3、「FF」と書いて「えふえふ」と読みます
この物語くらい楽しく幸せであって欲しいです。
例の部屋の前で扉を見つめる僕と犬太。「立ち入り禁止」の文字は僕では無い「何か」が書いたもの。口で説明するより実際に見てもらった早いから来て貰った。
「じゃあ 開けるね…」
固唾をごくりと飲み込む犬太。そこまでハードル上げるようなものじゃ無いからリアクションに困るよ。開いた扉の先にあったのは
「クッサ!あっか!何これ!?」
凄く面白いリアクションしてくれた。部屋は赤くて、肌色の物体がいくつか動いていた。まぁ…気持ち悪いよね。
「えっと…僕の子供だよ?」
説明してる筈の自分に疑問符が付く。暫く見ないうちに分離する様になっていて驚いたから。昔はもっとスライムみたいだったんだけど。
「子供!?居たの!?」
「そりゃ先立たれたとはいえ結婚はしてたからね」
「お前の奥さん何もんだよ!?」
失礼な、人間ではあったよ。産まれてきた子供も人間ではあった。僕はその蠢く物体Aを撫でながら、どこから説明するか考えた。
「きっとおとなしい君が『フォル』だよね」
物体は肯定する様に縦に動く。もう一つの物体Bも撫でて欲しいのかこちらに近づいて来た。そんな異彩な場面を、犬太は口を開けて見ていた。
「それでこっちが『シモ』 『フォル』と『シモ』で『FF』だね」
「だね じゃねぇよどうして子供たちはそんな蠢く物体になってんだよ!」
「死んだんだ」
急に空気が重くなる。説明なんて得意じゃないし、要約して言葉を選んだつもりが犬太を傷つけた。
「でも生きて…生きてないのかこれ」
「僕の子供達は特別でね 『フォル』は周りに有害な毒を持ってて『シモ』はその毒を調和する回復力があった」
二つの物体が撫でられて喜んでいるのを脇目に見ながら説明する。犬太は明らかに怯えてた。
「協力しないと生きていけない双子だった子供達は苦難を乗り越え大人になった 人間らしく恋愛もしていた でもそれがいけなかった」
「恋愛くらい自由にしても…」
「シモはフォルのことを愛していた フォルは違う人を好きになった」
物体を撫でるのをやめて二つを無理やり近づけていく。
「シモは…フォルも望まぬ自分の子供も巻き込んで火をつけた」
飛躍した話に犬太は下を向く。二つだった物体は一つになりスライムの様になった。
「シモが再生力高すぎて死んだけど死ねなかった だからこうして蠢く物体になって人間に戻ることを夢見てるみたい」
「そんな悲しい話…」
「そんな子供達の父親が僕だよ 妻も子供さえ救えない愚か者さ」
気づけば涙が流れていた。もう振り向かないと誓っていたのに、事実を説明してみれば僕はこんなにも情けないのか。涙が止まらなくなり前が見えなくなってくる。そんな僕を犬太は、優しく抱いてくれた。
「辛かったんだな…俺がこのまま抱いてやるから今は沢山泣いていいぞ」
犬太の慰めなんて期待していなかった。僕は何も考えられなくなって、子供の様に煩く泣き出した。
暫くして、いつの間にか寝てしまっていた僕は「物体」に叩かれて目を覚ます。
「落ち着いて聞いて下さい 事情は大体分かったけど部屋が臭いままで良い理由はないのでダーリンが寝ている間に掃除をしました」
謎の敬語で説明してくる犬太。思えば確かに臭いがマシになっている。
「でも…なんでそんな理由で子供たちを部屋に閉じ込めてたんだ?」
「それは…当たり前でしょ他の人に見られたらどうすんの」
「『FF』はそれで良いのか!?」
「え…えふえふ?」
聞き慣れない名前に困惑する。まさかこのとても生物とは言えない物体に名前をつけたの?
「まだフォルテシモになれない未完成の存在!良いじゃんかっこいいじゃん!」
結構道徳無さそうな考えだけどいいのかな。
「これから3人…4人体制で探偵やっていこうぜ!なぁ『FF』!」
肌色の物体…「FF」は元気よく頷いた。
「夢があるなら全力で応援してやるぜ!俺はダーリンもその子供も愛してるからな!」
凄い、どんな凄惨な過去も犬太にとっては些細なことみたいで。泣いていた僕に発破をかけるなんて、僕はもう一度泣き出しそうになりました。
「しかし喋れないのはちょっとやり辛いよな 書いたりとか出来そう?」
えふえふに問う犬太を見て何かほっこりする僕。確かに意思疎通が難しいのは難点かも。
「喋った方がイイ?」
不意に知らない声が響く。犬太と僕は一回目を合わせて、それから声がした方に首を向ける。
「喋れるよ ちょっとタイヘンだけど」
FFの頭の方に口…というか穴が動いてた。かなり気持ちが悪い。
「ヒトになりたいから練習シタ これからヨロシクね!」
姿形こそ気持ち悪いが、もう聞くことは無いと思っていた子供の声に、僕はまた泣いてしまった。
「うん…よろしくね!えふえふ!」
昔に比べてしまえば歪すぎる家族になってしまったが、犬太のおかげでまたこれから未来を見れるようになったんだ。犬太にはどれほどの感謝を伝えれば良いのだろう。そんな犬太が何かを思い出し、気になったことをえふえふに聞く。
「そういやこの部屋なんで赤いんだ?」
確かに赤い。錆のような、ここだけ廃墟のような異質な部屋ではある。
「ココで死んだカラ!」
元気に言うえふえふに段々と顔が青ざめていく犬太。
「事故物件じゃねぇか!俺は逃げるぞ!」
バタバタと逃げていく犬太を見届けた後、えふえふを眺める僕。
なんだか懐かしい、人であった頃の「フォル」と「シモ」の顔を思い出したのでした。
あと犬太は幽霊が苦手だったみたい。失礼な。
過去ですから!明日はきっと楽しいカラ!




