【8話】洞窟
少年は丸一日を寝た。
外の光が差し込み、その光が洞窟を照らす。
少年は目を覚ました。
見慣れない洞窟らしき所の天井が見える。
普段と違う景色にやや慌てるが、前日にあった出来事を思い出して今までに至った経緯を思い出した。
食欲はなかったが、お腹が鳴ったのでポーチのポケットからクッキーを一つ取り出し半分に割った。
そしてその半分をポケットにしまい、半分だけを口に運ぶ。
普段のかび臭いパンじゃない、ほんのり香ばしい匂いがする甘いクッキーはとても身に染みた。
そして以前、一度だけ食べた事のあった味がして、何故か胸の奥が少し痛んだ。
不思議な感情で戸惑いながらも食べ終えた少年は洞窟の奥を見てみた。
まだまだ奥が深そうなその洞窟の果てが気になった。
少年は本能的に危険を予知して村を出てきたのだが、
実は何らかの明確な目的を持っていた訳ではなかった。
だから悩んだ。
洞窟を出て村からもっと離れるか、或いはこの奥を目指してみるか。
そして少年は間もなく選択の余地なんかないと悟った。
自分が寝てどれくらい経つのかはわからない。
ここがどこかもわからないし、まだ村の近くである。
村の人々は既に先の事件はとっくに知れ渡っただろう。
村中の人達が自分を探すために森を漁っているかもしれない。
下手したら村人が既にこの近くにいるかもしれない。
だが、ここはまだ見つからなかった。
だからここはまだ安全だ。
そう結論が出たのだ。
故に少年は洞窟の奥に進む事を決めた。
────────
洞窟の中は真っ暗だった。
入り口辺りは穴から染み込む日の光があったが、その光も奥に入る程、微かになった。
壁を手でつきながら歩いた。
そして洞窟の角を曲がったところで光が全く差さなくなった。
少年は持ってきた藁を地面に置き、マッチで火をつけた。
そしてフーフーと息を吹き込み火を大きくする。
とても汚れている藁は燃えながら一瞬、酷い悪臭を放つ。
燃料が藁だ。
この火は長持ちはしないだろう。
その火が消える前に少し急いで松明を当てた。
幸いな事に松明の布には松脂をたっぷり含んでいたらしく、火が十分な大きさでついた。
松明の火を頼りにまた先に進んだ。
小さな入り口の割にはとても深い洞窟だった。
何時間を歩いたんだろう。
道中で淡水が湧き出すのを見て、そこで一旦休憩する。
大分減った水袋の補充もした。さっき割ったクッキーの残りも食べる。
少し休んだ少年は更に深く深く潜った。
松明の松脂がなくなり火がどんどん小さくなっていく。
そのままどれくらい歩いたのだろう。
ついに松明の火が全部消えた。
周りは真っ暗で、前も後ろも分からない状態だった。
真っ暗になって何も見えなくなった少年はやや錯乱する。
慌てて必死に松明に火を付け直すが、燃料切れの松明は二度と火が付く事はなかった。
どうするか思案するうちに少年は疲労感に負け、つい瞼が重くなった。
大分地下に潜ったせいか洞窟の中は案外暖かかった。
少年はまだ幼い。
眠気に圧されそのまま眠ってしまった。
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幾時が過ぎたんだろうか。
少年は目を覚ました。
目を開けても真っ暗で何も見えない。
慌てる。
しかし体の疲労は大分取れた。
疲労が取れたことで余裕も少しできて、しばらくして落ち着く事ができた。
そして壁が微かに光っている事に気づいた。
松明の明かりよりもずっと弱く、見つける事ができなかった光だった。
洞窟の中をほんの微かに輪郭を映す程度だった。
三日月が出ている夜の森の中よりもずっと暗いだろう。
暗いのは変わらなかったが、それでも道標がある事に少年は安堵した。
そこで空腹を感じる。
少年は手探りでポーチからクッキーを出し半分に割って食べた。
重たい燃料切れの松明はその場で捨てた。
そして歩き続けた。
ひたすら歩いた。
足の裏は湿り始め、徐々に痛みを訴え始める。
おそらくボロい靴の底に擦られ、傷ができたのだろう。
それでも根気よく歩き続けた。
そして歩いて疲れたら、その場で休み、空腹を感じたらクッキーを食べた。
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魔物もいない、寒くも暑くもないこの洞窟で少年はただただ歩く。
しかし間もなく大きな問題を抱えた。
それは水だった。
クッキーという食べ物もあったが、元々少年は空腹に慣れていてとても我慢強かった 。
しかし喉の渇きはとても我慢が難しかった。
水を絶やした時には薬を水代わりに飲んだ。
しかしそれも絶やした。
松明があった時は水を探すのは容易だった。
この洞窟は淡水も豊富な方だろう。
稀に洞窟の壁に隙間があり、それを覗くとそこにはすぐに水があった。
しかし真っ暗になった今では水を探す事がとても難しかった。
喉が渇くとクッキーも食べられない。
食べると余計に喉が渇く。
それ以前に食べられない。
さっき乾いた喉で飲み込もうとしたクッキーを咽返した。
その際に食べかけのクッキーを落としてしまった。
結局、その落としたクッキーを見つける事はできなかった。
時間の感覚は既に狂っていてこの洞窟に入ってどれくらいかもわからない。
今が日の出なのか月の出なのかもわからない。
どこにいるのかもわからない。
全ての情報が遮られている。
そしてその状況での空腹と喉の渇き、そして視力の遮断は少年を窮地に追い込んでいた。
結局、少年は倒れた。
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