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むかしむかしのそのまたむかし。
フロースの民を創造した神様は、民同士の争いを避ける為に、自身を三つに分ける事で、一つの空間を三つに分離させました。
その際神様は、二つの自身にそれぞれ別の精神を与えました。
なぜならば、神様は元々、ただの人間だったから。
積み重ねた年月の果てに意志が廃れ、自身が暴走するような事態が起こった時、二人の自分が、それを防ぐ盾になると考えたからです。
冷徹なまでに正義を貫く人格と。
純真無垢で子供のような人格。
そして、彼女達に精神を植え付けた、主人格。
神様であった三人は、フロースの元となったゲンマという星の民の魔力の結晶である巨石から、それぞれ対応する力を引き出す事の出来る、フロースの監視者となりました。
天界の石神は未来を見通し、具現する存在に。
魔界の石神はあらゆるものを記し、具現する存在に。
人界の石神は想いを力とし、具現する存在に。
こうして、それぞれの空間に移り住む際、管理者達は原則として、個人的な願いを持たない事を互いに約束しあいました。
神様の故郷であるゲンマの民は、自身の命をもって、一生に一度だけ大魔法が使えます。
当然、神様も例外ではありません。
分離した三人が合わさり一つの巨石に戻る時。神様は本来の力を取り戻すと同時に、自身の命をもって願いを一つだけ叶える事が出来るようになるのです。
もしも管理者達の内、一人でも個人的な願いを抱いてしまったなら。巨石ではなく、神様自身が持っている魔力が願いに反応して、それを叶えてしまったなら――
監視者全員の死を招いてしまいかねません。
使命を捨てて暴走し、個人的な願いを成就させようとしたその時こそが崩壊の刻だと、管理者達は考えたのです。
こうして、幾千年の時を経た現在。
三人は三人とも、恐れていた最大の禁忌を犯してしまいました。
これこそが、神様が視えなかった未来――
フロース崩壊の、軌跡でした。