婚約者が「妹が病気になった」と言ってお茶会をすっぽかした話
今日は月に一度、婚約者との交流の為のお茶会の日。
季節は春、天気も良く風も爽やかなので野外でやろうと、庭園の木陰にテーブルを置き、お湯もお菓子も準備万端!
……しかし肝心の婚約者が時間になっても現れなかったのです。
「どうしたのかしら……あの方は時間にはきっちりとした方だと思っていたのだけど」
私が疑問に思っていると、使用人が慌てた様子で駆け寄って来ました。
「お嬢様、たった今これが届きました」
渡されたのは一通の手紙。サインは婚約者のものですね。
開けて読めば、今日のお茶会に行けなくなったとの詫びの言葉が慌てて書いたような筆跡ですが丁寧に書き連ねられていました。
理由は……妹が病気になった!?
「なんて事……これはもしや病弱な妹を優先して婚約者を蔑ろにするフラグ……!」
「お嬢様、恋愛小説の読みすぎでございます」
「そんな事ないわ! そもそも妹が病気になったら必要なのは医者だし、看病だってメイドがいるじゃない! 異性の兄が何の為に家にいなきゃいけないのよ!」
私にそう言われて目を見開く侍女。
「言われてみればその通りですね……」
「くっ、イケメンな上に紳士的だし能力もあって出世間違いなしな素敵な人だと思ってたのに! ああ私はこれから蔑ろにされ、じっと我慢をし続けなければならないのね……」
「……お嬢様……(つω;)」
「そして始まるザマァ! 不遇期間の長さと相手のクズさ加減に比例して増大するカタルシスの爽快感! くうっ! 燃えてきましたわーっ!」
「……お嬢様……(° Д °)」
ですがザマァには下拵えが肝心! まずは調査して証拠固めですわ! ふふふ、こんな事もあろうかと、孤児院に寄付金を出して才能ある子供を育てて作った諜報部隊が今こそ活躍の時!
「行きなさい影達! 我が婚約者の事情を調べ上げるのよ!」
「「「御意!」」」
「何か出た!?」
何処からともなく現れて一瞬で消えた影達に、何やら侍女がビビっています。……そう言えば諜報部隊の設立はお父様とお兄様以外には秘密でしたわね。失敗失敗、てへっ♡
……ですが、放った影達は誰一人戻って来ませんでした。私は帰って来ない彼等の報告を待ち続けます。その裏側で何が起こっているのか知りもせずに……
「はい? ロックダウン?」
王城から帰って来たお父様から私は思ってもみない話を聞かされました。
「ああ、どうも西方辺境で流行っている伝染病が、春の任官式でやって来た貴族により王都に持ち込まれたようだ。こちらではまだ報告はないが、貴族街の北区では既に何人も感染者が出ているようだ。致死率こそ低いが高熱で倒れて動けなくなる上にかなり感染力が強く、後遺症で数ヶ月目眩や歩行障害になるとか。
陛下はこれ以上の感染拡大を防ぐべく非常事態宣言を出し、感染者の多い地区を封鎖、そのほかの地区も不要不急の外出は避けるようにとの通達を出された」
……そう言えば私の婚約者様の領地は西方で屋敷は北区でしたね……
妹さんがこの春に王都の学院に入学する為に領地からやってくるとも聞いたような……
何やら侍女からものすごいジト目で見られている気がしますが、病気になったとしか手紙に書いてない婚約者様も悪いと思います!
そう言えば手紙はかなり慌てた書いたような字でしたね。急いでいたから忘れてたとかでしょうか? いえ、貴族なら家族が伝染病に罹患したとか軽々に家の外には出せない情報ですね。と言うかそのせいで伝染病の情報が広まってない疑惑。
と言うか情報収集に放った影達、北区封鎖されたなら帰って来れませんよね? こっそり帰って来て伝染病持ち帰ったりしたら最悪戦犯として処されちゃいますし。寝泊まりとかどうするんでしょう……あ、教会の施設が開放されるんですか。
ちなみに教会にいる神官様なら病気治癒の魔法も使えますが、その魔法を使うと病気がなかった事になる代わりに本来付くはずのその病気への抵抗力も付かなくなってしまうとかで、治療後の再感染のリスクが高くなるので、感染力の強い病気の場合はよほど致死率が高いか重症化しない限りは自然治癒に任せると言うのが王国での医療方針です。まあ貴族の中にはこっそり治癒してもらう人もいるらしいですけど。
そして三ヶ月後。感染は抑え込まれロックダウンも解除。王都もようやく落ち着きを取り戻したところで婚約者との定例お茶会も再開となりました。
「ようやく会えましたね、麗しき婚約者殿」
「はい、会えて嬉しゅうございます」
……いや気まずいーっ! めっちゃ疑ってましたー! ノリノリでザマァ展開考えてましたすいませんー!
思わず扇で顔を隠して俯いてしまいます。くっ、思い出し羞恥で顔が赤く……
「(えっ、なんか恥ずかしがって顔隠してる? うわ耳まで真っ赤じゃん、可愛い!)心ならずも約束を破ってしまい申し訳ありませんでした。埋め合わせとして今度装飾品でも贈りましょう」
「(いやいやそんなことされたら贈り物見るたんびにこの羞恥思い出す羽目になるじゃないですかー!)そんな、申し訳ありませんわ。伝染病が原因では誰が悪いと言う訳でもないのですし……」
「(うちの妹とか何かと理由を付けて宝石強請るのに控えめな子だなー)お気になさらず。婚約者に贈り物をする唯の口実ですよ」
「(くっ、いかんこのままでは羞恥の象徴の呪いのアイテムが! せめて消え物……でも食べ物にしてとか貴族令嬢的にアウト! ハッ、そうだ!)……でしたら宝石なんかより貴方様との時間が欲しいですわ。この数ヶ月会う事も出来ませんでしたし……その、観劇なり食事なりに連れていっていただければ……」
「(え! 宝石よりデートがいいとか可愛いかよ。クッソ、この子俺の事好きすぎだろ。ヤバいなんかクラっときた!)ははは、そうですか。ならデートプランを立ててお誘いしましょう」
「(よしこれで相手のメンツも立つし形に残る物もない! 私天才! フハハハハ!)はい! お待ちしています!」
「(うわ、めっちゃ喜んでるーっ! え、そんなに俺とのデート楽しみなの!? うわー、なんかうわー。俺もう駄目かもしれん)ええ、楽しみにしていて下さい」
その後、なんか相手の希望で結婚の予定が早まりました。
あと何か私の評判が「控えめで恥ずかしがりやの令嬢」ってなってるんですけどなんでぇ?
婚約者に会う度に顔を赤くしてモジモジする女の子が傍から見るとどう思われるのかっていう……




