表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

1

 寝静まった夜の闇を駆ける。

 遠い月を背に、心地良い夜風を裂く。上がる悲鳴を後ろに聞き、空を縦横無尽に跳ぶ。

 ストーンハンターとしてコンビを組んでからこの四年半。俺様とリタルはこの夜を日課にしていた。


「ンで? ブツはそろそろか?」

「ええ! 三件目のドデカイ建物! お城みたいな屋根よ。反応はそこから!」


 振り向かずに声だけを投げれば、背後でいつもの甲高い音が響く。


「お城みたい、ねぇ……」


 連なっている民家の屋根を二つ踏み越えて、果たしてソレは目下に現れた。

 ……確かに、お城みたいな家だ。

 ただし、佇まいが想像とはまるで違う。お城なんて言われたものだから、俺様は迷わず白い外壁にツンと尖った高い尖塔。延々と続く城壁に……なんてものを想像したのだが、考えてみればプリムス国は他国と比べると非情にこじんまりとした島国である。いくら中央都市とはいえ、そんな狭い街の一角にそんだけ目立つ城があれば、約二年間このグノーシス市に住んで街中を飛び交っている俺様の記憶に無いはずが無い。それは想像よりも遥かにこじんまりとした、あっちの国によく見られる……確か、瓦といったか……を使用した、古い東洋風の家屋だった。


「……リタル。これのどこが城だ。立派に民間住宅だ。東洋風ってのはまぁ変わってはいるが」


 ジト目で背後を振り返る。そういえば今日は満月だった。月明かりに照らされたリタルの大きなエメラルドが普段よりも明るくはっきり見えた。

 黄緑色の髪を赤いリボンで左右に束ね、白いポンチョを着た相棒の少女は、容姿こそ可愛らしい部類に針が触れるが、誰に似たか負けん気が強く、大層な意地っ張り娘だ。

 今も腰に手を当てて、小生意気という言葉を具現化したような表情で俺様を見上げている。


「城よ。前に図書室で見た東国の『~城』ってのにそっくりだもの。こんな屋根――確か瓦と言うんだっけ? いままであたし、写真でしか見たこと無いわよ」

「さすがに自称天才は知ってたか。ま、確かにこの辺じゃ際立ってるわな。個人宅にしちゃでかいし。東洋から来た奴か……東洋好きが災いしたか」

「ね。コレクターって事は確かでしょう。コレクターイコールオカネモチ。お金持ちが住んでいる結滞な家だから、『城』」

「なんだその無理やりな理屈は」

「いいでしょ、第三者なんだからどう考えようと。周りに色々思われるのが嫌ならハナからこんなもん建てなきゃいいのよ。

 ンじゃ、今夜もさくさくっと終わらせるわよ」

「……今日はまた一段と荒れてンよなぁ」

「宿題。あったの忘れてたのよ」

「ンなもん。明日ダチにでも見せてもらえばいいだろ?」

「ダメよ! あたし今のガッコじゃ『病弱な優等生』で通ってるんだから!」

「…………びょーじゃく。ゆーとーせい。……どこに居るって?」

「ったくもぉ、からかわないで! いくわよ」

「へいへい」


 瓦の屋根に降り立つ。予想以上にガタガタと音がして、リタルと一緒に身を硬くする。数秒、その場で静止。

 ……気配は無い。大丈夫なようだ。


「どの辺だ?」


 溜息を吐きながら立ち上がる。


「ちょい待ち。えっと」


 リタルはレーダーを見つつ、トントンとリズミカルに瓦の上を歩いてゆく。

 やがて、一点で静止したリタルは俺様を振り返った。


「……ここ。この下」

「上等。ンーじゃビョウジャクユートーセー殿のお望み通り、サクサクっと終わらせてやっか」

「からかわないでったら」


 顔を赤くして抗議するリタルを無視して禁術封石『死球』を装着している左手を翳す。意識を集中。黒い光の球が掌に宿る。

 発動。

 音もなく、瓦の屋根が消失し円状の穴が開いたのを見届けると、懐から探索メカを取り出す。マウスのような形のコイツはリタルがこのあいだ造り上げた新作だ。その名も……、


「初陣よ、ネズっちゃん。張り切っていってらっしゃい」


 ……そうそう、ネズッチャン。背後から響く声に思わずげんなりする。

 って、コイツの造る機械はともかく、ネーミングセンスにはどうもついていけないものがある。

 そういえば師匠も。褒められたセンスしてなかったっけか……。


「ンじゃ気を取り直して……」


 ネズッちゃんに付いている大きな右目を押す。と、右目が緑色に光り、眼下の畳を照らした。総てを見通す魔石『魔眼』の魔力だ。一通り辺りを照らすが……反応はない。ネズッちゃんを放した。どういう仕掛けなんだか、うまくバランスを取りネズッちゃんは危なげなく畳に静かに着地する。と同時に、魔石ブツの魔力を辿って右目を光らせながらそれこそ鼠の如き素早い動きで移動を始めた。


「――行くぞ」

「ええ」


 短い返事を耳にし、俺様等も場に踏み込んだ。なにやらホコリっぽい、独特の匂いが鼻腔を擽った。




『……ここ、は……』

『……見覚えがある。ここって初めてグレープと会った場所よ。あたしたち、本当に過去に来たんだわ』

(だーから言ってンじゃないの! アンタ達は今『魔界の巨石』の内部。記録している過去に潜ってもらってるんだって)

『んーなこと言ったってよ。つか、なんで俺様等、半透明なんだ?』

『クレープみたいな……』

(厳密に言うと違う。

 アンタ達は今、アタシの本体の中に居るの。精神のみの状態だから、前のアタシの状態とも違うワケ)

『?』

(いいから、さっさとグレープに会って来てよ。始まンないじゃないの)

『てか。ここって「魔界の巨石」の中なんだろ? 今はグレープの身体になってるっつう。

 グレープと直で話せないのかよ?』

(無理ね。てか、それが出来たら苦労しないわよ。アンタ等を送り込む前にアタシがやってる)

『そりゃそうか』

(グレープに直接思念を送り込む――グレープの心魂に干渉しようとしたら何らかの魔力によって阻まれるの。……多分トピアが妨害してるっぽい。

 それにアンタ達は今、精神体。しかも過去という記録の中に居る。

 幾らソコがグレープの身体の中だって言ったって、あのコの心魂に直結しいる訳じゃない。残念ながら、そこからの意思疎通は叶わないわ……尤もあのコの方は解らない。感知してくれるかもしれないけど……)

『定かじゃない。こっちからコンタクトはとれないってか』

(そう)

『……って、こんな所で本当にグレープちゃんに!?』

『続き見れば解るわよ。あたしたちも行くわよ』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ