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勇者は目覚め、物語を始めます。

ーーー白い空間。

足音がしない。

地面を踏んでいるはずなのに、感触がない。

いつからそこにいたのか分からない。

ただ、目の前に黒い何かが座っている。


「君は誰?」


思わず尋ねてしまった。

というよりこれは人なのか?


「僕はーー」


うまく聞き取れない、

というよりノイズ?


疑問に思っていると、彼が尋ねる。


「そう言う君は誰なんだい?」

「僕は・・・」


思考が止まる。


あれ?


言葉に詰まる。  僕は誰なんだ。


「そうだよね。分からないよね。」


少しの沈黙。

唐突に彼が話し始めた。


「きっと君は多くの出会い、

いろんな戦い通じて強くなっていく。

そして世界を救う男になる。」


なんだ、急にどうした?


「・・・というよりそう決まっている。」


何を言っている?決まっている?


「僕がなし得なかったことを、

君ならきっと彼女を救うことができる。」


黒い何かが、彼の体から溢れてくるのが見える。


「ああ。羨ましいな。」


「妬ましいな。」


何かが少しずつ大きくなっていく。


「でも、もし・・・

どうしようもないと思ったら。諦めそうになったら。

僕を思い出して。


その時は力になってあげる。」


闇が僕を包み込もうとする。

圧倒され、僕は少し後ろに引き下がる。


その様子を見た彼は少し慌てて、体の中に戻す。


「ごめんね、少し怖がさせちゃった。」


「あ・・・いや・・・」

何でだろう、不信感も嫌悪感もない。


「ほら、もう行かないと。世界が君を待ってる。」


指を刺す方向を見ると扉があった。

さっきまでは、なかったはずなのに。


「う・・うん。それじゃあ。」


考えがまとまらないまま僕は扉の前に立つ。

ドアノブは嫌にひんやりとする。

力を込めて扉を押す。

思ったよりもずっと重い。

少しずつ開いていく。

開き切った瞬間、視界が白く弾けた。



瞼が開く。

光が眩しい。

少しずつ視界が晴れる。

一面の空が広がっていた。

冷たい風が頬を撫で、何かが燃える匂いが運ばれる。

何か夢を見ていたような。

周りを見渡す。

瓦礫の山。倒壊した建物。

でも、ここから見える朝焼けは綺麗だった。



「ここはどこだ?」



体に傷はない。とりあえず動くには問題はなさそうだ。


「おはようございます。マスター。」


「ん??」


声が聞こえる。急いで周りを見渡すが誰もいない。


「マスター?どうかしましたか?」


女性の声が聞こえる。周りを見回すが声だけ聞こえる。

しきりに周りを見る。


「仕方ありませんね。」


突如自分の頭から光の玉が出てきて目の前で浮いている。


「光?」

「光ではありません。私はナビゲーター。あなたをサポートする存在です。」

「うわ。しゃべった。」

「・・・その反応は心外ですね。勇者様。」

「あ、その、ごめ・・・。って勇者様?」

「はい、勇者様。あなたがこの世界の平和を守るのです。」

「勇者・・・僕が・・・」

「今のあなたに記憶はないでしょう。

ですから今からこの世界について説明いたします。」



「つまり、僕が戦うってこと?」

「はい、勇者様」


要は人類を滅ぼそうとする魔王がいて、

それに立ち向かう勇者(僕)がいる。

魔王は数百年に一度復活し、その度に討伐されてきた。

そして、今がその数百年目ってことか。

しかし、この内容だけなのによく喋るな、このナビゲーターは。

もう、日が高く昇っている・・・


「・・・あまり自覚がないようですね。

まぁ、いいでしょう。

冒険は始まったばかりです。

少しづつ理解していただければと思います。」

不満げな声色で先に行こうとする。


「あのさ、ちょっといい?」

「なんでしょうか、勇者様?」

「その勇者様ってやめない?

なんか偉そうだし、僕に合わないんだよね・・・」

「それでは、なんと呼べばよろしいでしょうか?」

「そうだな・・・よかったらナビゲーターが決めてくれる?」

「そうですね。」


数分の沈黙。


え?結構冷徹な人だと思っていたのに、

もしかして意外にしっかり名前を考える可愛らしいところある?


「ユス・・・」

「え?」

「ユス、正義を意味する言葉から取りました。」

「ユス。いいね、気に入ったよ。

考えてくれてありがとう。」

「もちろんです!

この名がいつか全世界に広がり、未来永劫語り継がれることになるでしょう」

姿は見えないが、少しどやっているのが見える・・・。


「そうなるように、僕も頑張るよ。

そうだ君は何て呼んで欲しい?」

「私ですか?」

「ナビゲーターなんて呼びずらいしね。

よかったら名付けようか?」

「いえ、私にはちゃんと名前があります。」

「へー!教えてよ。」

「……私の名前は……。ナビとお呼びください。」

彼女が何か言いかけた。それには気づいていたが詮索はしない。

きっと何かあるのだろう。女の子だろうし・・・


「うん、分かったよナビ。」


風が吹き抜ける。目の前に世界が広がる。

これから僕の冒険が今から始まる!


「じゃあナビ!今から何をしようか!」

「それではユス。まずは服を調達しましょう。」


「・・・」


冷たい風が吹く。


「・・・・だよね。」


僕は裸同然だった。


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