【38話】理想
ラークは武家の貴族出身だ。
そこで三男として生まれる。
幼い頃から武と親しんで育ってきた。
武家の貴族らしく長男と次男は自然と騎士になった。
貴族の家で、特に武家という事で家は常に厳しかった。
実際、ラークは三兄弟の中で最も軍略の才を見せていた。
故に父はラークに期待を乗せ、更に厳しく当たった。
長男や次男からは妬みの視線で常に嫌がらせをされた。
そんな成長過程を経たラークは階級社会である騎士には絶対なりたくないと思う。
基本的には束縛される事が嫌いということもあった。
彼にとって最も魅力的だと感じたのは冒険者の戦士であった。
自由気ままに冒険をして、どこかに束縛される事なく飄々と世界中を旅する。
そして15歳になった日に家を出て来た。
家出だ。
冒険者になり、戦士になったのだ。
武家の出という事もあり、戦士としての武芸は十分過ぎる程だった。
戦略にも長けていた。
順調に冒険者として成長していた。
それだけではなかった。
ラークは知識人であり、執筆も積極的にする方であった。
彼の冒険の経験や昔から伝えられた冒険に当たっての決まり事、自らが持っていた戦略を基に冒険に当たっての理論を確立させ、冒険の基本となる礎石を建てた。
ラークはある時から戦士の在り方について悩み思案していた。
彼も根本は戦士なのだ。
最強の戦士を目指していた。
そして悩み続け、いくつかの根拠を基に一つ結論が出た。
一つ、敵の攻撃を常に完璧に捌く事ができ、最悪、防具を着けなくてもいい事。
一つ、どの状況でも柔軟に対応できること。
一つ、どの場合でも己の体力を最大限使わない事。
一つ、一人で冒険ができ、依頼を無事完遂・帰還できる事。
一つ、敵の注目を一身に受け、もしくは混乱を与えること。
一つ、もし味方がいる場合、味方の動きに自由を与える余裕を作ること。
ラークはこの時点で自分はこの理想の最強の戦士には成れないと悟った。
成れないのなら、後にはそういった戦士を見てみたいと所望する。
調査・研究を続ける。
色んな人と組織にコンタクトする。
古文書や単なる廃棄された理論書、そして危険を承知の上で禁書などを探し出し、耽読する。
特異体質に関して綴られた記録をいくつも見つけた。
これに興味を持ち、突然変異と言っても過言ではない特異体質を探し、検証していく。
ほとんどは単なる神話や伝説でしかなかった。
余談ではあるが、この時に極秘であるティアレン森の勇者候補についても知った。
恨に関する記録を見つける。
美しい翡翠の玉盤で作られた記録。
『──を恨■■■■る■神子■呼■■■者あり。
そ■■は■々より■愛され、畏■されし。
彼■■は神■にして、■平なりき。』
短い。
それに大分損傷して、読めない部分があった。
美しい玉盤、そしてその読めない内容が何故か印象に深く残る。
しかし、これも単なる伝説や伝承、もしくは虚勢が入った戯言と判断した。
この判断は東の果てで出会い預けられた一人の子により変わる。
その子とは短い縁だったが、一つだけ確信した。
恨は実在すると。
それからは恨に関する情報を集めた。
正確な記録や詳しい内容は何一つなかった。
共通していることは、愛されて、また恐れられていたこと。
その者の周りは何故か平和だということ。
ある時期からその者は忌み嫌われてしまい、迫害を受けたということだった。
東の果てで出会った子により、本質に関する推測も容易く出来た。
この体質は感情を増幅させるものだと。
塵のような情報を集めて、推測する。
そして最も高い可能性を示す結論を出した。
おそらく闇属性に関すること。
そして生半可な環境や魔力では、生まれないということ。
この条件に見合う場所を探すために、その候補をリストアップしていった。
その中で最も有力だった場所の一つがティアレン森だ。
ティアレン森は元火山地帯であり、生命と魔力の宝物庫だ。
そのおかげで強力な魔物の巣窟と名を馳せている。
こういう場所はいくつもある。
だが、ラークが行ってみようと決めた理由は一つだった。
情報の出処は色んな場所から出てはきた。
だが、信憑性が高い情報の出処が最も多かったのが、この森付近だからだ。
おそらく恨体質はティアレン森で最も多く誕生するのではないか、という仮説を出した。
だから闇雲にティアレン森の付近で最も大きいティアレン町に向かった。
向かったことはよかったものの、しばらく収穫は微塵もなかった。
情報すらもない、そういった記録すらもなかった。
町の長に聞いても、知っている様子はない。
昔、ティアレン町は、とある事件により大崩壊したことがあるらしく、その時に昔の記録は全て消滅したらしい。
ただ単に時間を潰している気がした。
そろそろ引き返して別の場所を探してみようと決断する。
もう一泊だけして、朝早く出ようと思った。
そんなことを考えながら、遅めの昼食を食べていた。
その時だった。
冒険者ギルドに一人の女性が駆け込んできたのだ。
言っていることが定かではない。
ティアレン町の者ではないらしいが、魔物の襲撃でもないし、身やその周りの危機とかじゃない。
自分でも何を言っているのかわからないが、とにかく冒険者をよこしてほしいと。
大慌てで言っていた。
だが、彼女が発した一つの言葉により、ラークはすぐ気が変わる。
──何故かはわからないけど、嫌悪感が増し続けている。
それを聞いたラークは思案する。
もしかしたら恨に関するものかもしれないとの可能性を考える。
今は幸い、その依頼を請け負う冒険者は不在らしい。
ラークは申し出た。
自分が行くと。
彼女の躊躇している様子と、ティアレン森が住処ということを聞いたラークは納得する。
ここに勇者候補がいることはすでに知っているのだ。
安心させるために身分を明かし、受付嬢にその保証をさせる。
彼女は渋々と承諾してくれた。
そして大急ぎで隠居地に向かった。
行きながら自己紹介を軽くする。
「ローバ」というらしい。
一見、戦う者には見えなかったが、実際に彼女の身のこなしや動きを見て内心感嘆する。
さすが勇者候補の保護者だと思う。
隠居地に近づいていくにつれ、ローバが明らかに違う様子を見せていた。
イライラし、焦燥感を丸出しにして、親切だった口調がどんどん変わっていく。
その様子をはっきりと感じ取れた時、ラークは自分の長い袖を巻き上げアンクレットを見た。
とある組織からもらった物である。
本来なら赤色である宝石が、紫に変わっていた。
確信する。
ここに特異体質がいると。
近づくに連れ、宝石の色はどんどん濃くなった。
隠居地に着き、早速案内してもらう。
例の者はもう勇者候補と一緒にいるらしい。
純粋なのだろう。
その影響を全く受けていないように見える。
その者がいる部屋に入る。
──見つけた。
その目の前に己の理想の潜在能力を持っている少年を。
その少年は実際、圧倒的な力やフィジカルという戦士の才能はなかった。
おそらく青年になっても、戦士としての力は凡庸、俊敏さも凡庸だろう。
これでは戦士の主力技である突進は威力も速度も劣る。
死ぬほど努力して、やっと一流戦士止まりだ。
だが、ラークの理想はそうじゃない。
この少年の反射神経と動体視力だけは同年代...いや、大人たちと比べても群を抜いていた。
村での、目的も意味もないはずの過酷な生活は、意図をせずに少年を理想の卵に育てた。
同意の下に、少年の可能性を信じて、強く、厳しく鍛える。
普通の子なら苦痛に苦しみ、泣きわめき、諦めるだろう。
だが、ルナは違った。
厳しい日々を黙々と耐え、こなしていく。
日々の地道な訓練の成果を実感する事はとても難しい。
だが、その地道な訓練での発展を信じ、努力を欠かさない。
そんなある日、急に調子がいいと思い、できるかもと試みたら、本当にできてしまう人は少なくはないだろう。
まさに今日のルナがその状態だった。
ルナは今、異常な速度で教わった事を体得、吸収していた。
数ヶ月の間、みっちり訓練しているのだ。
訓練中に果ててもそれを許さず別の訓練に入れ替え、全身の一部分が休む事はあっても、全身が休む事はほぼなかった。
それに加え、肉体の成長と損傷した筋肉の回復を促す為のたくさんの食事やラークとローバ特製の薬まで。
ラークのマッサージや温泉の効果もあった。
ルナの肉体は、それらを十分以上に吸収し成長していく。
体を消耗する。
そして回復をする。
それを高速で繰り返した。
ルナに自覚はなく、変な日と思っていたが、実は体調が絶好調だったのだ。
見えている、もしくは感じていると表現をしたが、実際はルナの目に見えるものではない。
日々の訓練の積み上げによる、頭と体の反射的な反応である。
一度掴めば、次からは難なくできる。
敵を目の前にして怯まない根性も持っていた。
頭もよく客観的な情報分析や思案もできていた。
常に冷静に相手や周りを観察する観察眼ももっていた。
今日、漆黒の長髪・金色の瞳を持つ少年、ルナは自分の理想として種を発芽させた。
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