勇者は目覚め、物語を始めます。
ーーー白い空間。
足音がしない。
地面を踏んでいるはずなのに、感触がない。
いつからそこにいたのか分からない。
ただ、目の前に黒い何かが座っている。
「君は誰?」
思わず尋ねてしまった。
というよりこれは人なのか?
「僕はーー」
うまく聞き取れない、
というよりノイズ?
疑問に思っていると、彼が尋ねる。
「そう言う君は誰なんだい?」
「僕は・・・」
思考が止まる。
あれ?
言葉に詰まる。 僕は誰なんだ。
「そうだよね。分からないよね。」
少しの沈黙。
唐突に彼が話し始めた。
「きっと君は多くの出会い、
いろんな戦い通じて強くなっていく。
そして世界を救う男になる。」
なんだ、急にどうした?
「・・・というよりそう決まっている。」
何を言っている?決まっている?
「僕がなし得なかったことを、
君ならきっと彼女を救うことができる。」
黒い何かが、彼の体から溢れてくるのが見える。
「ああ。羨ましいな。」
「妬ましいな。」
何かが少しずつ大きくなっていく。
「でも、もし・・・
どうしようもないと思ったら。諦めそうになったら。
僕を思い出して。
その時は力になってあげる。」
闇が僕を包み込もうとする。
圧倒され、僕は少し後ろに引き下がる。
その様子を見た彼は少し慌てて、体の中に戻す。
「ごめんね、少し怖がさせちゃった。」
「あ・・・いや・・・」
何でだろう、不信感も嫌悪感もない。
「ほら、もう行かないと。世界が君を待ってる。」
指を刺す方向を見ると扉があった。
さっきまでは、なかったはずなのに。
「う・・うん。それじゃあ。」
考えがまとまらないまま僕は扉の前に立つ。
ドアノブは嫌にひんやりとする。
力を込めて扉を押す。
思ったよりもずっと重い。
少しずつ開いていく。
開き切った瞬間、視界が白く弾けた。
◇
瞼が開く。
光が眩しい。
少しずつ視界が晴れる。
一面の空が広がっていた。
冷たい風が頬を撫で、何かが燃える匂いが運ばれる。
何か夢を見ていたような。
周りを見渡す。
瓦礫の山。倒壊した建物。
でも、ここから見える朝焼けは綺麗だった。
「ここはどこだ?」
体に傷はない。とりあえず動くには問題はなさそうだ。
「おはようございます。マスター。」
「ん??」
声が聞こえる。急いで周りを見渡すが誰もいない。
「マスター?どうかしましたか?」
女性の声が聞こえる。周りを見回すが声だけ聞こえる。
しきりに周りを見る。
「仕方ありませんね。」
突如自分の頭から光の玉が出てきて目の前で浮いている。
「光?」
「光ではありません。私はナビゲーター。あなたをサポートする存在です。」
「うわ。しゃべった。」
「・・・その反応は心外ですね。勇者様。」
「あ、その、ごめ・・・。って勇者様?」
「はい、勇者様。あなたがこの世界の平和を守るのです。」
「勇者・・・僕が・・・」
「今のあなたに記憶はないでしょう。
ですから今からこの世界について説明いたします。」
◇
「つまり、僕が戦うってこと?」
「はい、勇者様」
要は人類を滅ぼそうとする魔王がいて、
それに立ち向かう勇者(僕)がいる。
魔王は数百年に一度復活し、その度に討伐されてきた。
そして、今がその数百年目ってことか。
しかし、この内容だけなのによく喋るな、このナビゲーターは。
もう、日が高く昇っている・・・
「・・・あまり自覚がないようですね。
まぁ、いいでしょう。
冒険は始まったばかりです。
少しづつ理解していただければと思います。」
不満げな声色で先に行こうとする。
「あのさ、ちょっといい?」
「なんでしょうか、勇者様?」
「その勇者様ってやめない?
なんか偉そうだし、僕に合わないんだよね・・・」
「それでは、なんと呼べばよろしいでしょうか?」
「そうだな・・・よかったらナビゲーターが決めてくれる?」
「そうですね。」
数分の沈黙。
え?結構冷徹な人だと思っていたのに、
もしかして意外にしっかり名前を考える可愛らしいところある?
「ユス・・・」
「え?」
「ユス、正義を意味する言葉から取りました。」
「ユス。いいね、気に入ったよ。
考えてくれてありがとう。」
「もちろんです!
この名がいつか全世界に広がり、未来永劫語り継がれることになるでしょう」
姿は見えないが、少しどやっているのが見える・・・。
「そうなるように、僕も頑張るよ。
そうだ君は何て呼んで欲しい?」
「私ですか?」
「ナビゲーターなんて呼びずらいしね。
よかったら名付けようか?」
「いえ、私にはちゃんと名前があります。」
「へー!教えてよ。」
「……私の名前は……。ナビとお呼びください。」
彼女が何か言いかけた。それには気づいていたが詮索はしない。
きっと何かあるのだろう。女の子だろうし・・・
「うん、分かったよナビ。」
風が吹き抜ける。目の前に世界が広がる。
これから僕の冒険が今から始まる!
「じゃあナビ!今から何をしようか!」
「それではユス。まずは服を調達しましょう。」
「・・・」
冷たい風が吹く。
「・・・・だよね。」
僕は裸同然だった。




