やる気のない兄と追放されそうな弟
洗礼の儀
貴族が魔力を発現したときに魔法協会で受ける儀式である。
ヒューストン伯爵家の長男エディブロワと次男ジェイドの二人は同時期に魔力を発現した…
2つほど年が離れており、伯爵家内では弟のジェイドがかなり期待されていた。
というのも兄エディブロワは何をするのも遅く一部では〝知恵遅れもの〟とバカにされるほど、屋敷内でも外でも評価が低かった…
そのことに父であるヒューストン家当主ビスタも気づいており、期待をかけていたのは弟ジェイドであった。さらに母のアイナも先に生まれたエディブロワを気にかけつつも、この家を継ぐ者はジェイドであると思っていた。
だがその考えに至るのは何も周りの人間だけではない…
「ようやくこの日が来たな!ジェイ!!はははっ!影ながら応援してやるから頑張れよ!」
「家から放り出されるかもしれないのに、のんきだね兄さんは…」
「あははっ!解放されるんだよ!この息苦しい貴族の生活から!!もっとラクして生きたいの!オレは!!」
そんな会話をしつつ馬車は魔法協会に止まる。
すでに先を行っている伯爵と夫人は馬車から降りており、二人の兄弟もそれに倣い馬車を下り、協会内に入っていった…
大きな講堂に通され、洗礼の儀は始まった。
長々と祝詞が読まれ、前に立つ司祭のような男が魔法協会の副会長であり、魔法を授かったものの力を明確化する先導者という役割を担っている。
一人づつ前に出るように促され、副会長がかざす水晶の手の上に手を重ねる。
ただそれだけ…
どうゆう仕組みか知らんがこれで魔力の質が解析されるらしい。
魔力量のある程度の限界値、扱える属性、さらに固有の恩恵
しばらく祝詞が続き儀式が終わると水晶から光が放たれる。そして各々の魔力に関する詳細が浮かび上がる。
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エディブロワ・ヒューストン 9歳 ジェイド・ヒューストン 7歳
推定魔力量 2000超 推定魔力量 160
適性属性:全属性 適性属性:なし
固有:前世干渉 固有:交渉
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この表示に一番最初に反応したのはエディだった!
「ぬおおおお!!改ざん改ざん!隠ぺぇぇぇぇい!!うおおおお!!」
「ちょっ!兄上何してんだよ!ちゃんとした儀式なんだよ!」
「知らん!ヤダヤダ!異世界スローライフしようと思ってたのに!このままじゃ!!このままじゃああああ!!」
「仕方ないでしょ!兄さんなんだから!あれくらいの数字は出るよ!」
そんなやりとりが行われている後ろでは伯爵と夫人、そのお付きの者たちがうろたえていた。
「どうゆうこと?今エディの魔力が2000超って出てたわよ!何かの不具合じゃなくて?私の魔力感知じゃほぼ0なのよ!」
「わ…わからない。だがジェイドの数字は我々が感じられるのとさほど変わらん!それに全属性と出ていただろう!そんなこと普通はあり得ない!何が起きているのだ!」
「それにスキルよ!一瞬で切り替わってしまったけど、あれは本当にエディがやったの?どうゆうスキルなの!」
「まずは家に戻ってからだ!すぐに準備を!副会長殿!今の表記は本物なのだろうな!」
話は前で式を行っていた副会長に振られるが今までにないことにこちらも動揺していた。
「わかりませぬ…ですが水晶に込めた魔力は記載された数字のように感じます!このことは教会全体で共有すべきことにございます!」
「待ってくれ!まだ!確定ではあるまい!数日だ!数日時間をくれ!」
「しかし、これは我々にとっても由々しき事態で!」
「分かっている!だからこそだ!大事にする前にだ!事実を一旦整理する時間をくれ!全体で共有するのは待ってほしいという話だ!」
「…わかりました、ですが上層部にすぐ広まることは避けれませんよ!」
「ああ!それでいい!帰るぞ!ジェイド!エディ!!!」
「兄さん!暴れないで!」
「クソオオォォ!!!どうしてこんなことに!!!」
「いやどう考えても魔力使えること隠してたのが悪いでしょ!!」
「ふんぎぃぃぃぃやぁぁぁ!!」
衝撃の事実が兄弟の会話から漏れつつもヒューストン一家はすぐに馬車に乗り込み帰っていた…
「ダイノス副会長!こちらの報告書ですがどうされますか?」
「はぁ~面倒なことになりましたね…まずは会長だけに事情を話します。あなたもできるだけ黙っているように…それと魔力発現報告の遅延に関しての証拠も集めておきましょう。どういった経緯でこの事態になったのか知っておく必要があります」
「我々だけで…でしょうか…」
「なるべくです…ある程度は仕方ありませんので、外部の諜報部員を使うことも許可します。どうせ2,3日で結論は出るでしょう…」
それにしてもヒューストン家のゆとり子息があのように豹変するとは…あの方を評価していた人間はいったいどれほどいたのでしょうか…
-屋敷にて-
「どうゆうつもりだ!今までなぜ隠していた!エディ!!ジェイドも知っていたならなぜ報告しない?」
伯爵家の執務室に呼びだされたエディとジェイド、席の隣には母アイナ夫人も不満気に座していた。周りのメイドも騎士も全く見抜けておらず動揺している…
エディの才能を知っていたのは弟ジェイドと3歳の妹キャロル、ジェイドとキャロルのお付きの侍従マルカとネイトの計4名のみであった。
「それはお話しできなかったからですよ。父上!兄上の魔法契約によってお話しできないようになっていたのです!」
「なぜそんなことをした!エディ!!」
「…そんなこと……出来るわけ…ないでは……ないですかぁ~」
「兄上、その話し方やめて大丈夫ですよ!たぶんもうバレてるんで!」
「え?マジ…!でもこの人たち、オレに興味ねぇじゃん!ってわけでさっさとジェイドの次期当主しちゃってくださいよ!父上!」
唖然の室内…全員がこの軽いエディを見たこともなかった。
これまでゆとり令息として影で呼ばれてきたわけではあるが、ジェイドが生まれるまではしっかりもてはやされてきた。だがその中でも本当のエディを見抜けた者は少なかった。常に周りにいたメイドも、騎士も、つけられた家庭教師も…
ましてや忙しい父や母に気づける訳もなかった。結果、メイド長や家令などへの報告は過小評価が続き、屋敷内外での評判に繋がったのであった…
そんな風に周りを騙し、扱えるようになった魔法を隠しながら磨き、周りには何もできない貴族令息と誤認させ続けてきた。ジェイドが評価がされる中、のんきな将来を思い描いていたのだった。
だがエディの本性はジェイドにバレた!訓練場での稽古中のこと、屋敷内に紛れ込んだ使役前の魔物が不意に現れジェイドに襲い掛かった!騎士もそばにおらず絶対絶命の状況で魔物を一撃で倒したのがエディであった。その事件が事故かどうかが調べられ、落ち着くころには兄のことが語られなくなっていた。
おかしい…
あれだけのことが起き、騎士も目撃したはずなのにいまだにゆとり子息と嘲りを受けている兄…
マジメに訓練を受けず、隅で剣を振っているフリ。家庭教師の授業を抜けることもしばしば。そんな人が自分より優れた剣の使い手であり、知識も異次元に高い。関われば関わるほどその全貌が分からなくなる、いつの間にか兄を尊敬のまなざしを向けるようになっていった。
周りの評価を真に受け、何も見えていなかったことを反省しつつ、兄の将来を本気で心配していた。
どう考えても兄が家を継ぐ方がいいに決まっているのに、兄上は「ジェイに任せるよ!」とか「スローライフしたい」とか訳分からんことばかり…
でもいずれこの人の本当の姿はバレるだろうとは思っていた!
「なんでこんなシーンとしてんの?いや、ホント!南のアーデル…だっけ?あそこもらえれば満足だからね!どうすか?」
「兄上…それは無茶です!これだけの才能をあんな田舎に送り出すことなんてできませんよ!」
「ええ!?でも貴族と関わりたくないんよ!どいつもこいつも表面上だけのクソ人間どもじゃん!相手すんの疲れるだろ?隣のデブガエル子爵も何度殺そうかと思ったか…」
「それでも、この間の浸水被害を抑えたり、山賊制圧したの兄上でしょ!これだけの成果があって嫡男から外れるわけないでしょ!」
「頼む頼む!ジェイドがやってくれ!補佐はメッチャするから!なんならムカつく貴族どもぶち殺すくらいはするから!」
「兄上だって見たでしょ!僕の能力!あれじゃ頑張ったって次期伯爵は厳しいよ!」
「くっ!これがスキル:交渉か!?ぬっ…強力ぅ!」
「バカやってないで諦めてよ…補佐くらいならするよ…」
突然扉が開き、メイドの間をかき分け入ってくる影…妹のキャロルである。
「エーにい!!パパにバレたの?」
「うわっ!キャロルまで来たよ…」
「キャロル様!ダメですよ!旦那様方は話し合い中です!戻ってきてください!」
「えええぇ!!?ネイトのいじわるっ!いてもいいよね?エーにい!ジェイにい?」
「「仕方ないな、お膝に来なさい!」」
同じように振舞う兄弟の姿に未だに声が出ない侍従とその主。
妹を取り合っている間に再起動する伯爵。
「えええい!キャロル!外で待っていなさい!それか私の膝に来なさい!今は真面目な話をしているのだ!エディもジェイドも今回の件は隠していたということは王家や貴族派閥に咎められることはわかっているんだろうなっ!」
「そっ…そうよ!私たちだけでなく他の家にも影響が出ることなのよ、下手したら国を揺るがしかねないことをしたことを反省しなければならないのよ!」
「それは勝手に誤認した側が悪いのでは?」
「いや兄上だよ!」「そうだよ!エーにいが〝めっ!〟だよ!」
「ええぇぇ!?世知辛っ!じゃあ、とりあえずジェイドが次期伯爵内定でいいんだよね?」
「なぜそうなる?混乱を納めるためにもエディが…いや、ジェイドか?ん?どっちがいいんだ?」
「旦那様!正気にお戻りください!基本は長子相続です!ましてこの度エディブロワ様の才能の大きさも明らかになりました。これからはしっかり嫡男教育をエディブロワ様に!」
「だから、嫌だってば!どう考えてもジェイドの方が向いてるでしょ!」
「なら貴族の相手は僕がすれば兄上は次期当主になってくれるのかい?」
「ず…ずるいぞ!ジェイ!こんな面倒ごとを兄になすり付けるなんて!」
「逆だよ!話聞いて!!貴族同士のやりとりは僕がやるって!書類仕事とか領内のことを兄上がやってってば!そもそも全てをなすり付けようとしてるのは兄上でしょ!」
「くっ!何も言い返せない!」
「あはははっ!エーにい!おもしろぉい!」
「ではその方向でお願いします!父上!」
「もう勝手にしなさい!」
一時騒然となっていた屋敷は落ち着きを取り戻していた。
そして新たにエディに配置される人材の移動、これまでの認識の改善が早急に行われた…
これにより屋敷内にかかっていた認識阻害が解除された…さすがに屋敷全体で認識が正されると込めた魔力量を超えるので妨害が効かなくなる。
「いやだなぁ…何とか9年頑張ってきたのに、まさか弟の裏切りに合うなんて…」
「そんな言い方する?これが本来の在り方なんだよ…」
「マルカ!茶ぁくれ!でもさぁ~やりたくないんだよ!これから周りの手のひら返しも見たくないし…」
「それは兄さんの自業自得!ちゃんとしておけば、今の状況になってないだけだよ!」
「くう~!!どこまでも正論だな!この正論人間!やってしまった過去のことより未来を考えてよ!」
「ならまず信頼できる人を集めるところからじゃない?ふふふっ」
悔しい顔で指を折りながら心当たりのある人数を数え始める…
「でも兄さんのおかげで僕も命拾いしたよ…正直、適性属性なしなんて出た時は終わったと思ったよ。魔力を循環できるだけ…魔力量も期待できないんだから僕が追放されておかしくなかったよ…」
「あ!門兵のおっさんもいれれば7人はいるぞ!大丈夫だな!」
「話聞いてないのかよ!」
でも本当に兄には感謝している…何とかやっていけそうだ。信頼できる人の中に僕も含められてるみたいだし、この恩はしっかり返していきたい。ついでに魔力循環の効率的な運用方法も教えてもらおう!




