゃないの?」
「今日中、課題50ページ近くあるんだぞ、頭痛くなってきた……」
「えぇ……ん、でもそもそも修司が授業サボったり、居眠りしたりするせいじゃないの?
ほらほら!頑張れば間に合うよ! がんばってほら!」
「頑張る気力すら沸かねーよ、良いよなぁ矢炒みたいな能力者は
宿題はおろか、授業すらサボっても単位やら進学には全く無問題」
どうやら、この高校では能力者は優遇されているらしい
別にこの高校に限ったことではないが、ここ流星天高校は、能力者に関する研究や実験などがトップクラスに進んでいるのだ
能力者の収容数も、全世界トップクラスの90人越えだそうだ
彼女も能力者であるようであり、優遇されているのだ、そんな彼女が妬ましいのか修司は冷たい目線を送る
「失礼な!! 私はちゃんと勉強してるよぉ!」
「今日は午前の授業、オールサボりだったじゃねーか!」
その言葉に苦笑いした矢炒、修司の言うとおりサボったのだろう、だがすぐににやりとして、自慢気な表情に変わった
「ふふん♪ 今日はこの高校の【勝者録】の第4位を負かしてやったんだよ!」
「【勝者録】? なんだよそれ?」
「この高校には30人以上の能力者が居るの、そしてその中で最も強い6人が【勝者録】と呼ばれてるんだよ
んで、まあ私がさっき4位に勝ったから、今は私が3位! すごいでしょ! ベストスリーだよ!」
「ふーん……」
能力を持っていない修司にとっては、能力者の話題とかは心底どうでもいいという感じなのだろう
というか、そんなスクールカーストのようなものを学校が設定しているなんて今初めて知った
生徒を才能だかなんだかでランク付けするとは、まるで漫画のようである
「という訳で、私はこれから第1位をぶっ飛ばしてきます!」
そう言うと矢炒はくるっと一回転して、教室の出口に駆けていった
修司は右手を頬に当て、けだるそうに矢炒を見つめる
「あ! 私が第1位に大勝利して、高校最強ベストワンになった暁には!
ご飯を奢ってあげるから! だからこの教室で首を長くして待っててね!」
「あぁ、忘れてなければなー」
力なく手を振る修司に満面の笑みを向け、足早に教室から立ち去る矢炒
そして修司は先ほどから言おうとしていたが我慢してたことが自然と口から漏れた
「ていうか……お前今4位だろ……まぁいいけど」
ちょっと頭の弱い子なのだろう、矢炒という子は
~放課後 体育館裏~
「ちゃんと果たし状は読んでくれたみたいね! 第1位、湯川青後さん?」
「はア……時代劇の見すぎじゃねぇのか?」
矢炒が今対峙している、銀髪に黒い服の男こそ、勝者録の第1位である
名を 湯川青後
「靴箱に女の子からの手紙なんて、ちょっとドキッとしたんじゃないの? 第1位さん?」
「つか……煽ってんのか? とりまお前は今決闘挑んでんだから
お構いなく潰していいって解釈でいいのかー?」
「ふふっ、第4位ですらあんなヌルイ高校のベストワンなんて、底が知れてると思うけど?」
「4位? 4位……あー、なんだっけなぁ……アクアパラソルだか、ライオディアスだったか、どんな能力者だっけか
ま、どうでもいいか今は」
「私もどんな能力者か忘れちゃった、弱すぎて
あなたの能力も覚えてられるか怪しいなぁ?」
第4位が可哀相でしかたないが、それほど薄い能力者だったのだろう……
いや、この二名があまりにも強すぎるという可能性も十分にあるのだが
「てかよぉ……お前ガチで頭悪ぃなぁ、知ってるかぁ? この高校のベスト3のメンバーは二年間ずっと不動なんだぜ?
第4位以下なんざ周一ペースで入れ代わってんだよ……
もう分かるよなァ? 4位以下と3位以上じゃあ……圧倒的な実力の大差があるんだよ……クヒヒヒ」
まるで悪魔のような笑いを浮かべる湯川に若干であるが恐怖を覚えた矢炒
だがそれ以上に矢炒は自分が一番強いという自信を持っていた、強張った表情はすぐにいつもの自信満々なしたり顔に変わった
「ずいぶん喋る口数の多い1位さんね、4位を軽く捻られて焦ってるとかじゃ、ないよね?」
「あ? クヒッいいねぇその無意味に溢れる自信、良いよ良いね全然オッケー
つか、そのプライド……ズタズタにしてやりたいわぁ……じゃあそろそろ開戦ってことでぇ」
すると湯川は片足を上げ、何かをしようとした、足元には大きめの石
が、それと同時に、いやそれよりも早く矢炒は片腕を前に出し、そこから閃光弾のようなものを撃ちはなった
「開戦の合図だったらしてあげるわよ! 私の弾丸でね!」
これは彼女の、大気中の空気を圧縮して利用できる能力、名を 本命空気
空気を圧縮し、高密度の弾丸を放ったのだ、丸腰の人間が当たればひとたまりもない
コンクリートさえ軽く砕く鋼鉄レベルの巨大弾丸なのだ
だが、確実に湯川へと向かっていったはずの弾丸は、右に大きく反れ、近くにあった花壇をぶち壊した
これは今対峙している湯川の力だと認識した矢炒は
「やるじゃない! これならどう!?」
間髪入れずに矢炒は先ほどと同じ要領で、今度は細かい弾丸を百発ほど放射状に撃ち放つ
攻撃を反らされるなど今まで戦ってきた念力や質料操作の能力者で慣れっこだ
そして、あらゆる方向から攻撃されれば、並みの能力者は隙を突かれ喰らってしまうはずだ
「クヒヒヒ……」
信じられないことだが、まるで全ての弾丸が湯川を恐れるようにそれぞれがバラバラに反れていった
鳴り響く爆発音…地面や壁、近くにあった倉庫などはボコボコになったが
湯川は傷ひとつ付いていない
「なっ……!?」
「さぁ~て……俺は一体何をしたのかなァ?
答えは自分の身で見い出せっつーの!」
湯川は足元の石を踏み砕いた、その瞬間矢炒に激痛が走った
腹部に先程の石の破片が全て刺さっていた、そう、全てだ
矢炒と湯川の距離は15メートルはある、まぐれで破片が全部こっちに飛んできた……とは考えにくい
考えられるのは、これは……彼の能力、だということ
「念動……力……?」
血が滲む腹部を押さえながら相手の能力の本質を見極めようと試みる
まず考え付くのは念動力、それならば攻撃を反らしたりするのも説明がつく
だが、そうだとしたら彼の操作制度はハンパではないという事になる
嫌でも実力差というやつが体に染み渡り離れない、矢炒はここで悟った
今対峙しているあの男は、自分よりもはるかに強いということを……
「クヒヒヒ……つか、ちょっと違うなぁ
つか全方位から攻撃を弾くなんて念動力じゃ到底無理だっつうの
強いて言うならベクトル……いや、なんでもねぇや、ただでさえキャラ被ってんのにな」
すると湯川は突然矢炒の目の前まで迫ってきた
「ひっ……!」
「まぁ細けぇこたぁいいんだよ、今は俺が勝って、お前が負ける
簡単なことじゃねぇか、理解しろよ」
驚く矢炒の表情を見て一層笑顔を濃くした湯川は
矢炒の腕を掴み上げた、眺めるような目つきでエリス睨み尽くし……
「クヒヒヒやべぇマジで細い腕ぇ、やべーよ
とりまぁ、無謀な勝負にあっさり負けた敗者にはどんなご褒美をあげようかなぁ?」
「や……やめ……ッ」
~1A教室~
「はぁ……もう課題は無理そうだな、諦めよう」
積もりに積もった課題宿題を絶望的な表情で見つめ肩を落とす修司
”あの2人”が戦っている間、この男修司が見出した結論、それは「もう課題は無理」ということだったのだ
ふと外野の雑談が聞こえてきた
「おい聞いたかよ、能力者同士が体育館裏でバトってたってよぉ」
「おう、ビックリしたぜ……しかも片方は高校最強だとよ……」
「どうやら不動のまま相手を打ち負かしたとの事らしいですよ
今頃第1位にいたぶられてるんじゃないですかね」
「第1位って矢炒が挑んだ相手じゃ……まさかな」
すこしばかり心配になったので席を立ち、例の体育館裏とやらに行ってみる事にした
おぼつかない足取りで「勉強どうしよう」「腹減ったな」などとブツブツ言いつつ歩いていると体育館裏に着いた
とりあえず人が2人居るのが見えた、矢炒が血を流して倒れているのと……銀髪の黒服男子
「何してんだよ」
気付くと口が開きそう言っていた、無意識のうちにそう喋っていたのだ
「何って……とりま、ご褒美タイムってところかなぁ?」
「何やってくれてんだ、お前……!!」
気付くと拳を握り奴を睨み付けていた
矢炒は修司の幼なじみであり、いつもにこやかに振る舞って
それが今、苦悶の表情で地に伏せている、その状況が許せないのだろう
自分の親しい友人が苦しんでいる、それを笑うものが居る、そして修司に宿る気持ちは当然といえば当然であるが”怒り”
修司の身に、ふつふつと、”怒り”が宿っていた
「つか、お前はどうゆう能力で俺を全然楽しませてくれんのかなぁ?」
「無ぇよ! 能力なんて! 矢炒から離れろ!」
「は?」
「能力とか、むしろ欲しいくらいだ!」
「ブフッ……なんだよそりゃぁ、クク、アホかマジで
とりま、マジにひ弱な虫一匹がぁ……恐ろしい恐ろしい鷹に頭摘ままれにきたって事でいいんだよなぁ」
「うるせぇ! 矢炒を苦しめる奴は俺が許さない!」
さきほどまで、テンションの低い感情があまり見られなかっただるそうな青年だったのに
熱い、今は最高に熱いのだ、彼は友の為に熱くなれるそんな青年なのだ
この物語が始まって、主人公が最初に出した感情それは、仲間を想ってこその、強い”怒り”であった