表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

*

挿絵(By みてみん)

「たすけてくれてありがとう」


 闇に向かってたどたどしい言葉を紡ぐ少女。

 少女の思考から言語を識った『無』は言う。


「ここはあぶない はやくもとのせかいにかえれ」

「どうやったらかえれるの?」

「あっちだ」

「……あっちて、どっち?」


 『歪』と呼ばれるこの闇の世界には、目印となるような……如何なる物質も存在しない。

 出口を指し示すために、何か形が必要だった。『無』は少女の思考から人間の形をとる。

 少女の前に、少女と背丈の同じ人影が現れた。

 真っ黒な人間。

 否、それは人間を模った『無』だ。


「どうしてまっくろなの?」

「ほんらい おれにかたちはない このかたちはおまえがあたえたものにすぎない」

「かたちがない?」

「そうだ おまえにあわせてせかいがうごいたんだ」

「へんなの」

「へんなのは おまえだ」


 言うと、『無』は歩き出した。少女もその後を追う。


「おまえは『石神』だろう」

「『石神』? なにそれ」

「おまえをさす『な』だ」

「わたしのなまえは とぴあっていうの」

「とぴあ?」

「でも、とぴあは3にんいるから。わたしは、とぴあだけど、ぐれーぷってよばれてるの」

「……ぐれーぷ。『グレープ』。『軍神の片割れ』。『慈悲と自己卑下の象徴』か」

「なぁに?」

「『彼女』のきおくのいちぶだ。おれは、『石神』につくられた。『彼女』のきおくをもっている」

「わかんないよ。ねぇ、あなたのなまえはなんていうの?」

「『な』はない」

「じゃあなんてよべばいい?」

「…………おれを、よぶのか?」

「そうだよ」

「それはあまりいみがない」

「どうして?」

「おれは、この『歪』の『番人』だ。ここからでることはないから、よびなをきいてもつかうことはないだろう」

「どうしてここからでられないの?」

「そういうふうにできているからだ」

「わからないよ」

「おまえこそ、『界』の『番人』だろ?」

「…………?」

「なにもしらないのか?」

「しらなくてもいいって、とぴあが」

「……そうか。だからおまえみたいなものが『歪』にまよいこんだのか」


 人影は少女――グレープに合わせて先を歩く。

 グレープも人影の後を追う。


「ここはどこなの?」

「『石神』は『歪』とよんでいる。『石神』が創った『世界』の『歪』。『自然発生した無の塊』だ。つうじょう、ここにまよいこんだ『生体』は、かたちをうしなう。おまえは『石神』だからだいじょうぶなんだろうが、それでもおれがいないとだめだ」

「そうなの?」

「まぁ、まよいこむ『生体』なんて、おまえくらいのものだろう。おれもはじめてだ」

「なにが?」

「こうして、『言語』『形』『意思』をもったのは」

「…………?」

「へんなのはおれか。『無』が『有』になってはいけないのに」


 『無』の言う事がグレープにはさっぱり解らない。

 だが、『無』の放つバリトンの……その響きがどこか哀し気なことに、グレープは気づいた。


 やがて、二人が歩いてゆく方向に、光が見えた。


「むかえがきてるぞ」

「え?」


 光は徐々に大きくなってゆく。

 微かに少女を呼ぶ声が聞こえてきた。

 影は、歩を止めた。


「どうしたの?」

「おれがすすめるのはここまでだ」

「え?」

「あのひかりにむかってあるけば、もとのせかいにもどれる」

「なんで? あなたはこないの?」

「いっただろう。そういうふうにできているんだと」

「…………」

「はやくもどれ。ここはまぶしくてかなわない」

「……また!」

「…………?」

「また、あそびにくるからね!」


 そういって少女は光に向かって駆け出した。

 後ろで、影が何かを叫んでいたようだったが、自分を呼ぶ声が大きくなった為に聞こえなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ