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忌子物語  作者: あむ
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【39話】お迎え

それ以降、ティアラは油断をせず、真剣にルナと組手をする。


実際、ルナの反撃により大きく転んだのは、焦燥感による大きな隙が原因だ。

ある意味では油断だ。

それをラークに注意されたティアラも、何か思ったことがあるらしく、午前中のルナの恨の訓練の傍でルナを真似るように瞑想をする。


これについてラークは特に何かアドバイスをしたことはない。


ティアラは基本負けず嫌いだ。

自分なりに必死に考えてたどり着いた答えは、心の制御、つまり瞑想であった。

特定の魔力結晶を出す訓練と連ねたのだろう。


魔力結晶を作ること。

心を制御すること。

ティアラにとっては同じようなものだった。

魔力を使うか、使わないかその違いのみである。


その成果はまだ見えてはないが、少なくともルナとの組手では、同じミスはしなかった。

真剣に取り組み、ルナに攻撃されないように隙を与えない。

だが、攻撃はしなければならない。

攻撃をすると隙が生まれる。

それを最小限に抑えつつ、攻撃と呼べる打撃をしなければならない。

また自然とティアラの接近戦の上達にも繋がった。


魔導士は基本的には学者である。

冒険者の場合でも必ずパーティメンバーと組む。

つまり、魔導士に接近戦の素養を持った人は稀だ。

接近戦を嗜む理由も、必要もない。


だが、ティアラは魔導士ではない。

勇者候補である。


そういうことだ。


──ちなみに、これを意識始めたティアラは、ルナにとっても以前より手堅く怖い相手となった。


──

そんな日々を送り、あっという間に三日が過ぎる。

今日は、特に問題がなければローバが戻ってくる日だ。


午前中の訓練を終えたルナとティアラは隠居地の大門の前で遊んでいた。

とにかく何が面白いのか、今はやや湿っている地面を木の枝で掘りそれを見ている二人。

周りには地面をキャンバスとして、枝でたくさんの絵が描かれていた。


それに飽きたらしく、二人は今、枝で地面を掘りながら何かを見ている。

アリか何かの虫でも見ているのだろうか。

とにかく真剣な二人だ。


ルナの足首には、午前中にずっと外していたアンクレットをちゃんとつけている。

アンクレットだが、一年以上肌身離さなかったこともあり、もう使い古された痕跡がいくつもある。

最初、真っ黒であった宝石の色は今は鮮明な紫色だ。


ちなみにルナとティアラに許可された外の範囲は大門前までである。

ティアレン森は危険だ。


午後の訓練は休みになった。

ローバを待ち続けていたティアラとルナへのラークの配慮だろう。


ふと、遠くから人影が見える。

地面掘りに集中している二人は気づかない。

その人影が近づいてきていた。


──ガサッ


何かが草と掠る音がしてルナは顔を上げる。

ティアラは気づかずに地面を掘り続けていた。


ルナの表情が明るくなった。

「おかえりなさい!」

「ふふっ、ただいま。」

大きな荷物を背負っていたローバは、ほぼ目の前にいた。

遅れて反応するティアラ。


「ローバ!!!」

掘っていた木の枝をそのまま投げ捨てローバに勢いよく走り行って抱きつく。

ローバはそんなティアラを優しく受け止めた。


「ティアラ、いい子にしてた?」

「うん!ちゃんと留守番したよ!」

「偉い!」

抱きつきじゃれてくるティアラに応えるローバ。

ルナにも話しかけた。


「ルナちゃん!少し見てないだけだけど、何だか背伸びてない?」

「え、そうですか?僕にはよくわからないです。」

「...ルナちゃん、ありがとうね。」

「?はい、どういたしまして...?」

「ふふっ、さあ、入りましょう!」

隠居地でちゃんと留守番をしてくれたことへの感謝だろう。


さっそく三人は隠居地の中に入る。

ティアラはずっとローバの手をつなぎ、くっつきっぱなしだ。


だが、隠居地に入って、まもなくローバと離れるティアラとルナ。

実は二人ともずっとトイレを我慢していたらしい。

隠居地に入ってすぐトイレに向かった。


ローバはそのまま食堂に入る。

ラークがいた。


「──おう、来たか。おつかれいー。」

反応が軽い。

食堂で何かを齧っているラーク。

ジャーキーだ。

洗ってきたのだろうか、髪は濡れていて上半身は裸だ。

いや、タオルを首に巻いている。

そんな姿で立ったままグチャグチャと噛んでいる。

正直醜い。


「ただいま。もう、またそんなだらしない姿で...。

ティアラとルナちゃんの教育に悪いですってば。

髪もちゃんと乾かしてください。

風邪ひきますよ?」

そのだらしない姿と軽い反応に若干不機嫌になるローバ。


「おー、帰って来て早々に怒涛の小言だ、こえーこえー。」

と食堂から逃げようとするラーク。

二人の仲は夜以降、随分と近づいた。


「むう...あっ、そうだ。ラーク様、待ってください。冒険者ギルドからお預かりしたものがあります。」

何かを思いだしたローバ。

逃げようとするラークを引き留める。


「お?」

ポケットから手紙を取り出し、それを渡した。


「ああ。ありがとう。」

そのまま立って、手紙の封を破る。

内容を読むラーク。

次第に表情が固まる。


「どうしたのですか?」

「...いや、何でもない。」

ラークの表情を見ては、不安になるローバ。

明らかにごまかそうとするラーク。


「いや、俺と組んでいるパーティーの連中の不満だ。

どこで何してるんだー!ってキレられただけだ。

ちゃんと誤魔化しておくよ。」

と言っているラークだが、普段のトーンより声も若干低く、表情も若干硬い。

普通の人なら気づかないだろう。

でもローバは王宮メイド出身だ。

ラークが嘘をついているとわかる。

だが──


「そうですか。何だか申し訳ないです。じゃあ、私は荷物の片付けがありますので、厨房に行きますね。」

そのまま厨房に入ろうとした。


「ローバ。」

今度はラークが引き留める。

真剣な顔だ。


「何ですか?」

返事もぶっきらぼうになるローバ。

そのことに気づいていない。


「おかえり。」

「へ?あっ、はい。ただいま。」

「──無事で安心した。」

言葉だけではない。

あれは嘘じゃない。

それを聞いたローバは慌てて逃げるようにもう一度言った。


「じゃあ、私は荷物の片付けがありますので、また後ほど!」

「おう。何か手伝うことがあれば言えよ。」

「はい。」


そして厨房に入るローバ。


「...ずるい。」

ボソっと呟いた。

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